エンディング1-2:奪われた者、遺された者

メイ:「――目を開きなさい、ハイド・バレンウォート」


 指先から放たれたのは、大きな閃光だった。ハイドの体に沿って、焦げ付いた影が残る。

 その行動の意味する所は、即座に理解できた。しかし、彼には理由が分からない。


ハイド:「……何のつもりだよ」

メイ:「アイリスについて調べていた時の事よ。ファントムヘイズの……ハイドの過去について、少し知ってしまった。貴方が犯した殺人は、到底許されるべきでは無い」

ハイド:「だったら――」


 今ここで始末すれば復讐も、断罪も。全てが果たされる筈だ。


メイ:「いいえ。視点を変えれば、それは私達だって一緒なのよ。

 UGNの任務で、FHセルを壊滅させた事もある。そこで殺した相手にも家族がいて……きっと、大切に想う人だって。だから――」



「もう、死神なんて消え去るべきなのよ」



メイ:「少なくとも、私はそう考えるわ」

ハイド:「お前……」


 何を言うべきなのか。ハイドが持つノイマンの頭脳を持っても、答えは出ない。

 会話の間に、僅かに戻った体力を振り絞り、身を起こす。

『本当にいいのか』『ありがとう』『悪かった』……脳裏に浮かんでは消える言葉を漁っても、言うべき正解は分からない。

 奪うばかりの死神だった少年には、答えなど持ち合わせていなかった。だから、


ハイド:「…………アイリスを頼む」


 自らの脚で立ち上がり、言うべき事ではなく、言いたい事を口にした。

 その時、微かだが声が聞こえる。二人が振り向くと、瀕死の状態でハイドへ手を伸ばすアイリスの姿を認める。


アイリス:「ぉ、……ぃ、ぁ?」


 言葉にすらならない、ただ空気が口から漏れ出したに等しい声。読唇どくしん術を心得ていても、マトモに口すら動いていない彼女の言葉は分からないだろう。

 だが、共犯者には分かってしまう。彼女は、こう問うているのだ。

『何処に行くんだ?』と。


ハイド:「……アイリス……」


 屈み込み、伸ばされた手を、優しく握る。

 身に着けた黒コートを脱ぎ、彼女の身体にそっと掛けた。


ハイド:「――ばーか、どこにも行かねぇよ。必ず迎えに来る。それまで安静にしてろ」

アイリス:「ぉ、ぅぁ。ょぁ……たそうか、よかった


 そう口にした後、アイリスはまるで死ぬように深い眠りに誘われる。口元は、安堵したように微笑んでいた。


ハイド:「眠ったか……それじゃ、行かせてもらうとするよ」

メイ:「……UGNの救護班はもう呼んである。後は任せなさい、ハイド」

ハイド:「ああ。……元気でな、アイリス」


 別れ際、眠る少女の髪を、触れるようになぞり。

 少年は朝焼けの街に、逆光に照らされ姿を消す。


 入れ替わるように駆け付けたUGNの救護班により、アイリスは救助された。

 ハイドの姿は、もう、見えない。

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