エンディング1-1:奪われた者、遺された者

 メイは傷付き倒れたアンの元へ駆け寄ると、必死に声を掛ける。……やがてその声音は、安堵あんどへと変わっていった。


ハイド:「(どうやら、間に合ったみてぇだな……流石はアイリスの見立てだ)」


 周囲を取り囲んでいたUGNは、大半が突破時に倒され、残りもアイリスの攻撃による余波で吹き飛ばされたようだ。

 その場で倒れるのはアイリスとアン。そして――ファントムヘイズだ。

 彼は痛む全身に鞭を打ち、アイリスに覆いかぶさる体勢から、仰向けに転がる。

 誰も彼もが動けない中、彼女だけ、メイだけは余力を残していた。

 アンの無事を確かめ終えたのか、彼女はそっとファントムヘイズへと近付く。


ハイド:「……猫宮メイ、か」


 視線だけを動かして応じる死神に、メイは静かな声で語り掛ける。


メイ:「どうやら、もう動く余力すら残っていないようね、ファントムヘイズ。……年貢ねんぐの納め時、とでも言うのかしら」

ハイド:「死神に年貢なんて――いや、そんな事はどうでもいい」


 一瞬、死神は夜空に視線を彷徨わせ、


ハイド:「……頼みがある」


 口にしたのは、敵である少女への、懇願こんがんだった。


ハイド:「アイリスに、治療を……。もし少しでも猫宮アンの件で、ほんの僅かでもいい、コイツに恩を感じているなら……頼む。

 虫のいい話なのは分かってる。けどコイツ……放っといたら死にそうなんだよ。

 だから……俺が取り立てられる唯一の恩を、今、返して欲しい……頼む――っ」

メイ:「言われなくても。アイリスは私の友人だもの。けれど――」


 死神の懇願に、そっと指を――オーヴァードにとっての凶器を突き付けた。


メイ:「ファントムヘイズ。貴方が彼女の快復した姿を見る事は無いわ。

 ……死神の遺言ゆいごんは終わりかしら? 出来れば、こんな所を人に見られたくは無いのだけれど」

ハイド:「……情けだ。ひとつだけ、アイリスに伝えてくれ」


「約束、守れそうにない。悪いな」


 遺言を、メイは冷ややかに。


メイ:「――悪いけれど、私は言伝屋ことづてやでは無いの。

 ……そろそろ夜が明けてしまう。そうしたらきっと、UGNの処理班が到着してしまう」


 突き付けられた指先に、光が収束していく。


メイ:「さようなら、ファントムヘイズ。手元が狂ってしまうから、苦しみたく無ければ動かない事ね」


 死神の視界は、光に呑まれた――。

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