EXシーン1:最後の娯楽
GM:まずはアイリスの”日常”を描くシーンだ。
登場侵蝕は振らなくて良い。
アイリス:了解した。シーンインだ。
アイリスは訓練用の仮想空間、そのスタート地点で
周囲には廃墟のような街並みが広がり、火災が起きているのか、黒煙が立ち上っている。
電気信号のみで形作られたこの仮想空間では侵蝕率が上昇することも、実体が怪我を負う事も無い。
あくまでアイリスという個体データを参照して作られただけの、実物と瓜二つの身体を精神で操作しているに過ぎないのだ。
これから始まる戦闘訓練は被弾回数がランキング形式で記録される。
数多くの訓練全ての一位に”アイリス”の名前が刻まれるかもしれない。
ただし──最後に残ったこの最難関コースに紐づけられている、”ローレル:被弾回数・1”のスコアを打ち破ることが出来れば、だが。
アイリス:「さて、今回はどのパターンで来るかな? まぁ、私のデータにはその全てが蓄積されている訳だが」
刀身が揺らめく片手剣を構え、油断なく……だが、どこか余裕のある表情で戦闘開始に備えている。
やがて、ゆっくりとカウントダウンが始まり──訓練開始のブザーが鳴り響く。
同時に九人の仮想エージェントが前方からアサルトライフルを放ってくる!
アイリス:「パターン
シミュレートによって構築されているとはいえ、統制機関の技術力は凄まじい。
仕草等の、人間を形作る全てが細部まで表現されている。
裏を返せば、その隙に付け入れば良い。アイリスにとって、それは何も難しい事では無い。
僅かな筋肉の躍動、視線の運び。それらを細部まで観察し銃弾の嵐を掠りもせずに掻い潜り……
アイリス:「まずは三つ」
たったの一振りで三人の首を断ち斬った。
至近まで肉薄した事で瞬時にアイリスへ銃口が向けられるも……その動きは素直過ぎた。
放たれた銃弾に合わせ、刀身を斜めに傾ける。計算され尽くした跳弾は吸い込まれるようにそれぞれのエネミーの眉間へ。
アイリス:「これで七つ。後は──」
流れるように二人の兵士を斬り伏せ、わざと近くの路地裏へ背部を晒す。すると潜んでいた十人目のエージェントがチャンスとばかりに大剣を振るう!
アイリス:「──これでTHE・ENDだ」
振り返る事無く身体を反らせ、紙一重で大剣の軌跡を
眼前には大振りによって無防備に隙を晒す敵の姿。
回避の勢いを殺さず跳躍し、空中で無様な首を斬り飛ばした。
アイリス:「……今回も予想外の展開は無い、か。つまらないな」
時間にして僅か三秒足らず。十人のターゲットを
飾り気のないその数字は0。続け様に表示されたランキングの最上部、1位の記録として”アイリス”の名前が刻まれた。
だがそれは同時に、
アイリス:「これで唯一の楽しみも終わりだな。……なんとも味気無い。これでまたつまらない日々に逆戻りという訳か」
声音には一抹の寂しさと落胆が含まれていた。
自由の許されない彼女には、娯楽と言える物など皆無だ。
アイリス:「致し方無いか。それが私なんだから」
小さくボヤくと同時に、周囲の景色は霧散するように掻き消えていく……。
現実空間に戻ってきたアイリスは、ポッド型の装置に横たわっていた。統制機関のデータベースに接続されたこの装置によって、戦闘訓練と同時に様々なデータが彼女の中に蓄積されている。
装置の外では天井から床まで、調度品ですら純白の密室が出迎える。
色も、不要な情報も取り除かれた部屋。ここが私の世界、その全てだ。
アイリス:「……殺風景だな。統制機関はこういった所で遊びが無いのがいけない」
色でも塗れないか申請してみようか、と他愛ない妄想を口にするも、言っていて馬鹿らしくなってしまう。
アイリス:「ま、十中八九却下されるか。……さ、惰眠にでも
虫の良い話だが、次に目覚めた時にはもう少し、マシな世界に──」
やる事は終わったとばかりにベッドへ飛び込む。人間風に言うのなら不貞寝だ。
──これが少女、アイリスの”日常”だ。
未来を夢見るAIはしかし、自ら夢の世界へと逃避する。
明日も、何ひとつ変わらないと理解しながら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます