EXシーン2:垣間見た”非日常”

GM:このシーンも先程と同様に登場侵蝕は振らなくて良い。

ハイド:OK、シーンインだ。



 ハイド・バレンウォートは実に9ヶ月振りの任務のため、所属しているFHセル”統制機関”の外へと足を運んだ。

 多種多様な店が立ち並ぶ街、その一角に位置するカフェテラスが舞台となるだろう。

 セルリーダーである管理者オーソリティからの任務は、定時に訪れる非オーヴァードUGN官僚の暗殺だ。

 ハイドは持ち前の隠密能力でビルの路地に身を隠しながら安穏とした光景を──彼にとっては”非日常”とも言える光景を眺めていた。


ハイド:「(あのサンドイッチ、美味そうだな……)」


 どこか状況にそぐわない思考を巡らせながら、イージーエフェクト《雑踏の王》で周囲の動向を俯瞰ふかんし続ける。


ハイド:「管理者オーソリティの奴もイイ趣味してるぜ。わざわざ白昼堂々と暗殺して来いとはね……ま、悪趣味はいつもの事か」


 愚痴を呟くと同時、その管理者オーソリティからの通信が届く。

 片耳に付けた通信機器越しに神経質な低い声が聞こえる。


管理者:「任務の最終確認だ、”ファントムヘイズ”。定刻通りにUGN官僚、猫宮サイがSPを率いて屋外の席へ現れる。その5分後、別のエージェントが店内にて騒ぎを起こす手筈だ。

 お前は隙を突き、神経毒が充填された注射銃を用いて標的を殺せ。以上、質問は?」


 淡々と殺人計画が語られるも、ハイドはそれに慣れ切った様子で返答する。


ハイド:「ねぇよ。アンタの事だ、どうせ状況全部を掌の上で動かしてんだろ? だったらそれに乗ってやるさ」

管理者:「よろしい。作戦の失敗は許されない。……君の父上、ルシサス・バレンウォートは詰めの甘い男だった。同じ失態を演じるなよ」


 一方的にそう告げると、通信は切断された。時計を確認すると、間もなく定刻だ。


ハイド:「けっ。だから悪趣味だってんだ。さて……来たか」


 エフェクトによって拡大した感知範囲内に、暗殺対象が来た事を察知する。

 いつもと同じカフェラテを注文し、屋外のテラス席へと出てきたその男性はスーツに身を包み、いかにも人の好さそうな顔をしている。

 SPとして容姿が似た二人の子供の姿があり、家族連れを装っているのかもしれない。

 それぞれ白と黒の服を纏った髪の長い子供達は、十中八九、UGNチルドレンだろう。

 彼らが席に落ち着き、ちょうど5分後。

 店内のカウンターで金髪の軽薄そうな男が女性店員に絡み始め……官僚を始めとするSP達も、僅かに気を取られた。


ハイド:「さーて。お仕事お仕事っと」


 隠密状態を維持したまま、UGN官僚に近付いていく。

 途中でウェイトレスから水の入ったコップを拝借しぬすみ、自分と暗殺対象を挟んだ反対側に放り投げる。

 重力に従って落下したそれは派手な音を立てて割れ──カフェにいる全員の注意が、そちらに引き寄せられた。

 そうしてハイドは護衛の視線とは逆方向から獲物に忍び寄り──


ハイド:「(あばよ)」


 ──静かに、注射銃を押し当て神経毒を首元から流し込んだ。

 数分もしない内に毒が回り、気付いた時には手遅れになっているだろう。


ハイド:「…………」


 つまらなそうに顔をしかめたハイドは、騒ぎが起きるより先に現場から姿を消す。

 その両手には空になった注射銃と……カフェの客から盗んだサンドイッチが握られていた。

 早々に離脱する彼だが、黒服のUGNチルドレンがふと不思議そうな視線を向ける。

 だが直後に官僚が崩れ落ちたことで注意が逸れ──それ以上、彼の姿を捉える事は無かった。

 騒然となるカフェを背に、死神ハイドの姿は陽炎のように消えていく。


 ──これが少年、ハイド・バレンウォートの”日常”だ。

 他者の注意を逸らし、標的の命を奪う。

 どれだけ時が経とうとも変わらない、死を運ぶ日々だ。

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