クライマックス2-1:歪な憎悪
先に膝を突いたのは、執着心の差か、メイだった。感情的になり過ぎたアンは、これ以上の戦闘はジャーム化の可能性すらある。
抑制の効かない狂犬ともなれば、大きな障害にもなり得ただろう。しかしそれを、未然に阻止することに成功したのだ。
メイ:「……良い子ね。撤退しましょう、アン」
苦い顔を浮かべながらも、メイに肩を貸そうとするアン。だがそこへ――
オディウス:「おいおい。その程度か、お前の復讐心は」
――姿の見えないオディウスの声が、廃墟に響き渡った。
ハイド:「この声ッ……! テメェ、やっぱり見物してやがったか!」
アイリス:「やはりな……。メイ、アン! 逃げるんだ!! 彼は――」
二人の声を掻き消すように、オディウスはアンに語りかける。
オディウス:「よく思い出せ。猫宮サイとの日々を。これから迎える筈だった日々を。
眼前の男はそれを――お前の大切な存在を奪った。そうだろう?
なら今度は、お前が奪う番だ。どんな犠牲を払おうとも、それだけを考えればいい。
大切な物を奪え。でなければ不公平だ……そうだな?」
ハイド:「クソが、どの口で喋ってやがる……猫宮サイ暗殺には、テメェだって関わってただろうが……ッ!」
GM:Eロイス《憎しみの楔》を宣言。アンが持つメイのロイスをタイタス化させる。
更にEロイス《潜伏憎悪》を同時に宣言。アンにバッドステータス:憎悪を付与。対象は、アイリス。この憎悪は解除されず『新たな憎悪で上書きする』ことでのみ解除される。
ハイド:うぉ、そう来るか!
オディウスの言葉で、アンの目から光が失われていくのを視た。
何にも代え難い家族の絆。それを彼は踏み躙って、アンをけしかけようとしている。
アイリス:「(それは視れば分かる。なら、目的はなんだ?)」
「……それほどまでに憎いのかい? 私かハイド、もしくは別の何かが」
疑問が芽生えれば問わずにはいられない。それが彼女の
オディウス:「……ああ。憎いさ」
答える彼の声は、今まで聞いてきたオディウスの声ではなく――
「この
――
アイリス:「……そうか。私よりも活動年数が長そうな癖に、君も随分と視野が狭いんだな。まるでローレルや少し前のハイドのようだ」
ただ冷静に分析し、自らの想った事を口にする。
世界はこんなにも広くて綺麗な所がある。だというのに、
アイリス:「その全てを消し去る、か。ならば私の方針は決まった」
彼女は歪な剣を……窓から覗く月光を映す美しさを秘めたそれを、
アイリス:「私は刺激を欲している。まだ視たりぬ景色がある」
姿の見えないオディウスに初めて、刃を向けた。
アイリス:「それを消し去ろうとするならば……」
「――お前は私の敵だ」
淡々と、しかし決意を持った声音で宣言した。
彼は、倒すべき敵であると!
野放しにしてはならない。世界の存亡などではなく、アイリスという名の個体が持つ欲望の障害として、オディウスを排除しなければならない!
アイリス:オディウスにロイスを取得。感情は執着と敵愾心。ネガティブが表だ。
ハイド:「まぁ、元々味方だと思った事も無いが……アイリスの敵だってんなら、俺にとってもテメェは敵だ。
オディウス。いつか絶対、その余裕ぶった
オディウス:「好きにすると良い。最終的に目的を果たすのは、私に他ならないのだから」
言葉を残し、オディウスの気配は遠ざかる。
暴走を始めたアンと、その隣で声を掛け続けるメイだけが二人の前に残された。
メイ:「アン! しっかりして、アンッ!」
耳に届かないのか、アンはぶつぶつと「奪う……殺す……」と呟き続ける。
その周囲には途方もない闇が
アイリス:「……行こうハイド。オディウスの野望を阻止するため、君の過去に決別するため。
そして何よりも――他の誰でもない、君の手で彼女を救うんだ!」
ハイド:「……正直、誰かを救うなんて柄じゃねぇ」
ハイドは自身の右手を見やる。
命を刈り取り、何ひとつ掴み取る事も出来ずに零れ落ちる手。
今なお死神の得物を――拳銃を握り続ける手に、力が籠もる。
ハイド:「けど、これも俺が蒔いちまった火種だ。それに――」
メイに一瞬視線を向け、並び立つアイリスの
ハイド:「――友達なんだろ。だったら、その妹の面倒くらいは見てやらねぇとな」
戦闘痕の目立つ身体に鞭を打ち、強がるように笑ってみせる少年の姿に、心強いと少女は微笑んだ。
アイリス:「それでこそだ。やはり私は、君の隣がいい」
静かに剣を構え直すと、最後の謝罪をした。
アイリス:「メイ。君の妹を傷付ける事でしか止められない私を、どうか
アン:「もう、奪わせない……何も……誰もッ!」
アンの絶叫と同時に、沸き立つ闇が弾け飛ぶ! 辺りは一面の、闇に包まれた――。
アン:「私に空いた穴を、お前で埋めさせろ……ッ」
闇が晴れると、廃ビルの一角は崩れ去っており、街並みが遠くに見えた。
アンから強い飢餓の衝動が叩き付けられ、レネゲイドがざわめく!
GM:衝動判定だ! 難易度は9、侵蝕上昇は2D。判定どうぞ!
アイリス&ハイド:(それぞれの出目を確認して)成功!
そして侵蝕を2D10上げてもらった結果がこちらだ。
アイリス:侵蝕率 101 → 112(+11)
ハイド :侵食率 107 → 127(+20)
ハイド:おいおいおいおい、温まってきたぜ(震え声)
アイリス:わぁ……やったね、これで君もダイス不良の仲間入りだよ!
GM:嫌な仲間だなぁ(白目)
アイリス:なに、私もすぐに追い着くさ(笑)
GM:戦闘条件を開示します!
敵はアンのみ。アイリスとハイドは同一エンゲージで、彼我の距離は3mだ。
戦闘終了条件は『アンを戦闘不能にする』。
また、アンにはバッドステータス:憎悪が掛かっており、対象はアイリスとなっている。この憎悪は『別の憎悪で上書きする』事でのみ解除される。
ハイド:ふむふむ、了解だ。
アイリス:ハイドのRDロイスを使えってGMが圧を掛けてるね。
GM:そして、もうひとつ大事なアナウンスがある。
2ラウンド目、アンの“本来の”手番に入ると同時にEロイス《飢えの淵》と《
ハイド:75億×50点のHP上昇……それも2ラウンド目で!?
アイリス:これは……初手から全力だね。
ハイド:そうだな。手加減は無しだ。
GM:ふふふ。それでは、戦闘前口上をどうぞ!
アイリス:「……(侵蝕率の上昇スピード、並びに衝動の強さを元に、アンが堕ちるまでの時間を仮検証)」
ノイマンに匹敵するその思考回路をフル回転させ、未来の可能性を予測する。
アイリス:「ハイド。アンに残された時間は僅かだ。さらに言えば、時間を長く掛ければ掛ける程こちらの勝率は低くなっていく。そのため、短期決戦で事を収めなければならない。 だから……“アレ”を使おうと思う。幸い、アンの目は私に釘付けだ。不意などいくらでも突けるだろう」
少年に、意識を向ける。
ハイド:「……分かった。この状況だ、俺も出し惜しみはしねぇ。
切るべき
少女と、視線が交わる。
アイリス&ハイド:「頼んだぞ、ハイド」「頼むぜ、アイリス」
GM:クライマックス戦闘2を開始します!
ラウンド1、セットアップ!
アイリス:早速だが行かせてもらおう。
『ラストラン』を宣言! シーン間の攻撃力+10、判定ダイス+10、侵蝕率+20。そして自身にバッドステータス:暴走を付与だ!
アン:《幻影の騎士団》を宣言。ラウンド間、1点でもダメージを受けるまで攻撃力を+15! しかし同時に《幻影の騎士団》が《超人的弱点》に指定されているため、攻撃力+15の効果中に受けるダメージは+20される!
アン:「殺して……終わらせるんだ。全部奪って。全部……全部ッ!」
アイリス:「――
アイリスの背中に、レネゲイドで構築された光翼が現れる。
アン:「そんな光、私の闇で塗り潰してやる――!」
GM:イニシアチブ、ハイド・バレンウォート!
ハイド:OK、行くぜ。
【ハイディングダッシュ】:《陽炎の衣》《光芒の疾走》:マイナー:〈-〉:自動成功:自身:至近:侵蝕率+4:メインプロセス終了時まで隠密状態となる。戦闘移動を行なう。
隠密化と5m後方に下がりつつ、メジャーだ。
【ファントムバレット】:《コンセントレイト:ノイマン》《マルチウェポン》:メジャー:〈射撃〉:対決:単体:15m:侵蝕率+5:攻撃力+20+4D
GM:こちらは割り込み宣言は無い。判定どうぞ!
ハイド:達成値は――、微妙に回らん! 達成値27だ。
アン:ドッジを宣言。判定は――10。失敗か。
ハイド:怖い数字だ。ダメージロール! ――、《超人的弱点》を含めて75点ダメージだ。
GM:痛い!?
ハイド:「…………(考えろ。どうすれば隙を作れる。どうすれば、俺の手札で最大の効果を狙える)」
隠密化しながら、思考を加速させる。そうして導いた答えは……先程と同じように、二丁銃による同時射撃を行なう事だ。
アン:「同じ行動、同じ手札……対処法はもう考えてある!」
一瞬だけ自身を闇に包みながら、横に跳躍して弾丸を回避したアン。だが!
ハイド:「かかったな。曲がれ……ッ!」
ノイマンの
ハイド:「弾を曲げる手札が、自分だけの特権だとでも思ったか?
あまり死神を舐めるなよ」
挑発し、敵意を煽る。次の
撃ち抜かれた腕を押さえながら、憎しみに満ちた目をアンは向ける。
アン:「(けど、死神の弱点は隣の――)」
思考が、止まる。見えない憎悪に、阻害されて。
アン:「(名前は、なんだったか。サイさんの、好きな花と同じで……)」
思い起こせない。話した筈だ。だというのに、彼女の名前すら――。
GM:イニシアチブ、アン!
アン:【シャドウ・ルミナス】:《コンセントレイト:エンジェルハィロゥ》《光の手》《イェーガーマイスター》《マスヴィジョン》:メジャー:〈RC〉:対決:単体:視界:攻撃力+45:自身はラウンド間ドッジ不可。シナリオ3回まで。
対象は憎悪の対象、アイリス!
アイリス:こちらはどの道、バッドステータス:暴走でリアクションは不可だ。来ると良いさ。
アン:命中判定、からのダメージロール! 60点、装甲ガード有効だ。
夜の
闇は膨張すると同時に熱量を持ってアイリスに襲い掛かる!
アン:「呑み込まれろ!」
だがアイリスは動かない。いや、動く事が叶わない。
大輪の華を咲かせるためには膨大な演算能力を割かねばならないためだ。
アイリス:「……ぐっ」
微動だにしないまま、闇に飲まれる。次第に闇が薄くなると、しかしその姿勢を崩さず。真っ直ぐにアンを見据えるアイリスが現れた。
アン:「これじゃ、まだ足りない……もっと……もっとッ!
必ず、殺すんだ。仇を――誰、の……?」
アイリス:アンのロイスをタイタス昇華して復活。
君は、その憎悪から立ち上がって貰わねばならない。でなければ……メイが悲しむから。
GM:次はアイリスのイニシアチブ……なのだがこのタイミングで!
アン:RDロイス《
RDロイス《
効果:指定したロイスの対象が戦闘に参加している場合に限り、イニシアチブ時に宣言できる。ロイスの対象に重圧を付与する。
この重圧はタイタス昇華を含む、あらゆる手段で解除することが出来ず、クリンナッププロセスに自動で解除される。ただし使用と同時にSロイスをタイタス化しなくてはならない。
アン:Sロイスは猫宮サイ。これをタイタス化させる。
そして指定するロイス対象は、ファントムヘイズだ。
バッドステータス:重圧を付与し、このラウンド間のオートアクションを封じる!
アイリス&ハイド:《鏡の盾》と《ラストアクション》が潰された!?
GM:イニシアチブ、アイリス!
アイリス:……出し惜しみは無しだ。
RDロイス《
GM:来るか!
闇を、光が照らす。それはメイが発する光のように暖かく、そして猫宮サイが愛した
そしてまた、華が咲く――。
アイリス:「……(これで、“二度目”か)」
八枚の花弁にて再構成された華。
おびただしいレネゲイドの
アイリス:マイナーで戦闘移動、アンにエンゲージ。そしてメジャー。
【アークライズ】:《コンセントレイト:オルクス》《ディストーション》《背教者の王》《原初の白:マシラのごとく》:メジャー:〈白兵〉:単体:至近:侵蝕15:攻撃力38+[侵蝕率÷10]
そしてこのタイミングでオートアクション《パーフェクトイミテイト》を宣言!:《原初の●》で取得したエフェクトの使用直前に宣言。Lv+2、シナリオにLv回:侵蝕3
GM:OK、判定どうぞ!
アイリス:判定達成値は――51。よしっ、ここで《妖精の手》! 最終達成値は……、64!
アン:攻撃の反動でドッジは不可。ガード値は無いけど、咄嗟に防御の姿勢を取る!
アイリス:ダメージロール!(出目を計算)装甲ガード有効の152点ダメージ!
GM:累計ダメージ、227点……戦闘不能――だが!
アン:《蘇生復活》を宣言! HP1で立ち上がる!
アイリス「アン、どうか死んでくれるなよ」
八枚の花弁が輝きを増し――そして
アイリス:「……――」
アンがこの一撃を受け止めきれるのか……それは賭けだ。負ければ彼女は間違いなく、死ぬだろう。
そうなれば、ここまでの頑張りが無駄になってしまう――そんな不安がアイリスの心を過ぎった時。
ふと、彼女の言葉を思い出したのだ。
『行け。アイリス、バレンウォート。……広い世界を感じてこい』
『――果たされない、私の約束の代わりに……』
ここには居ない、
アイリス:「(……そうだな。約束は、大事だ。時としてそれは呪縛という名の鎖になるが)」
だが、それでも。
アイリス:「(私は、ローレルの代わりに広い世界を! まだまだ感じるんだ!!)」
メイに託された想い。これは……暖かく、優しい。
この
アイリス:「――
愚直なほどに真っ直ぐな……
アイリス:「――
光の一閃が、放たれた!
それは命の輝きに他ならない。アンが纏う闇を
――だが地面に這いつくばろうとも、それでも尚、アンは立ち上がる。
執念か、あるいは……忘れつつある大切な、家族になれた筈の人への想い故か。
アイリス:……ここで、Sロイスを指定する。対象は、RDロイスでもある《薄桜の
GM:OKだ。続いてクリンナップ。ここでハイドの重圧は自動解除だ。
アン:《高速再生》を宣言。1まで削られたHPを60点回復。
GM:そして……!
アイリス:……そうだな。そして私は――
私は、RDロイスの効果で、HPが0になる。
アイリス:「…………」
大輪の華を背負う少女の、あんなにも眩く輝いていた花弁が点滅を繰り返し……儚く、砕けるように散った――。
アイリス:「――ぁぁぁああああッ!!」
同時に襲い来る、死にも匹敵する苦痛がアイリスの身体を蝕み、口からは大量の血を吐き出し、地に臥せる。
アイリス:「……ハイ、ド」
血を垂らしながら、ハイドに向かって首を向ける。言葉を発する度、口から血が溢れ出す。
アイリス:「すま、ない……私はどうやら、これ以上動けない、ようだ。
後を、任せたい……良いだろうか?」
弱々しい笑みを浮かべながら、
ハイド:「任せろ」
極めて短い即答。既に、彼は動いていた。
今すぐアイリスに駆け寄りたい。その衝動を抑え、“切るべき
ハイド:「(――休んでろ。後は、俺がどうにかする)」
双銃を握り締め、ハイドは最後の勝負に出る――。
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