第45話 別れの時間を十分間与える。サヨナラを言いたまえ。

「君たちは何か勘違いをしているね。人間にとってオモチャとはなんだ?シンヤ君、答えてみてくれ。君はどんな思いでオモチャを作っているのかな?」


「もちろん、子どもたちに夢を与えるためです。けど、でも……」


 シンヤは次の言葉が出なかった。妖精をオモチャにするなと言うなら、妖精は子どもたちに夢を与えないと否定する事になるからだ。倫理的に受け入れられないだけだろう。私は言葉を続けた。


「シンヤ君、このプロジェクトの利点を話そう。現在小さいオジさん族は都市伝説として片付けられている。つまりいるかいないか分からない噂だけの実態だ。しかし、我がスモールG 商事が世界初としてこの妖精をオモチャとして売り出せば、認知度が上がる。分かるかな、もはや妖精はこの世に存在するものとして大事に扱われるのだよ」


「……部長、あゆみそれでいいと思います。これからは妖精と人間が共存しあう世の中になってくれたら平和になると思います」


「あゆみちゃんは物分かりがいいね。そうだ。犬や猫は言葉を話さなくても十分人間を癒やしてくれる。妖精は思考がある、言葉も話す。そして死なない。どれほど人間を癒やしてくれるのかはかりしれないのだよ。」


 機械は壊れる。ペットは死ね。しかし妖精は永遠だ。私はここに可能性と魅力を感じる。


「……カケルさんとの契約では二千体が我がスモール G 商事のためにオモチャ志願をしてくれたそうだ。一体の販売価格は会長と社長が決める。君たちは宣伝に力を入れて欲しい」


「部長、確認ですが、この五人も販売されてしまうのですか?私はサトルとずっと一緒にいると約束しました。私の元からサトルがいなくなるなんて嫌です」


 お局仁美君が涙目で訴えて来た。やはり数日一緒に過ごした事で情が移ったのだろう。この点に関してはカケルと想定内で話し合ってある。


「……仁美君、大人気ないよ、君。一人の人がずっと一体を独占したら利益が出ないでしょ。二千体、この五人も入れて二千五体を回転させていかなきゃね。つまりお別れありきでレンタルするんだよ!」


 一体最低二万円とする。一週間でどれだけの人間が求めるかだ。緑ジャージは十万円出しても惜しくないだろう。なんせ病気を治すからだ。


「……もし、買い取りたいと言う人が現れたらどうするんですか?」


 課長がプルプル震えながら聞く。怒りなのか、緊張なのか。……買取はなしだ。いや、何千万と払える上級国民が求めるなら別の話だが。


「……無理だと思います。仲良くなったら離れたくないのが人情です。私だってもうワタルが家族みたいで……。別れるなんて嫌です!」


 ミナ君もウルウルしながら言う。なんだ、何だよ、みんな感傷的になって。一人暮らしのミナ君や仁美君だけじゃなく、課長やあゆみちゃんまで別れたくないと首を振っている。


「部長さん、あなたは一緒にいた事がないから、お金に目が眩んでそんな冷たい事が言えるんです。オレたちは、オレは少なくてもマサルに大事な事を教わったんだ。もうダチなんだよ!簡単に別れたくないんだ、なっ、マサル、マサルもそうだろ?」

 

シンヤはまだ挑戦的だ。私は往生際が悪い企画部の連中にイラついた。


「すでに、会長と小さいオジさん族長老カケルとの間で契約がされているんだ。カケルは自分の命の代償として我々に莫大な財産をもたらすと約束してくれた。ここにいる五人も納得して、私たちに忠誠を誓った。なあカケルさん」


 私はカケルに確認した、頷いている。命の恩人には逆らえないよな。サトル、シゲル、マサル、ミツル、そしてワタルも頷く。


「……仕方ない。会長が来る前に特別に別れの時間を与える。時間は十分だ。別れの儀式が終わったら君たちには営業会議にも出てもらわないといけないからな。いいか、十分で吹っ切りなさい!」


 私は企画部の連中に優しさを示した。大丈夫だ。そのあとは記憶操作で出会いから別れまで全て記憶を消してしまえばいいのだから。そのあとはシゲルの出番だ。


 それにしても、企画部の連中が妖精ごときに愛情を抱くなんて誤算だった。

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