第32話 こんなあゆみだけど、これからもよろしくね。

 翌日、ジュン君とスミコさんとパパと四人でお出かけ。今年もあと一週間。パパは休診にして二人の引っ越しのお手伝いをすると言う。今日はスミコさんの隠し貯金で家具を買いに行く。手元に三百万円あるんだって。シゲルさん目が点。


「……ジュン君、なんでも欲しいもの買って貰おうね」

「うん。ベッドと机が欲しいな」


ジュン君が満面の笑みで答える。やっぱりまだ中学生だもの。机は必要よね。


「次、洋服と靴も買いに行こう! 全部ブランド物で揃えちゃおう!」

 あゆみ、ジュン君に似合いそうな服を探すのが楽い。あゆみもジュン君とお揃いのジーンズを買ってもらう。今まで出来なかった事たくさんしようね。


───帰宅してすぐ、ジュン君をあゆみのすぐ隣の部屋に案内する。


「お正月からはここがジュン君の部屋だよ。広いでしょ。ここに机を置いて、ベッドはどこに置く? さっき買った靴と洋服はこのクローゼットに入れてね」


 あゆみワクワクが止まらない。だって弟が出来たんだもん。

「……これ」「えっ?」「この写真覚えてる?」


 財布から取り出した一枚の写真を見せられ戸惑うあゆみ。シゲルさんもいつのまにかあゆみの肩に乗ってのぞき込む。見たことあるようなないような。


「あっ、これあゆみ。もうこの時からタラコ唇なんだ。ふふ。で、こっちがスミコさんだね。桜の木の下で撮った写真だね。あゆみ制服姿だ。懐かしいなぁ」


 入学式の日のスミコさんとのツーショット。あゆみは持ってない。

「……これ、俺なんだけど」


 ジュン君が写真の右端を指さす。


「えー、この子ジュン君だったの!」

 

 あゆみこの子覚えてるよ。だって転んで泣いてたもの。あゆみ抱っこして頭なでなでしてあげ……ハッ、だからジュン君なでなでした時懐かしいと思ったんだね。短髪の触り心地が同じだったよ」


「どうしてあゆみに教えてくれなかったんだろう。ママもスミコさんも」


「大人の複雑な理由なんじゃないの」


 ジュン君がさらっと言う。大人だ。


 ジュン君大人だよね。聞いても大丈夫だね。気になってる事聞いちゃおう。

「……ねえ、ジュン君が盗んでいたいつものって何?」


 ジュン君は顔をしかめながら、総長の献上ゴムとボヨッキー先輩のおやつだと答えた。あゆみ呆然。コンビニスイーツが大好きだけどおデブで虫歯だから禁止されているらしい。あっ、それで前歯が無いのね。ってダメよ、万引きは絶対ダメ。そんな物のために、ジュン君使われたのね。あゆみボヨッキーにもビンタするからね。ジュン君ビビる。嘘、冗談。スイーツ大事ね。スイーツ?


 あゆみ思い出した! 昨日食べ損ねたチーズケーキ食べよう。そうだ、友達のブリュちゃんにカマンベール入りも美味しいって聞いたから今度作ってあげるね。


 ジュン君の笑顔がめっちゃ可愛い。あゆみ幸せ。早く来い来いお正月。



🔷🔹🔷🔹

 爽やかな月曜日。会社に着くとシンヤ先輩が二日酔いで気持ち悪そうにしていた。あゆみサービスしちゃおう。シンヤ先輩に濃いめのお茶を持って行く。


「私、新商品の企画考えてきたんです。聞いてくれますか?」

「もちろん、第三会議室行こうか!」


 あゆみは、ジュン君っていう弟が出来た事、本当の母親が分かった事を話す。シンヤ先輩はうん、うんって優しく聞いてくれる。あゆみ感激。シンヤ先輩大好き。


「だからなんで、勝手に入ってくんの! てか、誰だよシゲルって!」


 シンヤ先輩がいきなり叫んだ。ビエーン、あゆみ怖いよ。独り言なの。声大きいよ。シゲルさんの事一言も言ってないのに。何で知ってるの? あゆみパニック。


「ごめん、ごめんあゆみちゃん、ちょっとマサルが、あっ、何でもない」


 マサル? あゆみ分かんない。さっきシゲルさんの名前言ってましたよね?

シンヤ先輩も混乱した顔。二人で首を傾げているとノック音が。


「二人ともこんなところで何してるの? お昼行くよ!」


 ミナ先輩だ。もうこんな時間なの。お昼ごはんだ。三人で社食へ行く。


 あゆみ、この前食べたばっかりだけど、ご飯少なめのカレーを注文。席に着くと突然ミナ先輩が大声を上げた。


「ねえ、茹で玉子なんでワタルが剥いてるの? 私のなんだけど。やだ黄身だけ残すのやめてくれる! ちょっとワタル、お行儀が悪い!」


 ワタルって誰? ……まさか部長に言ってるの? 社食に部長いるのかな。

「ちょっと先輩、ヤバいですよ」あゆみシッとする。

「隣の席見て下さい。部長、大人しく座ってカツ丼食べてますよ! 行儀悪くないっす」


 シンヤ先輩が親指で部長を指す。こんなに近くにいたんですね。


 カツ丼ですか。あゆみ、部長に教えちゃおうかな。社食より美味しいカツ丼食べられる所知ってるもの。ふふ、ふふふ。


「あゆみちゃん、警察署あそこはあまり薦められる場所ではありません」


 わあ、突然シゲルさんが現れた。あゆみの福神漬け食べている。シゲルさん渋いね。漬物が好きなのね。ゴクリと飲み込むとシゲルさんがシンヤ先輩の方に向かって言う。


「……マサルさん、竹刀をマドラー代わりに使ってはいけません! それよりもうサトルさんが到着したそうです。……ワタルさん口を拭いて下さい」


 続けて、課長に向かって、


「ミツルさんも歌を歌ってないで行きますよ! 何ですか、そのハハハのハサンセンコクって。けど面白そうですね、僕にも教えて下さい」


 竹刀? マサル? サトルって誰? ねえシゲルさん、ハハハのハサンセンコクって何? あゆみ全く分からない。やっぱりあゆみおバカちゃん。


「……シゲルさんこんなあゆみだけど、これからもよろしくね」


「こちらこそ」シゲルさんは水谷スマイルで手を振るとパッといなくなった。


 

💙青いジャージ💙


名前      シゲル

身長      13センチ

体重      3キロ

特徴      優しい笑顔と語り口

好物      漬物  紅茶

趣味      俳優の水谷さんグッズを集める事

特技      人間の記憶操作





 


 


 


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