第31話 あゆみ、ご飯少なめでお願いします。
「大丈夫ですか? 怪我の具合は? ……救急車を呼びますか?」
カギを壊して入ってきたのは普通のお巡りさん二人。ジュン君の身体をあちこち触って確認している。あゆみ放置。えっ、あゆみも被害者なんですけど。
「……君がお姉さんだね! 弟さんは保護します。頬が赤くなっている程度だからね、君も事情聴取だけですぐ釈放でしょうけど、一応連行します」
あゆみ、ジュン君と別々のパトカーに乗せられる。サイレンの音で集まった people たちの視線が痛い。あゆみ何の罪? もう一度言います。あゆみ被害者です。
けど、あゆみ感激。パトカーに一度乗ってみたかったのよね。ラッキー。
「あゆみちゃん、脱出成功ですね、将来ある中学生の名を傷つける事もなかったですし。良かった、良かった」
ポケットの中から満面の笑みのシゲルさん。パシッ。ボヨッキーとトンゾラーとジュン君の為にあゆみを悪者にしたのね。バシッ。アウチッ! 大人しくなるシゲルさん。あゆみ、お嫁に行けないじゃん!
「大丈夫です。今の光景を見た全ての人の記憶を消しましたから。僕、こう見えて妖精ですから」
ドヤるシゲルさんの頭を撫でてあげた。あゆみ飴と鞭が好き。
近くの交番でサラッと事情聴取された。あゆみはジュン君の万引きの事は言わなかった。ジュン君が自分で言えばいいから。それよりどうしても言いたかった事がある。眼光鋭い年食ってるお巡りさんに声をかける。
「あの、すいません」
「……まだ何か? あっ、親御さんに連絡したからね。迎えに来たら帰っていいよ!」
「違います。あの何か忘れていませんか? パトカーに乗れたし、こうやってパイプ椅子にも座ったし、あっ、ライトはなかったけど、それは諦めます。でもカツ丼は? カツ丼一つ、ご飯少なめでお願いします!」
「……ぶっ、君、刑事ドラマの見過ぎですね」眼光鋭いお巡りさんが爆笑した。
───カツ丼の最後の一口をもぐもぐしていると、パパが迎えに来てくれた。
「……あゆみ、大変な目にあったね。ジュン君から聞いたよ。怖かったね。パパが迎えに来たからもう大丈夫だ。さあ、家に帰ろう!」
パパは半泣きであゆみを抱きしめてくれる。パパ、ありがとう。おシンコをもぐもぐしているシゲルさんをポケットに入れて、あゆみは家に帰った。
客間は昼間のまま。テーブルの上には封筒があり、すでにスミコさんとジュン君が座っている。重苦しい雰囲気。スミコさんが泣いている。
「あゆみちゃん、ありがとう。ジュンから全て聞きました。ボヨ、ボヤ、ボヨッキーの言いなりになって、ずっと万引きしていたと……。ジュンも罪を告白してお巡りさんと一緒にコンビニに行ったそうです。被害届けを出さないと言う事で……。けどジュンのやった事、親として情けなくて。いくらボヤ、ボヨッキーが怖かったからってやってはいけない事です。あゆみちゃんがビンタをしてくれたおかげで目が覚めたそうなの。ありがとうございました」
ジュン君も一緒に頭を下げている。ジュン君偉かったね。それより重要な事を思い出した。目の前にある鑑定書の確認だ。パパは知っているんだろうか?
「……パパ、私、ジュン君がパパの子だって聞きました。ずっと不安だったけど、今は弟が出来てすごく嬉しいの。だから見なくても大丈夫よ」
「あゆみ、ありがとう。パパはずっと前から知っていたよ。いや、正直に言うとパパが頼んだからね。あゆみに弟か妹がいた方がいいと思って」
頼んだ? あゆみ混乱。あゆみの為に? パパ、意味が分からないよ。
「だから、あゆみに納得して貰う為に DNA 鑑定書を持参して貰ったんだよ」
パパはそう言って一枚取り出してあゆみに見せた。
「……え、何! いや、ちょっと待って。えっ、あゆみの本当のママは……スミコさんって事なの?」
あゆみ大パニック。シゲルさんもムンクの叫び!
「……パパはママと結婚する前、スミコと付き合っていたんだよ。スミコに子供が出来た事も知っていたんだ。ママは子供が産めない身体でね、大親友のスミコさんがあゆみをママにと……」パパがゆっくりと話す。
「ここからは私が話すわ。……私はあなたのママが不憫で、ついあなたをあげてしまったの。責められても仕方ないわね。あゆみちゃん、ごめんなさいね。けどママはいつでもあゆみに会えるようにってこの診療所で働くようにしてくれた。あっ、覚えてる? ランドセル姿を見せにきてくれた事。隠れたのに見つかちゃって焦ったな。入学式の写真も撮ったね。私とあゆみちゃんのツーショットばかりをあなたのママが撮ってくれたの、すごく嬉しかったな」
あゆみ、思い出した。ランドセルをパパに見せておいでってママに言われたんだ。パパじゃなくてスミコさんに見せようとしたんだね。スミコさんの涙をパパが拭いていた事実も教えてくれた。キスしてたんじゃないんだね。
ふん? あゆみ疑問あります。ジュン君を作る事をママは許したの? 夫婦公認の子作りって一夫多妻じゃないですか!
「パパはママもスミコも愛していたからね。ママも幸せにした。スミコも幸せだったと信じてるよ!」
パパが微笑む。あゆみ不愉快なんですけど。
「ちょっと待った! 納得いかない事があるんですけど、いいですか、俺はお袋と二人でずっと貧しかった。同じ子供なのに不公平じゃないですか!」
ジュン君が怒鳴った。ジュン君のお怒りポイントは貧乏なんだろう。
「……ジュン君が困らないようにお金を渡してきたはずだ。スミコの口座に毎月決まった額を振り込んできたよ。なっ、スミコ、スミコはどこ?」
スミコさんはカーテンに隠れていた。毎月五十万円が振り込まれて八千万円の貯金があると言う。テヘペロってスミコさんお茶目。あゆみやっぱり親子だと確信した。ジュン君はやった! とガッツポーズをした。貧乏脱出だね。って喜びポイントもズレてるね。あゆみはジュン君と姉弟なのも納得。
「さあ、本当の事が分かった所で遅い夕飯にしょうか。パパお腹が空いた」
「私カレーを作っておいたのよ。あゆみちゃん、お腹空いたでしょ?」
「……うーん、あゆみ、ご飯少なめでお願いします!」
まだ食べるのかいってシゲルさんが微笑んだ。
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