第30話 あゆみが捕まっちゃうよね。

 ジュン君に頭突きされてボヨッキーとトンゾラーが鼻血ブー。

ふふ、ふふふ、あゆみ久しぶりに見ちゃった、思春期の男の子の鼻血。


「オイ。お前、なんて事しやがる!」


 ボヨッキーがジュン君の胸ぐらを掴む。

 こら、そのばっちい手を離しなさいよ。あゆみお怒りモード。


 ブー! その時、トンゾラーのスマホが鳴る。「オイ、総長が早く来いって!」

「……くっそ、ジュン、待ってろよ! いいな、警察に連絡しても無駄だからな」


 ボヨッキーはそう言ってジュン君を壁にぶつけた。あゆみお怒りモードMAXでボヨッキーの後頭部をペシペシし、


「あゆみの義理弟おとうとに手を出すな!」とジュン君の真似をした。振り返ったボヨッキーの顔がブッサイクすぎてあゆみ泣きそう。怖いよー。


「……さっきも言った通り、まだ弟と決まったわけじゃなくて、あっ、鑑定書持ってきますね。あゆみお家に取りに、あっ、そうでしたね。あゆみここから出られないんでした。ごめんなさい。……いい事思いついた。シゲルさんに行ってもらいます。ねっ、シゲルさん、あなた妖精なんだからひとっ飛びでパパの所から持ってきて下さい。でもあゆみとジュン君が姉弟って分かっても、解放してもらえないか。じゃ、シゲルさん、あなた妖精なんだから魔法が使えるわよね?」


「……?……」

 ボヨッキーとトンゾラーとジュン君、三人で目が点。


「……魔法でこのお部屋をメルヘンにして下さい! くっさいお布団を薔薇の香りに! 汚ったないカーテンをピンク色のレースに変えちゃって下さい! はい、シゲルさん、魔法をどうぞ!」


 あゆみ、三人の、いやシゲルさんも入れて四人の冷たい視線を感じる。


「誰だ、こんなヤバいおんな連れて来た奴。かかわるのやんめ。行くぞ!」

 ボヨッキーとトンゾラーが部屋に鍵をして家を出て行った。


───ジュン君と二人きりになった。お互い声がかけられない。


「……シゲルさん、どうしよう?」

 小声で聞くあゆみにジュン君は舌打ちをする。

「チッ、さっきからシゲル、シゲルって誰だよ?」


「……ご、ごめん、ジュン君……あゆみの想像上の人物なの。それよりさっきはありがとう。姉貴って言ってくれて嬉しかったよ。他人のフリされちゃたら、あゆみ、何されるか分からなかったもの。真実はまだ分からないけど、パパとスミコさんが再婚したら姉と弟になるものね。嘘はついてないよね」


「……俺はずっとそう聞かされて育った」

「……えっ?」聞こえないよ、ジュン君。シゲルさんも耳に手を当てている。


「……俺はお袋から姉がいるって聞かされて育ったんだよ! 父親はお前の大好きなパパだとよ。何でだ! ならどうして……」


 ジュン君はそう言って話すのをやめた。どうしての続きは何? ジュン君は俯いたまま何も話さない。あゆみに背を向けて寝てしまった。


 あゆみどうしよう。膝を抱えて考える。はっ、ハックション。シゲルさんがくしゃみをしてあゆみのダウンコートのポケットに入り込んできた。


 寒いね。ばっちい布団をジュン君にかけてあげる。

「……ジュン君、あゆみもね、小さい時からパパがスミコさんと不倫してたの気がついてたんだよ。ママは鈍感だから分からないまま天国に行っちゃたけど。パパよりスミコさんが許せなかった。ママを騙してるスミコさんが大嫌いだった」


 あゆみも寒い。ばっちい毛布を膝にかけた。シゲルさんが鼻をつまむ。


「……でも、あゆみ、ママがいなくなってから寂しくて、ジュン君が弟だったらいいなって思ったんだ。今まで一度も会った事がないけど、あゆみそう思ってた」


「……勝手な事言うな!」

 ジュン君は背を向けたまま話す。


「……お前は金持ちの娘で両親に愛されて育ったくせに。俺はずっとこの安アパートでお袋と二人だった。学校から帰って誰もいない家で……どんだけ寂しいかお前には分からないだろ! どうして俺だけこんな思いをしなくちゃならない?惨めな暮らしをさせるお前の親父が許せなかったんだよ!」


 あゆみ、衝撃。そうだよね。パパはジュン君とスミコさんの生活費出す義務あるよね。認知? 認知してなかったの? いや、パパも実は今日、ジュン君が実の息子かどうか知るのかもしれない。あゆみ困惑。


「……けどこれからはパパが二人の面倒をみるのよ。この安アパートから豪邸に住めるの! ジュン君、ありがたいと思いなさい!」


 あゆみ言っちゃった。爆弾投げた。シゲルさんが白目をむいて、おでこを叩いている。それだけは言ってはいけませんって後で説教されちゃうかな。


 バシッ! キャ、あゆみジュン君にビンタされた。パチッ、パチッ。あゆみもジュン君に往復ビンタ。シゲルさん、パニック。


「あゆみちゃん、暴力はいけません! 暴力は!」


 シゲルさんが頬をプルプルさせている。


「……寂しくて、ボヨッキーとトンゾラーの手下になって万引きしたの? ジュン君みたいな寂しい子は世の中にたくさんいるんだよ! スミコさんが毎日どんな思いで働いてると思ってるの! こんな事知ったらスミコさんが悲しむよ!」


 パチッ。あゆみもう一度ビンタ。ジュン君の白い頬が赤くなる。あれ? よく見るとあゆみと唇似てるよね? ジュン君可愛い顔してる。もう一発ビンタ。キャハ。


「……だから、だからもうやらなかったんだよ!」


 ジュン君、目から大きな涙がポロポロ落ちる。ごめんね、あゆみ叩きすぎちゃった。痛かったね。でも叩くの癖になりそうだったよ。あゆみの嗜好発見。シンヤ先輩でやればいいっか。


「そうだったね。さっきは何も盗らないで帰って来たものね。偉かったね。ごめんね。ここ出たら一緒に警察行こうね。お姉ちゃん証言してあげるから」


 あゆみ、ジュン君が可愛くて思わず抱きしめちゃった。頭もなでなでしてあげる。されるがままのジュン君。あゆみ、なんか懐かしい感触。


 五分くらいなでなでしていると、警察です! と玄関で声がした。


「私が人間モードの声で110番しました。姉が弟に暴力を振るっていますと通報しました。あゆみちゃん、グッジョブです!」


 シゲルさんがドヤる。ねえ、おかしいでしょ? あゆみが捕まっちゃうよね。



 





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