第29話 ボヨッキーとトンゾラーに似ているね。

 コホッ、ホッ、あゆみこんな汚い部屋じゃ呼吸が出来ないよ。白いダウンが汚れちゃう。花柄マスクとおそろのワンピも汚くなってる。あゆみ、お怒りで前歯なしboyを睨んでみる。ぷっくりした顔をさらにぷっくりさせている。


 お怒りかしら? あゆみを縛り上げたいのか、歯なしboyがカーテンを破り始めた。ケホッ。ホコリがたつでしょ、全くもう!


「……おい、お前、ジュンから何か聞いてるか?」


「……何も聞いてません。けど、あなたたちがジュン君に万引きするよう命令してた事は聞きました」


 歯なしboy の横でだったら何だ! とあゆみを猫呼ばわりした男が怒鳴る。


 ビエーン、怖いよ。でも朝、ジュン君の犯行を見た事は黙っていた方が賢い。だってそんな事言ったらあゆみ、何されるか分からないもの。


 歯なしboyと猫 boy が急にコソコソ話をしだした。あれ、この二人どこかで見た事がある。アニメのキャラかな。一人はおデブちゃんでもう一人は細身の出っ歯。ぼっ、ボヨッキーとトンゾラーだったかしら。似ているね。ふふ。


「まあ、いいや、ジュンがいつもの盗ってくれば問題ない」

  

 boy たちはそう言うと部屋から出て行った。ガチャリ。鍵をかけた音がする。経年劣化の激しいカーテンじゃ縛る事が出来なかったのね。良かった。


 でもこれって監禁よね。えっあゆみ、閉じ込めらちゃった感じ? やだ。あゆみ、落ち着け。考えなきゃ。頑張らなきゃ!


って何? あゆみ、コンビニでヤバい物を思いつくだけ考えた。タバコはレジの奥でしょ。エッチな本? でもそんなの平気で買えるでしょ。まさかアレ? ジュン君が朝、盗んでいた場所から推測する。男性化粧品の棚だったわ。カミソリ、ソープがあったはず。その下の方ね。やだまさかアレ?


 あゆみ、分かんない。ジュン君が盗んでくるのを待てばいいのか。ってダメよ。答え合わせしてる場合じゃないの。万引きは犯罪よ。


「あゆみちゃん、あゆみちゃん、大丈夫ですか?」


 シゲルさんの声がする。


「どこ? シゲルさん、どこにいるの?」


 昼間なのに薄暗い。雨戸が半分閉まっているからね。目を凝らすとシゲルさんはタンスの上で手を振っていた。漏れる光で青いジャージが輝いて見える。


「あゆみちゃん、怪我はないですか?……やはりジュン君でしたね」

「大丈夫よ。あゆみ、バカだから捕まってしまったの」

「……大丈夫です。僕が確認しましたところ、今、この家にはボヨっキーとトンゾラーに似た男の子二人だけです。しかもジュン君と同じ中学に通う生徒です。学生証を見つけました、一つ先輩の十五才だと思われます」


 え? シゲルさんもそう思う? 感性似てるね。いや、今そんな事じゃない。あのぷっくりしたボヨッキーがまだ中学生なの! あゆみびっくり! 老けてるね。


「じゃあ、ジュン君に万引きさせたものって何? あゆみ、てっきりゴムだと思ったの。ふふ、ふふふ。ありえないわね。あゆみ、ちょっと安心」


「……あゆみちゃん、なんてはしたない想像を! そんな事より、ここから出ますよ! あゆみちゃん、スマホを確認して下さい。ジュン君のママからメールが入っているはずです」


 そうだ。ジュン君に電話して此処に来ないように言わなきゃ。あとはあゆみがスキを見て逃げればいいんだもの。


 スミコさんが送ってくれた番号に電話する。出ない。留守番サービスにメッセージを残す。【ジュン君ごめんね。あゆみが言いすぎた。許してね。パパの所に早く来てください。みんなでチーズケーキを食べましょう!】


「これでいいかな?シゲルさん、さあ、窓から逃げるわよ!」


 ここは一階だ。雨戸を開ければすぐ外に出られるはず。あゆみラッキー、靴も履いたままだもの。シゲルさん、行くわよ!


 ガギッ、、ギー。開かない。両手で思いっきり。ギッ、ギッ、雨戸開かない。あん、手がばっちい〜。


───ガチャ、何の音? まさか鍵が開いた音?


「……オイ、お前、逃げられると思うなよ! ちょうどジュンも帰って来たところだ。ジュン、お前もここで反省しろ!」


 歯なしboyボヨッキーがジュン君の背中を押した。ジュン君、汚い布団にダイブ。


「ジュン君、臭いでしょ? あっ、違う。どうして戻って来たの? 留守電聞いてくれなかったの?」


 あゆみ、ジュン君に駆け寄って聞いた。


「別に……」

「別にって何? 答えになってないでしょ! 反省って何?」


 ジュン君は一言も答えない。トンゾラーはにやけてこう言う。


「ジュンの代わりに答えてやるよ。もう万引きなんてやりたくないだと。俺らの命令が聞けないんだと。だから反省。そんでもって、明日の朝はお仕置きタイム。いいな、俺ら今から走りに行って来るから。オイ、ジュン、お前変な真似したら母ちゃんもついでにお仕置きするから宜しくな!」


 お仕置き? って何? 母ちゃんってスミコさんの事なの? あゆみ、もう訳が分からない。ジュン君、こいつらに今まで何されて来たの?


 あゆみ、震えちゃった。シゲルさんもあゆみの肩の上で震えてるよね。振動が伝わる。


「あっ、いい事考えた! このおんなも連れてく。総長に差し出せば喜ぶよな。このタラコ唇好きそうだ。オイ、お前も来い!」


 痛いよ! 腕引っ張らないでよ! 汚い手で触らないで。あゆみお怒りで振り解く。シゲルさん大丈夫?振り落とされちゃた。お布団臭いでしょ? ごめんね。


「いい加減にしろ! オレの、オレのに手を出すな!」


 ジュン君はそう叫ぶとボヨッキーとトンゾラーに頭突きをした。






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