第52話 ビッグG VS スモールG
「カケル長老、どういうつもりだ?自分が何を言ってるのか分かってるのかね?」
部長はワナワナと震え、あっしに怒声を浴びせる。
「カケル、四十年前、神社でお前を助けたのは誰だ?死にかけのお前に誰が聖水をかけてやった?会長もお前の命の恩人だろ?」
確かに二人ともあっしの命の恩人だ。連れ込み旅館でエッチ観察をしていたあの日の事、忘れたわけではない。ちゃぶ台の上の大福があんまり美味しくて口に詰め込んだのが運のツキ。喉に詰まらせて死にかけた。
会長が苦しんでるあっしを振り回してくれたおかげで命拾いしたんでやんす。
「会長には感謝しておりやす。会長に妖精を見る能力が無かったら、あっしは死んでいやした。感謝してもし足りないでやんす」
カケルが目に涙を溜めて、会長に小さくお辞儀をした。
「カケルジイ様、だからでっか、甘くて美味い物はその場で食べずに持ち帰れと口酸っぱく言ったのは。わしは守りましたで。苺のミルフィーユってのを袋に詰め込んで家でゆっくり食べやしたさかい。妻と美味いね美味いねって。……ちとゴム臭く感じやしたけど」
ワタルが大きな声で口を挟む。ミナ君が黙れワタルと口を押さえてくれた。
「……感謝してるさかいに、あん時、スモールG商事を立ち上げ、あっしの子孫で恩返しすると約束したでやんす。孫のワタルは生まれた時から、ミツルやマサルと共に人間様のために働くよう教えてきやした。サトルやシゲルはもっと高等な教育を与えやした。これも全て部長と会長の為でやんす」
部長はそれでいいと頷く。しかしあっしはさっきの別れの儀式で目が覚めやした。今まで気が付かなかった事を気づかせて貰ったでやんす。
「……妖精にも人を思う心があるということを。あっしら妖精は人間より高度な生物だと思っておりやした。人間と接しても心乱さないと。しかし、小さいオジさん族は喜怒哀楽がちゃんとある。沈着冷静、聡明なサトルとシゲルまでが泣き出し、あっしは正直驚きやした。……あっしは間違ってた」
「……何を今さら!シゲル、シゲルはどこだ?この役立たずの老ぼれジジイの口を封じなさい。そしてこの話を順調に進めるため、企画部の連中の記憶を無くせ!」
会長はあっしを老ぼれ扱いし、杖で叩いた。我がスモールG商事を裏切ったらどうなるかと怒鳴り、縛りあげるよう黒執事に命令する。
「そこまでは可哀想でございます。なんて酷い事をなさる、とほほ」
ハルクがあっしを捕まえようとする。老ぼれゆうたかて、あっしも妖精、一瞬で部長の頭に飛び移り、髪を引っ張る。滑る、抜く。引っ張る。滑る。すべる。
「……私の残り少ない髪を!ムム許さん!シゲル、早くこいつを大人しくさせろ!企画部の連中も反逆に加担しないよう記憶を消せ!」
「シゲルさ〜ん、ダメよ、あゆみ、シゲルさんの事忘れたくない!お願いよ、記憶を消さないで」あゆみちゃんが叫び、部長の頬をビンタする。何で?
「……カケル長老、私たちは誰の指示に従えばいいのですか?教えて下さい、カケル長老!」シゲルが戸惑い、あっしに涙目で訴えてくる。
「……シゲルよ、そして他のみんな、あっしが悪かった。もう大事なお前達を売ったりしない。あっしがした約束の為に可愛いお前達を犠牲にしない」
あっしが馬鹿だった。誓いの黒ジャージを部長の頭の上で脱ぎ捨てる。
「キャ、カケル長老ってふんどしなの?」免疫のない仁美さんが目を覆う。そこ?
「オイ、これを見ろ、カケルよ、こいつがどうなってもいいのかな」
声がする方を見ると、社長がワタルの足を持ち、宙吊りにしてワタルをブランブランしている。
「……ワタル!あんたぼけっとしてるから捕まるのよ!」ミナ君が叫ぶ。あっしの孫だ。そう簡単にはやられはしまい。知らんけど。
「……オー痛い。誰だ?」───赤ジャージマサルが社長の背後から肩に飛び移り竹刀で頭を打ちまくっている。ワタルは頭に血が上って真っ赤だ。早く手を離せ!マサルが竹刀を捨て、社長の耳に噛みついた。
「……痛てえよ、離せ。離れろ!……くっ臭さいよ!何だよこいつら」
社長の鼻目掛けてワタルがブッ!臭くなったらそれ屁です攻撃をした。
「……ありがとう、マサル」見事に着地を決め、ワタルがマサルに抱きついた。
「……シゲルさん、難しい事を考えるんじゃない。僕たちは誰と一緒にいたいかを考えるんだ!」
頭を抱え込むシゲルにサトルとミツルが声をかける。
「……僕は課長さんとずっと一緒にいたい。サトルさんは仁美さんと一緒に暮らしたいそうです。……シゲルさんは?シゲルさんはどうなんですか?」
シゲルはふっと水谷スマイルで二人に頷き「もちろん、あゆみちゃんと一緒にいたいです」と答えた。
「そんな勝手な事許さない!いいか、シゲル、会長である私に逆らうとどうなるかわかってるのかね。企画部の連中はクビだ!正月前に路頭に迷うんだよ。君の判断一つでこの五人がどうなってもいいのか!」
会長が脅しにかかる。シゲルはまた頭を抱え込む。
「……大丈夫だ、シゲル。俺らこんな会社クビになったってかまやしない。それよりあゆみちゃんのそばにいてやって欲しい」シンヤが叫ぶ。
「……そうよ、私もサトルと一緒ならマンション売って6畳一間のアパートでも構わない!」仁美さんも泣いて言う。
「僕も平気です。定年まであと二年ですが、貯金で細々と暮らします。カヨコも貧乏暮らしに慣れてますから。クビは怖くありませんよ」課長が微笑んで言う。
「シゲルさん、あゆみもクビでいい。ジュン君とスミコさんとパパに紹介したいの。シゲルさんが好き!」あゆみちゃんが投げキッスをする。
「……そうよ、私もクズ野菜の味噌汁で構わない!ワタルと一緒にいたい!」
───あっしはみんなの声を聞き、覚悟を決めた。
「シゲルだけに辛い思いはさせないでやんす。みんな目を閉じ、耳を塞ぐでやんす。……会長はん、社長はん、部長はん、ハルクはん、行くでやんす〜!」
あっしは悪の組織ビッグGメンバーたちの記憶を消した。
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