第42話 ついに私の夢が叶う!妖精は壊れないオモチャだ!
「……ではワタル部長、わたくしはこの結果を仁美さんに届けに行って参ります。明日の夜もまた血圧を測りに来ます。おやすみなさいませ」
───12月26日土曜日の夜
私の担当医サトルが白衣からジャージに着替えながら言った。第二会議室は会長、社長、そしてワタル部長こと、私しか入る事の出来ない秘密の部屋。
ここは、怪我をした小さいジジイ族、もといオジさん族が治療をする場所でもある。人間に慣れていない者は踏まれたりする。犬に噛まれた者もいる。妖精は治癒力が極めて高い。ドクターサトルの薬は万能でもある。
「ありがとう、ではまた明日の夜に待っている」私は軽く手を振る。
「……ワタル部長、カケルの姿がありませんが今どこに?」
会長の息子である社長が聞いてきた。
「……彼は今、妖精たちを人間のオモチャになるよう訓練しております。優秀な者を集め、それぞれの能力を伸ばしている最中だと思います」
小さいオジさん族は日本だけに生息しているわけではない。世界中にいる。
カケルは日本に生息する中のトップだ。年は千八百二十七歳、最高齢だ。
「……社長、相談なんですが、政治家に売るためにはどんな特技を身につけさせればいいかと思案しております。唯一カケルがその能力を授けるのですが……」
「政治家に売っても金にはならないだろう。むしろこれからの日本ではサトルのような医師を増やし、金持ち狙いの方が儲かるやもしれん」
今年経験した流行病の事を考えるならば、一人に一人の医者がいた方がいいというのが社長の考えだった。
「ではワタルやミツルは一般人向けですね。伴侶を亡くした高齢者や、引きこもりの若者を楽しませる事が出来ると思います」
「そうだな、一番安い値でいいな。イジメや虐待問題にはマサルを売り込もう。邪悪な者を成敗するためによく働くだろう。記憶操作が出来るシゲルは?」
私はシゲルの需要を考えた。辛い過去を持った人間が求めるのかもしれない。
「……売り出してみない事には分かりません。まずは企画部の五人を観察したいと思います」
私は社長にそう答え部屋を出た。
───12月27日 日曜日
早朝、カケルからの報告があった。
「……部長さん、ただいま戻りやした。小さいオジさん族二千人をまずはご用意しやす。赤、黄色はともに三百、青とピンクは二百ずつ、そして緑は千です」
やはり医師の資格を持つ緑ジャージが多い方がいいとカケルも思ったのか。さすが私のパートナーである。
「よくやってくれた。……もうすぐだ。もうすぐ私の時代が来る」
黒ジャージのカケルは誇らしそうに笑みを浮かべた。日本に生息する同族は現在一万体いる。四十年前はたった二人だった。カケルとカケルの妻だ。
カケルは子孫繁栄に大いに貢献した。小さいオジさん族は生まれた時からジジイの姿で生まれる。誰が誰の子供なのか、いや、どれが赤子でどれが親なのか分からない。
「……ワタルはあっしの孫でさ。あっ、全部子供、孫みたいなもんですがね」
そう言って笑う。そもそもカケルはどこから来たのか?世界は広い。いや聞くのがめんどくさい。
私はカケルの報告後、すぐに会社に向かった。第二会議室で秘密の会議を行う。ジャージも二千着発注しなくてはいけない。普段からジャージを着ているらしいが新品を着せなければ売れないであろう。やる事はたくさんある。
明日は企画部の五人に近づき、どんな塩梅かを見る日だ。興奮する。
───12月28日 月曜日
相変わらず窓際で昼寝をしている井上課長をお昼に誘う。カツ丼が食べたいと社食に連れ出した。ワタルやミツル、シゲルとマサルもすでに来ていた。
ワタルはミナ君のゆで卵を奪い白身だけ食べている。ワタルはやはり落ち着きがない。ミナ君との相性はバッチリだと思う。他社にアイデアを盗まれずに済んだだろう。
向かいではミツルが課長と歌を歌っている。こちらも仲が良い。敬語を話せるようになる新商品を考えたのか、いい事である。
兼子君のそばにはマサルがいる。マサルは何をしている?竹刀をマドラーがわりに使って怒られているんだな。
シゲルもあゆみ君といい関係のようだ。サトルの姿がない。仁美君のパソコンを覗き込んでいたはずだが。
五人とも午後に第二会議室に来る予定になっている。そこで彼らの報告を聞き、販売戦略を立てるのだ。
ん?やはりここのカツ丼は美味しい。私にとったら少し味は濃いめだが、これが野心の味、象徴だ。
私はワタル、ミツル、シゲル、マサルの様子を観察した。もうすぐ日本に二千体の妖精が解き放たれる。大金と名誉を私にもたらすであろう。
彼らは一週間レンタルするオモチャとなる。妖精は壊れない。死なない。メンテナンスも緑ジャージが担当する。エンドレスのレンタルオモチャだ。
私の夢がもう少しで叶う。一生壊れないオモチャを販売するという夢が叶う!
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