第6話 そんなとこに詰めるのはやめなさい!

 公園のベンチに座ってコーヒーを飲む。米山君にここで待っていてと言われたからだ。どんな話だろうな、顔はユージよりタイプじゃないけど、真面目で優しくて、何より若い。付き合ってなんて言われたらどうしよう。ミナ悩む〜。


『ない、ない』

 ワタルがいつのまにか隣に座っている。身長10センチほど。六頭身でお腹が出ていて、ピンクのジャージに白いスニーカーだ。足をプラプラさせている。下見たら頭から落ちてくバランスの悪さだ。


「ワタル、もしかして焼きもち焼いてるでしょ!」

『……なんでやねん! あんさん自惚れつよっ! わしには家に帰れば可愛い妻がおるねん。めちゃめちゃ美人やで!』


「……ふーん、興味ない。……あっ、米山君こっちこっち。ワタル、シッシッ」


 ワタルを追い払うと瞬時に消えた。あの出っぷりお腹で動きが機敏な事に驚く。小さいオジさん族って妖精の一種なのかな? ……ないない。


「ミナさん、お待たせしました」

 こういうところ、律儀な彼だ。

「……本当に彼氏と別れたんですね?」

「うん、まあ、どうして?」


「いつも笑顔が素敵なイケメンの彼、ユージさんと別れたんですよね?」

「……ほんとだよ」

「良かった! 嬉しいです! ミナさんありがとうございます」


 この流れからして、私に告るよね、ねえ、付き合って下さいって言われちゃう感じ? 昨日の今日でオッケイしちゃうのダメだよね。でも一日でも早く彼氏ゲットしなきゃ、うーん、ミナ悩む〜。ってあゆみちゃんの真似している場合じゃない。


「……好きな食べ物って何ですか?」

「えっ、お寿司とか、フレンチかな」


 ほんとはラーメンだけど、高い物言っとこう。安い女に見られたくない。


「デートはどんな所が好きですか?」

「うーん。美術館とか映画観るのもいいかな。たまに、そうね、遊園地も楽しいかな」


 若い頃の話だよ! 30過ぎたら家でごろ寝で十分ですが、可愛らしさアピール。


「……単刀直入に聞きます。僕ってタイプだと思いますか?」

「うん」照れ。


 キター! タイプだよ、だって若いじゃん、キレイなお顔してるじゃん、まあ、ユージには負けるけど。肌なんかツルツル、身長もいい感じ。


「……僕でも、あっ、僕なんかでもいいですかね? 好きになってくれますか?」


「いいに決まってるでしょ! いいの? 本当にいいの? 私なんかで、だって米山君より五つも年上だよ。最近小ジワ出来て、化粧でごまかしてるんだよ。でも、安心して、エッチには自信あるから。ユージ仕込みだから!」ドヤ。


「……、……えっ?」

「アハっ、ごめん、興奮しちゃった、やね、私たっら恥ずかしい」


「そんな事ないです。僕、ユージさんに告白する勇気持てました。ミナさんありがとうございました」

 米山君が輝く笑顔でちょこんとお辞儀して去った。去って行った。


 そっちかーい。こちとら、恥晒して余計なことまで話したやないかい! ボケ!


『ブハッ、あんさん落ち着きなはれや。ハハハ、いちおう、オナゴでっしゃろ。ぶっ、かわいい顔が台無しやさかいに!』

 ワタルがお腹を抱えて笑う。

 

「笑うな。ワタル、それよりあんた、食べたでしょ! 私のイチゴミルフィーユ勝手に食べたでしょ!」

 口の周りにクリームが付いている。


『食べてません! 決して何も食べていません!」

 標準語の時は特に怪しい。


「……まあ、いいわ。私はこれから仕事に生きるの。ワタル、落ち込んだら励ましてね。泣いたら慰めてね。ワタルに出会えて良かったよ!」


『……わし、全力であんさんの仕事応援しまっせ! ……そうと決まったら新作の企画考えましょ! あっ、これ美味かったさかいに、女房と子供に食べさせよう思います。ほな、さいなら」


「そんなとこ詰めるのはやめなさい!」


 ワタルはミルフィーユをゴムの中に入るだけ詰め込んでいた。



💗ピンクのジャージ💗  

名前   ワタル


身長   10センチ

体重    三キロ

特徴   バーコード頭 六頭身 小太り エセ関西弁で話す。

好物   卵の白身

趣味   料理 エッチ鑑賞

特技   失恋した人を元気づける

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