第44話 小さいオジさんたちのアピールポイントを教えてくれ!
12月29日火曜日 午前中
「ワタル部長、おはようさん。ついに今日という日を迎えおめでとうございやす。あっしの可愛い子供たちは到着してまっか?」
「おはよう、カケルさん。企画部のメンバーを呼ぶ前にすでにスタンバイさせています。あっ、カケルさんも入りますか?写真撮っておきたいと思いまして」
四十年前にした命の恩人との約束の第一幕が、今日開く。あっしはスモールジーファイブのメンバーではないが、部長のすすめで記念撮影をした。
「カケルさん、黒のジャージが似合いますな。……カケルさんは、そうですね、ワタルの後ろに立って下さい。さすがおじいちゃんと孫似てますね。ブッサ、ゴッホ、ホッ。けど何で禿げちゃう部分が違うんだろ?まあいっか。……いいですか、笑って、笑ってハイ、チーズ」
あっしの隣にはミツルとマサルが立つ。マサルがあっしに確認する。
「ワタル長老、昨日部長から説明があったのですが、あと二千体が戦士として訓練されているとか。赤ジャージのリーダーとして何かやっておく事があればなんなりとお申し付け下さい!」
やはり体育会系は気合が入っているな。その辺は社長と会長の方から説明があるでっしゃろ。「御意」マサルは手を合わせ頭を下げた。
五分もすると企画部のメンバーが第二会議室に入ってきた。みんな全身を妖精モードから人間モードに切り替えたかい。パートナーだけでなく、全てのメンバーに姿が見えるように切り替えるようしなはれや。
とろとろしているワタルの背中をミツルが押す。スイッチはそこにある。
「部長、おはようございます。ここでいいですか?」課長が一番乗り。
「……ほら、早くしなさい。あっ、部長おはようございます」
ミナ君がシンヤとあゆみちゃんと入って来た。
「部長、おはようございます。あゆみビックリ!何で部長黒いジャージ着てるんですか?ふふ、ふふふ。シゲルさんみたい」
「部長、おはようございます。ダッ、ダサくないです。似合っていますよ」シンヤは朝からゴマをする。
お局仁美さんは最後に到着。軽く一礼して椅子に座る。低血圧だ。貧血だし。
「……おはよう、みんな。今日ここに集まってもらったのは他でもない。私の四十年の集大成を是非見て欲しい。新作オモチャの発表会である!さあ、プレゼンを始めるよ!」
大音量で音楽が流れる。ステージの上でスモールジーファイブの踊りが始まった。あっしも震える。リハーサル見ておけば良かったっす。感動。
「キャー、何?何なの?ドクターサトルがいる!今朝メイクしてくれなかったと思ったらこんな所で何してるの!」テンション上がったお局にサトルも苦笑い。
「……仁美先輩静かにして下さい。ワタルの指パッチンが聞こえません。あっ、形だけみたい。ワタルは何やっても不器用だな、おい」ミナ君怖いでっせ。
踊りがが終わり、マサルが突然竹刀を振り下ろす。決め台詞が始まる。
「❤️この世に悪がある限り、オールバックで迎え撃つ!赤の戦士マサル参上!」
赤いスポットライトがマサルに当たり、サングラスがキラリと光った。
「オーマサル、かっけーよ!ブラボー!」シンヤが手を叩く。
「💚病んだハートに名言を、白衣に君もいちころさ。緑の戦士サトル参上」
「ドクターサトル!何?何なの?私のサトル、素敵よ」仁美が手を叩く。
「💗玉子の食べすぎ要注意、臭くなったらそれ屁です。ピンクの戦士ワタル参上」ワタルは調子に乗ってすかしっぺのジェスチャーをした。
「ワタル、そういうとこ、そういうとこだぞ!」ミナ君が怒る。どういうとこ?
「💛家族に愛を心に歌を。ハハハノハサンセンコクです。黄色の戦士ミツル参上」黄色のスポットライトがミツルに当たると、課長も歌う。テンション高い。
「💙君の記憶は僕のもの、君のハートも僕のもの。青の戦士シゲル参上」
「……シゲルさん。大好き。あゆみの心もシゲルのもの!」あゆみちゃんが投げキッス。シゲルは水谷スマイルであゆみちゃんにお返しのキス。熱い。
『五人そろって……世界中に愛と平和を届ける戦士、スモールジーファイブ!』
決まった。決まったよ。あっしも涙ぐむ。五人の戦士よ、よく頑張った。警戒心の強い小さいオジさん族がよくもここまで、グスッ、人間の前でこんな、グス、
戦隊ヒーローになりきって、頑張ったやね。ワタル部長、どないでしゃろ?
部長の目にも光るものが見えまっせ。今日はカツ丼でお祝いだす。
「よくやった。私のオモチャたちよ!つかみはオッケーだな。さあ、企画部のみんな、感想を聞かせてくれ。君たちはこの数日間、このオモチャと過ごしたはずだ。それぞれのアピールポイントも是非聞かせてくれ。まずは課長どうかね?」
「……部長、お言葉ですが、先に確認したいことがあります。ミツルさんだけでなく、ここにいる彼らはオモチャなんですか?どういう事か説明して下さい!」
「……いい質問だ。カケルさん、君の口から説明した方が良さそうだ、頼む」
「あっしですか、分かりやした。企画部のみなさん、まずはあっしの同族を可愛がってくれてありがとうございやした。傷つける事なく、いえむしろ大事に扱って下さり嬉しく思いやす。聞いての通り、我々は小さいオジさん族、いわゆる妖精でやんす。部長さんに恩返しするため、あっしらはオモチャとして、人間様のためにこの身を削る覚悟でやんす」
「えっ、何?何で?オモチャとして、うちの会社が売り出すという事ですか?」
「仁美君は察しがいいね。さすが企画部リーダーだ。そういう事だ。これからの時代、壊れるオモチャは必要ない。妖精たちを人間のオモチャにするんだよ!」
部長が声高く笑う。これはオモチャ業界の革命だと叫びにも似た声で。
「……ざけんな、ざけんじゃねえ!」シンヤが怒った。
「……ほほう、シンヤ君は私のプロジェクトに反対なのかね?君たちも楽しんだだろ?世界中の人たちにこの感動を味わってもらいたくないのかね?」
部長はニタリと笑った。あっしは何か間違っているのか?
分からないでいた。
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