第40話 ドクターサトル、これからも一緒にいてくれる?

「オムライスおいしかったですね。わたくしの好みの味でした。……あっ、さっきのタツオさんの言葉ですがね、エジソンとマザー・テレサの名言をアレンジしたものでしたよ!……仁美さん、いいんですか?断ったのもったいないですね」


 帰宅した途端、ジャージに着替えたサトルが言った。この先結婚を意識する事はもうないだろう。タツオ兄ちゃんにはもっと素敵なレディを見つけて欲しい。


「ドクターサトル、ありがとう!私、タツオ兄ちゃんに会ったらスッキリしたよ」


 もう自分の生き方に迷わない。今、目の前にある事を自分なりに懸命に果たせばいいんだよ。他人からの評判なんて気にしない。


「仁美さん、生き生きしてますよ。素敵です。怒りも鎮まりましたね」


 本当だ。明日からの事を考えたらワクワクしてきた。早くミナちゃん、あゆみちゃん、兼子、課長に会いたくなった。


「……火曜日は企画会議でしたね。みんなそれぞれ新商品のアイデアを考えていると思いますよ。仁美さんもなんか浮かびましたか?」


 火曜日、企画会議?なんでドクターサトルはそんな情報知っているんだろう。壁のカレンダーにはそんな事書いていない筈だ。サトルって何者?


 私は三時間以上かけて企画書を書き上げた。明日、会社のパソコンにメールするだけにした。他社に盗まれないよう細心の注意を払って慎重にしないと。


「ドクターサトル、お腹空いたでしょ?夜食食べよっか」


 呼んでもいない。リビングにもキッチンにもどこにも見当たらない。笑いすぎて疲れちゃったのかな、まっ、いいか。早く寝なくちゃ、お肌に悪い。


───翌朝、メイクしてもらおうとサトルを探したが……やっぱりいない。


 肝心な時にいないのよね、小さいオジさん族って。サトルの場合はドクターだから忙しいのかもしれない。というか、他にもいるんだろうか?


 私はそんな事を考えながら早めに会社に行った。朝、自分のパソコンから会社のパソコンに送ったメールを確認しなくちゃいけない。


  スモールG商事は家から駅まで歩いて五分、電車に乗る事二十分、また歩いて五分の計三十分かかる場所にある。もっと近くのマンションにすればよかったな。運動になるからいいか。あと十年は働くつもりだ。頑張らなきゃ。


「課長、おはようございます。あっ、マフラー変えたんですか?」


 どうしてマフラーしたままお茶飲んでるのかな。まあいいけど。それにしても課長の出勤時間は早い。窓際課長は朝一番に来てみんなのデスクを拭くのが日課だ。頭が下がるよ。


「ミナちゃん、あゆみちゃん、兼子おはよう」なんかみんな早いね。やる気があるね。他の部署は今日が仕事納めなのに、企画部はそんなものはないもんね。


 兼子とあゆみちゃんが朝からイチャイチャしてる。若いっていいな。今を楽しみなさいね。


 課長が居眠りしている横で、私は企画書の仕上げをした。


「仁美さん、おはようございます。……もう完璧じゃないですか」


「ヒイッ、いつの間に?……昨日の夜からどこに行ってたの?心配したよ」


 突然現れてパソコン画面を覗き込む緑のジャージ。視力悪くなるよ!ヤバいよ。


「……ワタルさんの所にちょっと用事があって行ってました」

 ワタルって誰?サトルの友達かな。まあいるよね、友達の一人か二人。


「お昼までここで寝ていいですか?ミツルさんもお昼寝しています。わたくし夜中の診療であまり寝ていませんので。あっ、わたくしもハンカチをかけて下さい」


 ミツルって誰?そういえば課長がそんな名前言ってたような。独り言だと思ってほっといたけどさ。ティッシュ箱にハンカチかけながら不気味だったよ。


 私はサトルの希望通り机の引き出しを開けて、サトルを寝かせてハンカチをかけた。そこなら暗くてよく眠れるよね。あっ、隠しておいたお菓子食べないでよ。


 ───お昼前、部長が珍しく企画部に来て仕事は捗っっているかと聞いてきた。火曜日を期待していて下さいとだけ答えるとニヤリと笑う。


 課長を社食に誘っている。これまた珍しい。カツ丼が食べたくなったそうだ。


「仁美先輩、あゆみちゃんとシンヤ知りませんか?朝からどこか行ったきりで帰ってきません」


「……第三会議室じゃない。あゆみちゃんが兼子になんかお願いしてたよ」


「……そうですか、あっ、仁美先輩も一緒にお昼行きませんか?」


 私は今日、久しぶりにお弁当を作ってきたからと断った。せっかくドクターサトルが血液検査で見つけてくてたんだもん。貧血治さなきゃ。一人きりになった部屋で、サトルを起こした。


「……サトルの分も作ってきたんだ。鉄分いっぱいのメニューだよ。ほうれん草のごま和え、ひじき、鷄レバーの甘辛煮だよ。サトルも食べてね」


 サトルはいい匂いです、美味しいですね、と言って食べてくれる。嬉しい。


「……ドクターサトル、私のそばにこれからもずっといてくれる?一緒にご飯食べたりしてくれる?」

 

 しおらしく聞く私。顔の前でバッテンされたらどうしよう。ドキドキする。


「仁美さん、喜んで!仁美さんのお仕事のお手伝いも、健康管理もさせていだだきます。もちろんメイクもしますよ。これからもよろしくお願いします」


 サトル、ドクターサトル、サトル先生ありがとう。私は泣きそうだった。嬉し涙はいいよね。幸年期が始まりそうな予感がする。


  サトルも顔を赤らめる。そしてお弁当を食べ終わると、社員食堂に行って来ますとパッといなくなった。


 

💚ミドリのジャージ💚

名前    サトル


身長    12センチ

体重     3キロ

特徴    星野さんと向井さんを足して2で割って、

      綾乃さんをかけたような雰囲気

      変身タイムで医者になる

特技    十秒でメイクを仕上げる事

趣味    アレンジ料理






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