第22話 シンちゃん、このあといいかな?
「シンちゃんきれいだね」アキラが四分の一周の所でポツリと言う。
「うん、きれいだ。おっ、海が見える」
毎日職場と家の往復だけでは気がつかない景色に見惚れた。内心、どこで話を切り出そうかと迷いながら。
もう少しで百八十度の所。いや、その手前、いや今言ってしまおう。
「わ、シンちゃん、ここ地上何メートルかな、気圧が変わったよね」
アキラが俺に背を向けて少し大きめの声で言った。気圧? 分かりづらい。何て答えれば正解なのか。アキラはこめかみを押さえて振り返った。
「……なんか、急に肩が重くなって、頭痛がする」
「大丈夫?」
こんな大事な時に? ──原因が分かった。マサルがアキラの左肩に乗って首に掴まっている。高所恐怖症なのか目をつぶって震えている。
「アキラから降りろ! そう、耳たぶを引っ張らない! はい、ここに入れ!」
「やだ、シンちゃん、まさか除霊? ……遊園地ってわりといるのよね、そういうの。うちの店の北海ポッケちゃんが言ってたわ」
「……やっ、ち、違うんだ。アキラの肩にオジ、オジさんが……」
「ギャ、オジさん? やだああ、あいるんちゃんも自分の部屋をサラリーマン風のオジさんが横切った事があるって言ってたわ。人間じゃないのよ! 怖いでしょ!」
確かに怖い、怖いけど、マサルの存在の方がもっとリアルだ。仕切り直し。
「……アキラ、今日は付き合ってくれてありがとう。あっ、あのう、せっかく休みなんだし、こっ、このあとちょっと時間あれば……あーもう! アキラ他に俺にして欲しい事は? なんでも叶えるぞ」
アキラの望む遊園地デート。あの時の約束を果たし、それ以上の大人のデートをしてもいいと思った。
「シンちゃんありがとう。私ね、さっきレストランの予約をしたの。一緒にディナーしてくれる? グランドホテルの十二階にあるフランス料理よ」
「この時期に、しかも当日によく予約取れたね……うん、いいよ、行こう」
フランス料理って高いよな。まあ、クレジットでなんとか。いやそんな事じゃない。問題はホテルだ。ディナーからどうする? 部屋はきっと取れないはずだ。
遊園地を後にしてグランドホテルへ向かう。マサルは疲れたのか後部座席でぐっすり眠っている。乗り物酔いしてあまり話してないな。家に帰ったら介抱してあげなきゃ。
「シンちゃん、ちょっと待ってて」
アキラはレストランの予約時間までまだ時間があると、俺をロビーラウンジに残してフロントに行った。
「……マサル、もう大丈夫か?」
『心配かけてすまなかった。このソファー気持ちいいからずっとここで待ってるな。オレはワタルと違ってお前らのエッチに興味ないし。帰る時呼んでくれ!」
そう言うと、ゴロンと横になった。靴は脱ぎなさい。竹刀、誰も取らないから。まず、小さいオジさん族がみんなに見えるわけじゃない。それより、ワタルって誰だ?
「シンちゃん、お待たせ。予約の確認してきたの。大丈夫だったわ、良かった」
予約? レストランそれとも? それ以上聞くのはやめておいた。ワイン飲んで緊張が解けた流れで確認しよう。女の子が初めての夜を過ごす時ってこんな風になるのかな。
「シンちゃん、今日はありがとう。ここは私が……。何にする?」
「……えっ、いいの。……アキラに任せるよ!」
内心ほっとしながらワインで乾杯し、年に一度しか食べられそうにない贅沢な料理を頂く。黒毛和牛とかムール貝とか確かに美味しい。けど、なんか落ち着かない。このあとの予定が全く分からないからだ。
「……シンちゃん、この後……」
キター! アキラの方から言ってくれた。
「……ごめん、先に言っておくね。明日仕事だから部屋に行っても泊まる事は出来ないんだ」
初めてって痛いんだよね? その事も考えて徹夜覚悟だけど。
「……部屋? ……ありがとう、シンちゃん、嬉しい。そこまで……」
アキラはフッと優しく笑ってクレームブリュレを一口食べた。そんな可愛い唇だったかな? ワインのせいか、アキラが可愛く思えてくる。うん、出来そう。
「……シンちゃん、実はこのあと会って欲しい人がいるの。シンちゃんだから紹介したいの。お願いもう彼も来てるの。さっきのラウンジに……」
彼? 俺だから紹介したい? まさかアキラのお父さん? いや展開が早すぎる。
エレベーターで降りる。アキラと二人きり。アキラの心臓の音なのか俺の音なのか分からないほどになる。
「アキラ、ここだよ」
「あっ、マサヤ、お待たせ。シンちゃんも一緒なの」
アキラは嬉しそうにその
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