第21話 観覧車で愛を確かめよう!

「シンちゃん、最初は何乗る?」

「やっぱ、ジェットコースター行こうか!」


 十二月下旬の遊園地はやはり混んでいる。クリスマスに告白して付き合い始めたカップルもいるんだろうな。前も後ろも若い男女がイチャイチャしている。


 俺とアキラはみんなからどう見られてるんだろう? 男友達、いや完全に恋人同士だよな。どこからみても見た目は女性のアキラ。店に出るときより薄くて上品なシャドーがそう見せている。


「アキラ、き、キレイだね」

「……やだ、シンちゃん、いつもそんな事言わないくせに」

 

 アキラが俺の右肩を軽く叩いて右腕にもたれかかった。


『グフッ、痛え!』

 

 ジャケットの右ポケットからマサルの声がする。いつのまに入ってきたんだよ。遊園地にいる間は大人しく車で寝ていて欲しかった。


「ジェットコースターに乗るときは荷物預けるんだよな」

「そうね、落ちちゃうものね」

 そう言ってバッグにスマホとサングラスを入れるアキラ。


「……えっ、何で?」

 マサルも自分のサングラスと竹刀をバッグに入れる。マサルも一緒に乗るつもりだ。小さいオジさん族、いざとなったら飛びますよね、知らんけど。マサルは俺のポケットの縁にしがみ付いた。


「怖いね、キャー怖い。どんどん高くなる〜。シンちゃん大丈夫?」


キャー、ギャー、止めろー。無理無理。ごわいよ〜。おー!。


 回転でGが半端ない。スピード早すぎ、止まってからの急落下まじ怖えー。


 アキラも涙声。いつのまにかカップルがオジさん二人、いやマサルも入れて三人で騒ぎまくっていた。


『気持ち悪い。なんだこの乗り物は、二度と乗らねえ』

 

 マサルがオエオエしながら怒っている。自己責任だ。だから車にいなさいって言ったのに。


「シンちゃん、次メリーゴーランド!シンちゃんが馬に乗って、私が馬車よ」


 今でも馬と馬車? そんなオーソドックスなのか。アキラの望み通り、メリーゴーランドの馬にまたがる。今度は上下に揺れる。


「シンちゃん、楽しい?……シンちゃん、そっち行っていい?」


 アキラが回っている最中、馬車を降りて馬にまたがろうとする。前? 後ろ?


「キャー、これよ、これ。私これに憧れていたの。なんとか乗れるわね」


 アキラが俺の前に来て、腰をぴったりくっつけるかたちになった。なんか恥ずかしい。マサルがフューフューと口笛を鳴らす。


「アキラ、ごめん。今なら出来る事もあの時は無理だった」

「……シンちゃん、何? なんか言った? 聞こえないよ!」


 優しくて明るいピアノ曲に俺の声はかき消されてしまったようだ。もうごめんはなし。次は観覧車に行こう! アキラの気持ちを受け止める準備は整っている。


「アキラ、観覧車に乗ろう!」

「……次から次だとちょっと疲れちゃう。シンちゃん喉渇かない? 叫んだら喉がカラカラ。待ってて、買ってくるから」


 アキラは俺をベンチに座らせて飲み物を買いに行った。


「マサル、乗り物酔いした?」

『もう平気だ。シンヤ、それより焦るな! まだ時間はたっぷりあるから。まずは己の気持ちに気づき、ゆっくりアキラに伝えればいいんだよ』


「俺自身の気持ち? アキラに対する俺の気持ちは……好きだ。けどどう好きなのかが分からない。異性として好きなのか、それとも。……アキラが今。どう思っているのか確認してないし。アキラがまだあの時と同じ思いをぶつけてきたら。あー、分かんねえ」


 アキラが俺に告白したのは十三歳、幼い頃からずっと兄弟のように接してきた。俺は泣き虫だったアキラを守りたかっただけで、好きだとか嫌いだとか、まして女子を好きになるような好きとは違った。


「僕は、シンちゃんの事が好き」

「……、ありがとう、でも」

「自分でも分かんない。たまらなく好きな事しか、分からない」


「俺もアキラの事嫌いじゃないよ、けど、もし、アキラが望む好きを俺に求めるなら、ごめん、それは受け入れる事が出来な」


 出来ないと、最後まで言えなかった。アキラに突然キスされて口を塞がれた。驚いて、怖くなって突き飛ばした。泣きじゃくっているアキラにかける言葉がなくて、俺は走った。冬休みの校庭。


 今も同じ風が吹いている。もうアキラの涙を冷たい風にさらしたくないと思った。


「シンちゃん、やっぱ、今から観覧車に乗ろう!nこれはそこで飲もう!」

 

 アキラが缶コーヒーを二本持って言う。


 うん、そこでアキラを、アキラの気持ちを受け止めよう。差し出された一本をポケットに入れると、『熱っ』とマサルが吠えた。


 二人一組で次々と乗るカップル。一周回って降りる時は初めてのキスに頬を染めてる子もいるんだろうな。俺はどっちだろう。してるかな? いやされてるかな。


「シンちゃん、次だよ! やった、赤い観覧車だ。なんかいい事ありそう!」


 アキラはその場でぴょんと跳ねる。こういう所が可愛いんだよ。


『アキラは赤が好きなのか? オレ、姿現しちゃおうかな! 赤ジャージだろう!』


 マサルの頭をペシっと叩き、ドキドキしながらアキラと観覧車に乗り込んだ。

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