第49話 サトル💚仁美 お別れです。

「何で?何でよ?ドクターサトル、説明しなさいよ。どうしてあなた、私の前から姿消さなくちゃいけないのよ。私の担当医になってくれるんでしょ!」


 私はきつめにドクターサトルに質問した。名言で返してくるかもしれないと期待を抱きながら。


「……仁美さん、あまりイライラしてはいけません。わたくし、あなたに何度も言ったでしょう。そんなチンチンになったら、フフ、そんな頭に血が上ったら脳梗塞を起こします」


「だって、ドクターサトル、私のそばにずっといてくれるって言ったじゃない。あれはうそだったの?朝のメイクも血圧も日課にしてくれるんじゃなかったの?」


 もしかしたら自分のことばかり考えてるのかもしれない。四十路の女は素直になれない。いやもう五十路だ。


「仁美さんはもう大丈夫ですよ。わたくしがいなくても誰からも愛される人になりましたから。後輩達に慕われ、課長に頼られているじゃないですか。もし、この『妖精販売』計画が上手くいけば、仁美さんだって給料は上がるし、もしかしたら昇進するかもしれませんよ」


「ドクターサトル、何言ってんのよ!そりゃ、お給料多い方がいいに決まってるけど、私が昇進目的に仕事頑張ってると思ってるの?」


 私にだって分からない。幸せは両手におさまるくらいでいいんだもの。あまり欲張ってもこぼれ落ちるでしょ!


 もちろん一度くらい結婚もしてみたかったよ。


 ヨウコが羨ましかったけど、タツオ兄ちゃん断ったけど。一度はウェディングドレス着てみたかったよ。


「仁美さん、わたくしの変身タイム見てくれますか?」


「……白衣になるの?前にジャンプ、後ろにジャンプでしょ!覚えたよ」


 私はサトルの変身タイムを目に焼き付けておこうと思った。サトルは、じゃ変身しますと言って、鼻歌を歌う。


「♫チャンチャチャチャーン、チャンチャチャチャーン、チャンチャチャンチャチャンチャチャーン♪」……どこかで聞いて事があるメロディだ。


「……仁美さん、三分だけわたくしの花嫁になっていただけませんか?ほら、仁美さんも自分の姿を見てください。真っ白だ」


「何?何で、何なのよ!」


私はウェディングドレスを身にまとっている。サトルはタキシードだ。うそ、信じられない!私、花嫁なの!


「……もう、サトル、グスッ、何で、何なのよ!どうして泣かせるのよ。私、サトルとずっと一緒にいられないのに。こんな格好させられて、さよならするの?」


 私のそばにこれからもずっといてくれるって言ったじゃない。ずるいよ、サトル。花嫁はこのあと一人ぼっちにさせられるんだよ!


「仁美さん、キレイです、とてもキレイですよ。わたくしは仁美さんのこの姿を忘れません。仁美さん、これからも貧血の検査して下さいね。ひじき、ほうれん草、レバーを食べるんですよ!」


 サトルはお弁当のおかず覚えていてくれたんだ……。


「……仁美さん、あっという間の三分でした。わたくしのお嫁さんになってくれてありがとう。今日の事を忘れません。……さようなら」


 タキシードサトルは私の薬指に優しくキスをしてくれた。涙が止まらない。たった四日しかいなかったのに……。くずおれて泣いてしまった。


「仁美さん、顔を上げて下さい。!……チャップリンの言葉です。……仁美さん、どうかお幸せに。さようなら」


 ───そう言ってお別れに十秒でメイクを整えてくれた。


  私は頑張って……笑顔でドクターサトルにサヨナラをした。

 





 


 


 




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