第14話 パートナーになっていいですか?
翌日、僕はいつもと違う月曜日を迎えた。ユカから貰ったマフラーをしていけるからだ。吐く息は白かったが、心も首もとも温かい。ミツルさんもちゃっかりコートのポケットに入っている。
「課長さん、マフラー似合ってますよ。さあ今日からも仕事張り切っていきましょう!」
そうだった。また新しい企画を考えなくてはいけない。どこかにいいアイデア落ちてないかな。
「課長さん、ユウト君がヒントになりませんか?」
「敬語の使えないユウト君ですか? さてはて」
敬語で話せるようになるおもちゃなんて思い付かない。本やスマホのアプリなんかにあるんじゃないかな。一応考えてみるけど……。
会社に着く。入社当時は二十人にも満たない社員があれよあれよという間に百人は超えるようになった。万年課長、窓際課長と呼ばれても僕はこのスモールG商事が大好きなんだ。
「課長、おはようございます。忘年会お疲れ様でした。ごちそうさでした」
エレベーター前にいるミナ君、いつもより明るいけど今日は特に元気だ。
「課長、お先にどうぞ」
気味悪いくらいに僕を気遣ってくれる。なら、忘年会の夜、一緒にタクシーで帰ってくれたらよかったのに。
「……また後で会いましょう!」
ミツルさんがミナ君に言った。えっ、ミツルさんは僕にしか見えないはずだ。ミナ君もなんの反応も示していない。誰に言ったんだろう?
午前中は眠くて仕方なかった。ユカのアルバムまで見ていたら、夜中になってしまった。付き合ってくれたミツルさんも机の上でウトウトしている。ジャージだけじゃ寒いよね、僕はハンカチをかけてあげる。
僕もうとうとしていたら部長の声がすぐそばで聞こえて‥…飛び起きる。
「井上君、お昼一緒に行かないか?」
「……はい、喜んでお供します。今日はどちらへ?」
「久しぶりに社員食堂のカツ丼が食べたくなったんだよ」
「いいですね、行きましょう」
スモールG商事の社食はカレーとカツ丼がとても美味しい。僕も大好物だ。部長とお昼に行くのは久しぶりで緊張する。部長はいそいそとカツ丼を注文しテーブルに着く。僕はカツ丼と煮物を注文した。
隣のテーブルで兼子君とミナ君とあゆみちゃんがカレーを食べている。カレーも良かったかな。
「ねえ、茹で玉子なんでワタルが剥いているの?……私のなんだけど、やだ、黄身だけ残すのやめてくれる!……ちょっと、ワタル、お行儀悪い!」
社員食堂中に聞こえる声でミナ君が怒っている。しかもカレーに向かって!
ワタルって社員いたかな? 兼子君の名前はシンヤだし、見回しても女子社員ばかりだ。今時ワタルなんて名前の子少ないよね、あっ、目の前にいた。まさかミナ君は部長の事を言ってるのかな。部長茹で卵剥いてないし、黄身だけ残していないし。
部長は何も聞こえなかったように黙々とカツ丼を食べている。美味しいものを食べるとき、人は集中出来るんだな! あっ、それいいアイデアだ。
「課長さん、何か浮かびましたか?」
ミツルさんが嬉しそうに僕に聞いた。僕はただうんと首を縦に振る。
「井上君、いいアイデア浮かびましたか?」部長が聞く。
「えっ?まあその、あの」
「最近まともに敬語を使えない若者が多いですからね」
「……えっ? 何で、部長聞こえちゃった感じすか?」
僕はユウトの口癖が移ってしまったようだ。
部長はニタリと笑ってからまたカツ丼を口に入れた。
ミツルさんもニコリと笑っている。そして僕にこう言った。
「私、全力であなたの仕事応援します。そうと決まったら新作の企画考えましょう。私、課長さんのパートナーになっていいですか?」
「もちろんいいっす! あっ」
「かっ、課長さん! ハハハ、ハハっ、ハ?」
「ハハ……ハハハのハサンセンコク?ミツルさんこの歌好きだったりして」
「ま、まさか……、好きっす!」ハハ、ハハハ。
ミツルさんは悲しみも喜びも共有してくれるベストフレンド。そして仕事のパートナーになってくれようとした。
💛キイロのジャージ💛
名前 ミツル
身長 12センチ
体重 2・8キロ
特徴 細身のダンディ、モデル体型足が長い 七三分け
趣味 体を鍛える事
特技 家庭を円満にする事
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