第54話 ワタル、虹色ジャージを着なさい。

「何で?何でなのよ?どうして一番下品なピンクのオジさんが長老なの!」


 仁美先輩がワタルを指差している。みんな注目。冠がワタルのバーコード頭にプットオン。神様下手くそですね、ズレてます。


「皆の者、よく聞け!……今日からワタルが小さいオジさん族の長老となる」


「えーあゆみ、びっくりなんですけど。シゲルさんかサトルさんが適任だと思います」あゆみちゃんがそう言ってワタルの冠を取ろうととする。何で?


「……俺はいいと思う。ワタルはバカで下品で変態で、オナラばっかしてるオヤジだけど、いざとなったら頼りになると思うよ」シンヤが親指を立てる。グー。


「私も賛成ですね。ミツルさんは優しいけど、ワタルさんのようなワイルドさがない。ワタルさんなら犬に噛まれても、人間に蹴られても大丈夫だと思います」


 課長がニタリと笑って言う。長老ってそんな扱いですか?残念。


「……ワタルはどうなの?任命されて嬉しいの?出来るの?」


 私は嬉しさ半分、不安が半分で、ワタルに聞いた。ワタルは冠がズレたままみんなに背を向けて……震えていた。やっぱり震えるほど嬉しいんだね。良かった。


「……ワタル、何してんの?まさかお前、ワッ、ワタルー」マサルが叫ぶ。


 よく見ると、ワタルはベイビーカケルを抱き、自分の乳首を吸わせていた。


「ペッ、ぺッ、いらない。バッチイ。オギャー、オギャー」カケルが泣く。二人ともめんどくさいよ。ワタルが好奇心旺盛なの認めるけどさ、今、あんた神様に任命されたんだよ。なんとか言いなさいよ。私は呆れた。


「……慎んでこの大役、お受けいたしやす」


 ワタルはベイビーカケルをほっぽり投げて、神様の前に平伏した。


「ワタルよ、よくぞ引き受けてくれた。これからはピンクのジャージを脱ぎ、平和の象徴である虹色のジャージを着るがよい。ヨーレヒヨーレヒヨ〜レヒホ〜」


 神様は陽気に歌いながら姿を消した。ミツルさんもシゲルさんも、マサルもサトルも笑顔で神様に手を振った。


 ピンク色から虹色のジャージに変わったワタルはドヤ顔をする。調子に乗ってお気に入りの赤いエプロンをつける。ヤバい。誰も羨ましくない姿だ。


「……さあ、シゲルさん、そろそろ黒ジャージの目を覚まして差し上げておくんなしてまし」敬語が使えないワタル。課長に怒られる。


 ───本当に黒ジャージたちは以前の記憶がないのか。

 もう小さいオジさん族を販売する事はしないのか!

 

 私たちはドキドキしながら、会長、社長、部長、黒執事が起きてくるのを待った。

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