【初回版】駆け出し画家、異世界を染め上げる!

銀河革変

第一部 邪神が跋扈する世界エリュトリオン

序章 売れない画家は異界で召喚師となる

第1筆 売れない画家は異世界に飛ばされる (改稿4回)


「はあ、今回もダメかぁ……。」


 手袋越しでも凍える手を擦りながら夕暮れの中、一人の男が愚痴をこぼした。

画廊から自分が描いた絵を撤去し、車に移していた。

 そんな俺、東郷慎二とうごうしんじは駆け出し画家で個展を開いたが、一枚も絵が売れず大失敗に終わった。

 幼少期から絵が上手く、周囲から絵を描く仕事をおすすめされ、なんとなく画家になった。

いや、なんとなくじゃないな。一応、賞は総ナメしてきたし、有名な展覧会からプロから指導を受けたり、美大は主席で卒業した。

元々絵を描くのは好きだった。自分が描いた絵で誰かが笑顔になれば良い一心で、たまに売れた時は嬉しくて父さんに話したりもした。


しかし、現実は厳しく絵が売れない日々を送っていた。

 敗因は立地条件が大きいだろうか。ここは丘の上にある貸し画廊で駐車場もない。

SNSやブログも使ってみたが中々難しい。

今調べてみたらあまりおすすめの売り方ではないようだ。


ブログはただの集客装置に過ぎず、役に立つ知識を記事にして「この人の記事は勉強になる」と知名度が上がってきた所で自分の絵を出す。

このときは売らない。ちらっと見せるだけのようだ。

それから更に知名度が上がってきた時(早い人はブログ開設から半年で)、販売に乗りだし、出展、ブログは有料ブログで誰かがアクセスするだけで収入が手に入る。


不労収入というやつである。


これだけで30万以上稼げるようになってきて、展覧会は個展よりもグループ展や企業の公募展が良いらしい。

大手の公募展は審査員の弟子ばかりが蔓延っており、その弟子がお布施をすることによって賞を獲得し、独占する。

部外者は蚊帳の外で蹴落とされ、先日見たニュースで審査員が八百長やおちょうで捕まっていた。


はぁ、日本の画家って難しい。生き辛すぎる。


とある外国では売れない画家は国が生活援助をしてくれるんだぞ。日本も見習ってくれよ。

って愚痴ってもしょうがないか……。


 落胆しながら運転する中、逆走する高齢者ドライバーが近付いてきた。

ここは高速道路でもなく一般道のはず。いくらショックと疲労がたまっているとは言え幻覚ではない。

確かに猛スピードで近付いている。

 赤信号になり俺は止まったが高齢者ドライバーは止まるどころかスピードを上げて


「ドンッッッッ!!」


 と俺の車に激突した。

 ダラダラと赤黒い血を流しながら意識が朦朧としていく。薄れ行く意識の中


「俺は死ぬのか……。」


 今にも消えそうな声で呟いた。これが死というやつか。真っ暗で何も見えなくて怪我をした部分が絶え間ない痛みを生じ、それを抑えようと傷口から溢れているんじゃないかと思うくらいのドーパミン放出量。音が聞こえないはずなのにドハドバ聞こえてきてこいつのせいで幸福感に満たされ始めた。


「あんたは死なないよ、ドーパミンに負けずに目を覚ましてっ! 」


 そこに透明感を感じる声がエコーのように頭の中に響いた。どこか懐かしさを覚えるが彼の知る人物の声ではなかった。

 もう痛みで辛すぎて開きたくないが、この人の声は不思議な力があるのだろうか?

本能的に目を覚まさないといけないと感じた。



 はぁ。もう、何でも良い。岩がのし掛かったかのように重すぎる瞼をもう一度開いた瞬間、周りに見えるのは事故を起こした道路の車中ではなく、水色や黄緑色、黄色、オレンジ、薄紫が淡く混じり合う空間でかなり水っぽい水彩絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたようだ。


この景色を見た瞬間、体の傷、痛みがひいていき、地面にはりつけにされたと言っても過言ではない体の重みが綺麗さっぱりと消え風船の体になったのかと錯覚するほど軽く感じる。

この顛末に正直頭が追い付いていない。


 空を見ればまばらに裂けた空間の歪みのような所から宇宙の星々が見えた。

俺は宇宙をさ迷っているのか?

 足元も同じような状態で浮いているのかガラスのような所に立っているのが気味の悪さを覚えた。

 スカイツリーとかの透明ガラス床ゾーンが苦手な俺は脚がすくんだ。足元がふわふわする。


 前方辺りからコンッ、コンッと地面を踏み込む靴の音。

 目の前を向いた所、歩く度に円状の波紋を広げ現れたのはかなりの美貌で宇宙の柄がプリントされたワンピースを着たロリっ娘、少女、女性へとコロコロ姿が変わる女がいた。

しかもその服、玉の白き肌と対照にワンピースの銀河や星雲の模様が動き続けている。一体どうなっているのか?

 身長が縮み、伸び、胸が膨らんではつるぺたになり……最後に引きずるほど髪が長いロリっ娘に変化した。

身長は110㎝ほど、目が星屑を散りばめたような大きい瞳。

そして俺に向かって先ほどの懐かしさを感じる落ち着いた印象ながらも可愛らしさを感じる声から一転、甘ったるくて幼さを感じる、俗に言われるアニメ声で彼女は俺に話しかけた。


「いらっしゃい、東郷慎二くん。」


「どこで俺の名前を知った? 君は一体誰なんだ?此処は一体何処なんだよ?天国とか霊界とか異世界とか言うんじゃないよな?俺はまだ死にたくない。」


「質問が多すぎるわ。そしてここはどれも当てはまらない」


「ここはね、唯一世界ユニバースワールドと呼ばれる場所よ。すべての星、銀河、星雲のネットワークの根源。

 限られた者しかたどり着かない場所。

 来訪者が好むもの、得意なものが素直に現れる場所でもあるわ。

 あんたは絵が好きだから回りの空間が絵の具を混ぜたような色合いになってんの。

 あと、あたしのことなんだけど私はなの。だから名前なんて無いわ。」


「なんだよ、って。名前がないなんて不便だな。君の名前は呼びにくいから宇宙、宇宙……そうだコスモなんて名前はどうだ?」


「あのね、っていうのは噛み砕いて言えば宇宙の存在を具現化したのがあたしよ。わからなかったらもっと噛み砕くわ。あたしは宇宙の創始者。

 それとあんた、さっき死んだばかりなのに随分余裕あるじゃない。

あたしは138億年生きてきてまともに自分に名前を付けてくれた子なんて初めてよ。いや、二人目だったわ。前言撤回。

まあ、皆あたしを宇宙の創始者だから下手したら魂ごと潰されるんじゃないかなとオドオドしたりするの。

あなたの度胸とあたしをあたしとして扱ってくれる部分、気に入ったわ。

その名前受け取ってあげる。

 話が逸れちゃったわ。本題に入ろうかしら。私、コスモちゃんがあんたを呼んだ理由。」


 コスモはふぅ、と一拍置いて


「とある異世界の問題を解決して欲しいの。問題はあとから教えるわ。あんたにはね、絵を使って無から有を生み出す能力があるの。いわゆる召喚術ってやつ。その能力は地球では100%効力を発揮出来ないけど今からいく異世界ではものよ。」


「それとあんた一人じゃ辛いだろうし、どこぞの小説みたいに既存の衣装で怪しまれないように行き先の世界の衣装と助手2名を用意してあげる。

細かいことは二人が教えてくれるから。

喜びなさい、二人とも女の子よ。さぁ、準備は良いかしら? 」


「え?ちょっと待てよ、おい! って──」


「我望む、この者を転送せよ。【世界墜落】フォールアウト


「うわぁぁぁぁぁぁぁーーー!! 」


 俺の足元に銀河のような渦が現れ飲み込まれた。

 こうして売れない画家、東郷慎二は異世界に飛ばされることとなった。


「ふふふ、頑張ってね。運命の子、シンくん。あの子から頼まれていることがあるの。」






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