第47筆 天使長の誘拐

「…ね……ぇ……。…ねぇ……。……ねぇってば! 」


何処か聞き慣れた声がする……。


「シンお兄さん起きてくださいっ! 」

「っのわぁ! 何だ!? 俺カルデロって奴に斬られたんじゃ? あれ、ユミトにコスモ? ってことは唯一世界ユニバースワールド? 」

「そうよ、シンくん。あんたってヒトはいつも無理するんだから。」

「全くです。」


二人に抱きつかれたが無事死ななかったってことか。ベッドで眠っていたようだけど身体も縦一直線に斬られた割には傷痕がない。魂だけがここに来ている状態か。


「ふぅ、生きてて良かった~。戦況は? 」

「一応死なないようにしたから肉体も大丈夫よ。」

「僕がやっておいたので。 」

「助かる、有能な弟よ。」


「それで戦況としてはカルデロはスキアゼルくんとオロチくんが倒して死んだわ。というか口内の奥に毒薬忍ばせていたみたいで噛んで自殺した。

アイツ、洗脳されていて邪神の眷属になっていたの。

死ぬ間際にフィルトリアちゃんが巻き込まれて転移、転移先もあたしでもユミトくんでもほどけないジャミングがかかった先に転移されている。」

「狙い目は元よりスキアゼルさんかフィルトリアさんだったのでしょう。

強大な天使か悪魔の長、どちらかを傘下に入れてしまえば好都合なのは確かです。

ただ、スキアゼルさんは表には出しませんでしたが、かなりお怒りの様子。大好きな妻を奪われてしまったのですから。」


となると、婚儀魔法は本当に使っていたんだな。ツンデレの妻、いつも冷静そうに見えるスキアゼルさん。そんな彼が怒っているくらいだ。


「結局な所戦況は最悪。天使が邪神側についちゃうから、ラグナロクは面倒になる。あと、悪魔も取られる可能性は高いよ。」

「悪魔が取られるのを防げるのはスキアゼルさん以外にもう一人います。それは――」

『ソルドレッドさん・くん。』


えっ? ソルドレッドさんってイサクさんの神器作ったあの……!?


「そう、あの人よ。彼は今ミューリエちゃんたちと一緒にいるわ。

彼はね邪神撃退後、イサクくんと一緒に倭国を建国した後に日本に渡る研究を十年、そして日本に渡り更なる刀鍛治の技術を手に入れたわ。そして度重なる渡航の中、転移門の存在に気付き、私の元に来たの。正直、驚嘆した。自力で転移門を作る人がいるとは思わなかったから。

それからお茶友になって今では長い付き合いよ。」


「となると、日本にいつでも行けると? 」

「えぇ、いつでも行けるわ。ただ、時間は取り戻せない。シンくんが日本では死んだことになっていることは変えられない。」

「ですよね~。この邪神討伐が終わったら行っても良いですか? 」

「ごめんね、シンくん。倒すまでは行けないから。終わったら大丈夫だよ。」

「では、改めて説明を。」

「戦況は最悪。天使と悪魔が邪神側に回るリスクが上がった。でも大丈夫。あたしたちが時間を稼ぐから。」

「希望率上げておくのでご心配なく。ご自分の足で仲間を見つけてください、シンさん。」

「勿論、そのつもりだ。」


「んじゃお馴染みの――」

「【世界墜落フォールアウト】マジ勘弁!!」

「やんないよ、転移門使うから。あれね。」


コスモの細い人差し指で差した先には襖型の門が。


「あれ、ソルドレッドさんお手製の門だから安心して。研究500年の代物よ。」

「じゃあ、頑張って下さい。」

「またな、二人とも。」


転移門を潜った感想はぐちゃぐちゃしたねじ曲げられた空間の膜を通ったら直ぐに塔の前に着いた。

そこには倒れた俺を介抱するミューリエ。

これって幽体離脱しているのか。人生初だけど……とりあえずすっぽりはまれば良いのかな?

自分の身体を踏みつけたのにも関わらずすり抜けた。足を合わせてそのまま体勢を下ろす――


「ごめん、ミューリエ。心配かけた。」

「シンくんっ! 」

「えーっと、いつもの皆に知らない人が三人? 」

「えっ? 二人だけど? 紹介するね。」

「拙者はソルドレッド・カルーセル。」

『おいらはルスト・ハーレイヴ。姫様の剣でインテリジェンスウェポンだよ。』

「ニュフフフフ……。ガラジェイです~。」


え?誰も気付いてないの? ミューリエの隣にハットを被った男性がいるんだけど。後で聞くとして姫様って誰よ?


「ソルドレッドさん、宜しくです。姫様って誰? 」

『なっ!? それでも彼氏かよ! 姫様と言ったらミューリエ姫しかいないだろう! 』

「となるとミューリエは剣を持っていたのか? 」

「あれ? 過去のお話で言っていなかったけ? 」


「言ってないよ。宜しくルスト。」

『宜しくね、シンさん。おいらはシャルトュワ村の宿屋青葉のそよ風亭の女将さんが言っていた魔物のようにうごめき成長する剣さ。』

「それをミューリエが手に入れて更正させたと?」

「そんな感じかな。ルストくん結構強いよ。斬った敵さんの能力を奪うから。」

「ルゥと似てる感じか。捕食した者の能力を得る。」

「そうかもな。シン、そろそろ日が暮れる。詳しい話は宿屋に向かってからだ。あと、ガラジェイと言ったか。なんでミューリエの隣にいるんだ? 」

「ニュフフ。『実体化』。」


「誰!? キャアァァァァァァァ!『永劫消失エタニティヴァニシング』! 」

「『滅びの全抵抗パニッシュフルレジスト』。ガラジェイと言ったではありませんか。ワタクシ、死霊術師、ネクロマンサーと言った方が良いでしょうか? そういう者です。

一応S級冒険者でして英霊さんとの契約を結び戦うスタイルをとっております。

西方大陸の蘇生、見事な手腕でしたよ。早速ですがネックレスを頂けますか? 友好の証として授けられると聞きました。」


結構怪しいな、こいつ。邪神教じゃあるまいな。


「もしかして邪神教だとお思いですか? 失礼しちゃいますねぇ。ラグナロクに協力すると言っているのです。」

「……どうぞ。裏切りを見せたらそのネックレスが首を縛るのでご注意下さい。」

「ニュフフフフ! ありがとうございます。ではまた会いましょう。」


そう言って不思議な男、ガラジェイは去っていった。


気分を変えよう……。

さぁさぁさぁ、恒例の宿屋リポート! まずはお名前! 「幻夢の塔前亭 」塔の迷宮の前にあるからそのまんまだね!

挨拶も程ほどにお部屋は……四人部屋なので二つ分かな。

それでも窮屈さを感じない部屋の広さは素晴らしい限り! メロル=シュルハの高級宿には叶わないけど良い宿だ!


「シンくん、リポートなんてしてないでご飯食べよう。」

「あぁ、恒例になっているからつい……。」


食事もまあまあだったので明日出立しようかな。

部屋割り問題は

俺、ウィズム、ミューリエ、スキアゼルさん


オロチさん、ルゥ、ヴォルフガング、ソルドレッドさんでルストくんはミューリエのアイテムポーチに入って眠りについた。


部屋に入る前に気になったことを聞いてみた。


「スキアゼルさん、配下の悪魔たちはどうなりますか? 」

「ソルドレッド殿が知っている様子。

なので頼らせてもらいますよ。フィルトリアは大丈夫、そんな感じがするよ。」

「おう、きちっと案内しよう。シン、ちょっと良いか? 」

「何でしょう、ソルドレッドさん? 」

「明日、プレゼントと話を聞かせてくれんか。召喚術についてな。」

「俺、あげるばっかりなので嬉しいです。では、お休みなさい。」


プレゼントって何だろうな? ミューリエに聞いても良い物だから楽しみにしたら良いよ。と言っていたから楽しみだ。

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