第48筆 剣の内部世界ブレイリアへ (改稿)

彼の朝は早く、僕が食堂スペースに来たときには既にパンを小さくちぎって食べていた。日本で買ったっぽいイチゴジャムをつけて。


「おはようございます、ソルドレッドさん。そのジャム大丈夫ですか? 文化的に……。」

「あぁ、問題ない。拙者の手作りジャムでオリジナルブランドと言ったら了解を得た。紙のパッケージシールも特別な製紙技術だと言っておいた。」


「いや、だからそのパッケージの製紙技術が問題なんですよ。エリュトリオンでは羊皮紙が最高品質じゃないですか。」

「まぁ、ええじゃないか。拙者とシン、産業革命はいつでも起こせるだろう? 」

「そうなんですけど……エリュトリオンの良さが消えそうで……。」

「許可はもらっている。それに代わりはないだろう。では部屋に戻ってから本題に入ろう。久しぶりのイチゴジャム、どうだ? 」


そういやイチゴジャムなんていつぶりだろう……。二年は食べてない。無添加と書いてあるから甘さはそこまで控えめかな。


「パクっ。はぁ、美味い。こうして食べると改めて地球の文明レベルの高さに驚きます。」

「そうだな、地球恐るべしだ。」


朝食後ソルドレッドさんと共に部屋に入る。彼のアイテムポーチから出てきたのは包帯でぐるぐる巻きにした棒状のものだった。包帯をほどくと刀身のみの銀河の渦と星々が打たれた見事な日本刀が一振り。同じくして取り出された太刀掛たちがけ台に鎮座した。

色は宇宙の色と言ったら雑なので光の当たり方によって青、緑がかった黒、紫、赤黒と様々な変容を遂げる美しさ。もっと分かりやすく形容すると“曜変天目茶碗ようへんてんもくちゃわん”の輝きだ。

実際に敵を倒す為に使うよりかは美術品としての稀少性を感じた。


曜変天目茶碗ようへんてんもくちゃわんを越える輝きじゃないですか!これをくれるんですか? 」

「あぁ。だが渡すにはまだ早い。問題点が三つ。

一つ、強度。二つ、折れにくさ。三つ、天叢雲剣あめのむらくものつるぎに勝てない。天叢雲剣あめのむらくものつるぎを見せてくれないか? 」


使わない時はアイテムポーチにしまっている。最近はわざわざ神器解放しなくても日本刀の姿を取らなくなった。再召喚の影響かもしれない。本来のつむがりのツルギの姿だ。

アイテムポーチから取り出し鞘から引き抜く。


「おぉ! これが天叢雲剣あめのむらくものつるぎ! 何て美しいツルギじゃ! やっぱり日本の剣でこれに勝る剣はない。なぜ勝てないかと言うと……太刀掛け台にある刀、曜変天目刀と仮称しようか。それに天叢雲剣あめのむらくものつるぎを軽く当ててみてくれ。」

「核パスタで強化しているので曜変天目刀が欠けますよ? 」

「いや、検証だからな。」

「わかりました。」


天叢雲剣と曜変天目刀(仮)を軽くぶつける――!


「キィンウィン、キィンウィン、キィンウィン!」

「えーと、特に変化は……ガグワァァァン!! 」

「お、成功した。」

「閃光が走りましたけど、いや、何処ですか!? ここは! 」

「剣の内部だ。」

「なんですとぉー!?」


そこは真っ白な空間で卵の中にいるかのような楕円の空間だった。


───────────────────────


『おはよう~シンさん! 何でここにいるの? 』

「ルストくん、ここは何処なんだよ? 」

『どこもなにもソルドレッドさんが言った通り剣の世界だよ。ここはシンさんのパーティー、アルヴェン=ラストセイヴィアスの皆が持っている剣たちの世界って感じだね。人間が入るのは初めてだよ。』


「あれは……女の子に青年? 」

『あれは女の子が仮名、曜変天目刀ちゃん。20代のお兄さんが天叢雲剣だよ。』


『おはようございます、ソルドレッド様。』

『……はじめましてだな、我が主。』

「混乱が止まらないんですが。」

『あー、説明足りないかなシンさん。ここは剣の世界、ブレイリア。ここに住むのは おいらと天叢雲剣先輩、曜変天目刀ちゃん、スキアゼルさんの剣。』


「シン、ここは剣たちが住む世界で拙者らはお邪魔しているというわけだ。」

「やっとわかりました。それでここからどうするんですか? 」

「言いにくいんだが、天叢雲剣の刀身の半分を分けてほしい。そして宇宙最高硬度を誇る原子核パスタを曜変天目刀に追加して欲しい。」

「二人とも大丈夫か? 」

『それ、面白そうだね、僕の刀身の半分あげるよ。シンさんの再召喚で自動修復機能付けるんでしょ? 』

「ルストくん、勿論そのつもりだ。スキアゼルさんの剣もいますか? 」


上空から彗星の光を出し降り立ったのは仮面を着けたヒトだった。


『何か用か? 』


「中性的な良い声ですね。再召喚します。再召喚すると好きな能力を得ることが出来ます。」

『ありがとう。お前、強い。俺も強くなるなら頼む。』


「では、【画竜点睛アーツクリエイト】起動。曜変天目刀、天叢雲剣、ルスト・ハーレイヴ、スキアゼルさんの剣よ返還リバースしたまえ。」


注釈欄起動。

・天叢雲剣

天照大御神が製作手配し天目一箇神あめのまひとつのかみが製作。先代所有者、建速須佐之男命すさのおのみこと、天照大御神。現在の所有者、シンイーストサイド。その他の所有者は天叢雲剣自身が認めていない。


俺のこと認めてくれているのか。有難い。


・曜変天目刀

ソルドレッド・カルーセルにより製作。

500年の研究の極致。この刀で最後の刀製作となり次は銃の製作を開始する予定。


彼女が最後の作品、そして俺の刀になるのか。

名前はウルトリムちゃんにしよう。

和名は晞颯ひそらだ。


・ルスト・ハーレイヴ

火聖神アウロギによって製作されたエリュトリオン初の神器。あまりの強大さ故に暴走、海に投棄されるが怒りのあまり毒海に変える。六聖神によって北の大陸の『秘地』に封印される。後に現在の所有者ミューリエが取得、暴走も力の一端へと浄化され現在に至る。


ルストくんアウロギの手製だったのかよ。


・スキアゼルさんの剣(名前剥奪済み)

所有者スキアゼル・アストルファーの誕生と共にありし武器。槍や鎌になることも可能。

彼の体内から出現した。誕生時に腰に小さな出っ張りがあり、スキアゼルが引っ張ると脊椎の一部が変化して剣となった。それがこの剣である。


強いのは確かだ。名前をあげよう。

君の名前はライソラスだ。

では、深呼吸を一つしてから。


「すぅ~。我が名はシン。更なる進化を求めて合間見えよう。天叢雲剣、ウルトリム、ルスト・ハーレイヴ、ライソラス。【再召喚リ・サモン】!!」


返還するとプレビューに剣の姿が出てくるので描くのは以外と楽。数秒で終わった。核パスタを皆に注入、ウルトリムちゃんに三人の刀身の半分を注入したので折れにくくなったと思う。


『主よ、自己修復機能を獲得したぞ。』

「おめでとう、天叢雲。」

『うむ。』

『ありがとうございます、シン様。ウルトリムって良い名前ですね。』


ウルトリムちゃんは10歳から18歳くらいの美少女に成長した。おう、なかなかキラキラしている。

曜変天目茶碗を越えたな。


『お茶碗じゃありません。』

「真に受けなくても良いんだよ。」

『そうですか。今日から宜しくお願い致します。』

「あぁ、完璧な刀だ。シンの召喚は拙者を越えやがった。本当にありがとう。仕上げに100年かかった。うぅ、うぅ。」


泣かんでくれ、ソルドレッドさん。俺はいつものことをしただけ。でも仕上げに大変苦労したんだろうな。


『シンさんありがとう。自己修復機能無かったから感謝するよ。』

「俺がいない時はどうか守ってくれ。」

『言われなくてもっ! もう4万年以上の付き合いだよ。』

「そうだったな。」


『ありがとう。名前をくれて。ライソラス、良い響きだな。』

「スキアゼルさんのこと、お願いします。奥さん不在で不安定かもしれませんが。」

『あいつ、愛妻家。だから怒っている。だけど大丈夫。心配するな。』

「わかりました。信じます。」

『では戻ると良い。』


彼らが剣の形へと戻り、特にライソラスは塔の時は茶色かった刀身が紅色になっていた。ウルトリムちゃんもさらに打ち込みが増えていて宇宙を形容している。天叢雲剣、ルスト・ハーレイヴくんはかわりないようで覇気が増えた。

そして剣たちは「カァン!」と互いを打ち付けると元の部屋に戻った。


「戻ったな。最後に説明しておく。長くなるが構わぬか? 」

「説明お願いします。」


「武器には遺伝子がある。特に神器レベルの武器には遺伝子があって互いの材質を混ぜると性質を受け継ぐことがある。

剣の場合、遺伝子=剣の因子があってそれぞれ持つ。強大な神器の力を人体に埋め込む話を聞いたことがあるが可能だ。

だが因子を手に入れるには先ほどの世界、ブレイリアに行く必要がある。鍛治師と神の力を持つものしか行けぬ。強大な神器がぶつかれば共鳴現象が起きてブレイリアへと繋がる門戸が開く。戦っている時は起きないがな。

シンの場合は直接体内へ剣の因子を循環させるので最高のパフォーマンスを発揮できるというわけだ。」

「何となくわかりました。」

「拙者から伝えられることはここまでじゃ。とりあえず剣の因子というのがあるのを知っておくと良い。神器鍛治師には基本的な知識だ。」

「一つ質問があります。本物の神器は神力を使うと聞きました。」

「それは事実。魔力で代用出来るが、神力がもっとも効率が良い。神力でないと一秒、一年寿命が縮むからな。神器解放の代償とは神力の有無によって変わる。それほど神の力は強大ということ。神の祝福を得た人間は神器解放のデメリットが無くなる。」

「なるほど、そろそろ別れの時ですか? 」

「残念ながらな。ウルトリム、シンの剣となり盾となれ。頑張れよ、さらばだ。転移門。」


ソルドレッドさんは転移門を開き去っていった。

宜しく、ウルトリム。

『宜しくお願い致します、シン様。』


俺は新たな刀ウルトリムを手に入れた。


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