第45筆 洞窟の迷宮 前編 (改稿)
シンくんと別れた私はウィズムちゃん、ルゥちゃん、ヴォルフガングくんと一緒に洞窟の迷宮に入ることになった。シンくん、イムロスの時みたいに不意打ちに遭ってないと良いんだけど……。洞窟ってジメジメしていて嫌なイメージだけどどんな感じかな。
「ミューリエさま、最深部ほど魔力濃度が高くなり酸素は薄れていく為、酸素を必要とせず、且つ強力な魔物の出現が予想されます。入り口周辺は蟻や蝙蝠の魔物が多いそうです。ただし、火の魔法は使用を控えてください。酸欠になります。」
「ジメジメしていないかな? 」
「大丈夫だと思うよ~。風がね、教えてくれたんだ。」
「ルゥちゃんを信じてみるね。」
「では、某を先遣隊として――」
「もぅ、ガングッ! 無理しないの! 」
「はっ、すみませんルゥ様! 」
「様は付けないのっ! ルゥで良いから。ほら、一緒に行くよ~! 」
ルゥちゃんとヴォルフガングくんが先に洞窟へと入っていった。あっ、ちょっと待って~!
――追いかけて到着したときにはヴォルフガングくんが蟻の魔物を引っ掻いて倒していた。
4年前に目覚めた時、生態系が大きく変わっていたから魔物の名前がわからない。
「あれはキラーアントですね。酸を飛ばし、大顎で噛みつき、齧った肉で自身を強化する魔物です。」
「ふん、主君らを倒そうとするなんざ100年早いぞ、蟻ども。【
「ガングくんの技初めて見たね~。」
「空間を利用した技が得意なんですね。」
「いかにも、ウィズム様、ミューリエ様。」
「ギーー! ギー! 」
「こぉら、よそ見禁止っ! 倒されちゃうよガング!【
ルゥちゃんが出した重力の塊にキラーアントたちが練り固まって腕を変形させた口で補食した。ルゥちゃんの補食シーンは未だに慣れないよ……。最近は腕から吸収するようになったけど……やっぱり怖い。
「私の出番ないね……。」
「奥地には強い子がいるみたいなのでミューリエさま、ファイトっ! 」
キラーアントたちが出てきた巣穴を埋めて、更に下ると階段があって、しかも石レンガの階段だから吃驚した。隣の塔の迷宮は8500年前にもあったけど迷宮って良くわからない。お父様も気付いたらあった位の認識みたい。
階段の先には扉があっていかにも人の手が加わっている。ウィズムちゃんが興味深そうに眺めていて、扉に触れた。
「これ、面白いですね。解析します。――なるほど。まず、この階段は対魔レンガで出来ていて誰かが先に組み上げて置いていったようですね。それとこの扉も同じ人物が作ったものだと予想されます。更に鍵と結界魔法が掛かっているので何かが封印されているのかもしれません。例えばモンスターハウスとかですね。」
「えっ? でもウィズムちゃん、ここしか通り道ないよね? 」
「もしかしたらキラーアントたちの巣穴が正解の通り道かもしれません。」
「じゃあ、元に来た道を戻ろうか。」
彼女は名残惜しそうに再度扉を見ていて突然、目を見開いて口をあんぐりとさせた。
「どうしたの、ウィズムちゃん? 」
「え? これ、嘘でしょ!? この扉の下にサインがあるんですよ。そこに『ソルドレッド・カルーセル』って書いてます。」
ソルドレッドさんって400年前の神器製作の鍛治師で神器『
「そうです、あの人です。彼はイサク氏が邪神撃退までの顛末を見た後、イサク氏と共に倭国を建国。弟子に日本刀のレシピを残し、更なる日本刀の研究の為、異界へ渡る技術を探して10年。イサク氏はコスモ様のことを生涯秘密にしたのでソルドレッド氏は薄々気付きながらも敢えて訊かず、自力で見つけ、56歳の時に丸い舟に乗って日本に向かったそうです。ボクの推測ですが、うつろ船伝説はソルドレッド氏なのではないかと期待しているのです! 」
「となるとウィズムちゃん的にここにはソルドレッドさんが残した研究施設とか言わないよね? 」
「え? 今から言おうとしていたところですが。ルゥちゃん、ヴォルフガングさまどうしますか~? 」
「宝探し、面白そう♪ 」
「某も気になりますな。」
「もー、仕方ないなぁ。私も興味あるから行ってみよう! 」
「では、早速解錠します。【
わかった! あっ、そういうことね。ヴォルフガングさま、時空間を歪めてください。」
「解錠出来るのならば喜んで。
「ガチャン!! ギィィィ。」
「開いたっ! 」
「おぉー!」
重い解錠音が鳴り響き、軋みしがら自動で開いた扉の先にはちゃぶ台に座布団で正座、両手に湯飲みを持ちお茶を啜る白髪のお爺さんが一人いた。しかも和服を着ている。ドワーフのような人だ。
「あぁ? 拙者の鍵を破るとは何奴!? 」
───────────────────────
「お前、切り刻んでやろうか! 」
「ちょっと、待ってください! 貴方はもしかしてソルドレッド・カルーセルさんですか? 」
「いかにも。拙者がソルドレッド・カルーセルだ。」
ウィズムちゃんが食い下がって聞いたところ、本当にソルドレッドさんと思わなかった。
「そこのお嬢、ロボットか? 」
「はい、ホムンクルスとゴーレムとアンドロイドロボットを混ぜた生命体に近いです。ボクの名前はウィズムです。」
「ウィズム、宜しく頼むぞ。久々の客人、正直嬉しいが、扉を閉めてくれ。内側からは容易に開ける。話はそれからだ。まぁ、茶を飲め。」
ソルドレッドさんの部屋は日本家屋の和室で箪笥やちゃぶ台、左側に囲炉裏、
「美味しいですね。玉露ですか? 」
「いや、嬉野茶だ。香り高く、喉越しが良いのが特徴だ。玉露は季節になったら飲む。それでお嬢さんは? 」
「ミューリエ・エーデルヴァイデで――」
「最高神の娘か、とうとうラグナロクが近いのか……。邪神が本気を出すぞ。言わなくてももうわかる、ミューリエ様。だが、なぜイカイビトがいない? 」
「それはね、隣の塔の迷宮を攻略しているから別行動なんだ~。」
「お嬢と狼か。」
「ルゥだよ♪ 」
「某はヴォルフガング。お会いできて光栄でございます。」
「ほぅ、特異点に新種族か。本当に最後の戦いが近づいている。イカイビトの特徴は? 」
「赤い髪で絵を用いる召喚術を使います。一応異界出身の神で私の彼氏です。」
「エルゼンハウズ様の予言通りか。益々面白い。」
「私からも質問しても良いですか? 」
「可能なことなら。」
「日本に時々来ているんですか? 」
「そうだな、拙者の後ろにある襖一番奥の部屋に船がある。自由に日本と行き来できる優れものを作ったのだ。だから好きなときに日本へ行っている。
あとオマエらが潜った玄関の隣にある扉がさっきの扉だ。そして右側の奥に工房がある。付いてこい。」
ソルドレッドさんの案内に従いつつ後に付いていくと数々の武具や防具が漆喰の壁に掛けられていてショールームのようになっている。特に日本刀はガラス張りのケースで囲っていてとても大事にしているようだ。
「ミューリエ様、これだ。」
「わぁ、綺麗! 」
「きらきらしてるね! 」
「美しいの一言に尽きますな。」
「燦然と輝いていますね! 」
ソルドレッドさんが指差したのは刀身のみの日本刀だった。星雲と銀河の紋様と古代文字っぽい刻印の一振り。
「まだ、未完成なんだよ。後一つ、いや二つ足りない。天叢雲剣のようになれば最高の剣になるのだが……。」
「天叢雲剣はシンくんが持っていますよ? 」
「なんだとっ!? フアッフアッフアッーー!! こいつは興味深い!! なんて奴だ。シンという野郎は! イサク以来だ! 」
「シンくんはイサクさんに勝てないって言ってましたよ。」
「イサクは拙者の刀をこの上なく使いこなした。
……よし、決めた! シンに会いたい。拙者も400年ぶりのエリュトリオン、楽しもうかね。」
「エリュトリオンのことは見なかったんですか?」
「興味なかった。イサクが死んだ時に葬儀に出た位で後は日本に行ったり来たりした。食べ物も日本のご飯の方が上手いからな。寿司が大好きなんだよ! 」
「お寿司良いですよね~♪ 」
「魚介類を生で食らい、且つ酢で締めるとは粋なことを考える。」
「お寿司食べたことなーい」
「某もですぞ。」
「どんな味なんでしょう。」
「お寿司はシンくんに頼むとして、最深部行ってみたいんですけど、ソルドレッドさん案内してくれますか? 」
「ここは拙者の庭。児戯にも等しいわ。案内しよう。」
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