勝利、そして……
「ウゥリャァーー! 」
「ハァァァァ! 」
互いの剣戟がぶつかり合い、火花が飛び散る。
──聖剣キュベルミナスの一撃が重い。
それは獅子の咆哮を受け怯んだ隙に万物を切り裂かんとする烈爪のようだ。
咆哮……。
互いのツルギがぶつかり合う度に衝撃が拡がり俺の鼓膜をつんざく。
「音が聞こえない──!? 」
俺が“咆哮”と称したのはそのためだ。
天叢雲剣をしならせ、振り、突き立てては切り上げる。それを易々とルキファは往なし、果敢に攻め立てる。愛剣から伝わってくる聖剣の猛々しい振動は手から腕へ、軈て脳へと到達し、爆発へと至る。
「うぎゃあぁぁぁぁ!!」
頭に激震が走り、脳髄がブチリと音を立てて潰れていく──!
力なくだらりと垂れた左腕に感覚はなく砕けた骨が飛び出して血を滴らせる。血塗れの“愛剣”は地面に落ちて“彼”の悔しそうな表情が浮かんだ。
ルキファが笑みを浮かべて何か呟いている。
「&¥&&#▲○□#▲◎■□!」
ちっ。聞こえない。
生憎俺は読唇術の心得はないので困った時のウィズム。適正なスキルを授けて貰った。
『これで貸しひとつですからね。贈与〘読唇術〙。』
良いだろ、そんなこと言うなよウィズム。
〘読唇術〙によってルキファの言葉が手にとるように理解出来る。
なるほど、さっき言ったのはこうか。
『ハハッ! 六聖神の祝福の能力で音を操る能力だぜ! 闘いが長引けば長引くほど衝撃が骨を砕き、筋肉を弛緩させ血脈は滾り、たどり着いた脳髄は凶音により壊れ行く。バケモノのシンでも堪えるだろ!』
うーん? なんだか違和感を覚える。
あやつの影がちらほらしているのは気のせいだと思いたいが、今は気にしないでおこう。
「シン、君の耳はもう聞こえないだろう? って聞こえないか。」
「あぁ、聞こえないが、読唇術で何を喋っているかはわかる。」
「!? 聖剣流:四騎〘獅帝の進撃〙をもろともしないとは神様怖えな! 」
神器解放なしで使える技であの威力……。
「俺も“あれ”、使うよ。」
「あれってなんだよ? 」
ルキファの質問をよそに俺は続ける。
「一つ、我は目を失いし者。二つ、我は耳を失いし者。三つ、我は鼻を失いし者。四つ、我は舌を失いし者──。」
五感の一つずつが一時的だが、使い物にならなくなる。喋れなくなってしまったのでここから心の声で詠唱する。
(残りし一つの五感は究極の力を得ん。古来の神よ、我は
触覚、触れることが万物に到達した今この時、我は全てを
〘一覚識〙──!
右手をルキファに向けて空を触れる。流れが彼の場所を教えてくれ、挑発のポーズを取る。
理解したルキファは俺の挑発にのりキュベルミナスで斬りかかる。振り下ろす際に発生する僅かな“乱れ”を逃すことなく避け、天叢雲剣に“触れる”。
今、この闘技場にある大気全てが俺の味方となり、手を翳せばどの方面でも動く。
恐ろしいほどに識っているので、背後の南南西から炎を纏った聖剣で襲われることも、待避して上空から兜割りをけしかけることも予期できている。
──数分のうちに決着がついた。
最後の一撃は酸素を消失させたのが決め手になった。
酸欠で倒れたルキファ、そしてラティさんが視える。この技の欠点は五感のうち、四つを一時的に失うことと一歩も動けないことだ。
なぁ? そろそろ姿を表したらどうだ“クシュトラ”?
「クハハハハハ! バレていたか!! 」
聖剣キュベルミナスの彫刻にはエドュティアナの彫刻が彫られており、祈るような横顔から落涙した一筋の黒が地面に滴った時、クシュトラが現れた。
「なんでてめぇがここにいるんだよっ!? 」
「いやなに、予定が早まった。本当は来年まで待とうと思っていたが、“失敗した”。」
「“失敗した”? どういうことだ? 説明しろよっ!」
俺が本気の一閃を吹き飛ばすが、クシュトラは自分の腕を一捻りすると何事もなく吹き飛んだ。
「説明など無用。さぁ、鍵を突き立てよう。
“我が片割れ”よ! 」
俺の〘超視力〙をもってしても捉えきれない圧倒的速度で消えたと思いきや胸の中心部に違和感を覚えた。
それはクシュトラの腕で引き抜かれ、赤くなった拳には光輝くナニカを手にしていた。遠退いていく意識に見えたのは着実に近づく地面だった。
──終わり?──
改訂版に続く。
【初回版】駆け出し画家、異世界を染め上げる! 銀河革変 @kakuhenginga
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