第37筆 合流したカタオモイ
キフェを保護し、部屋が一つ空いていたのでそこに泊まってもらうことにした。ミューリエと二人で寝ると言ったらオロチさんから結構からかわれた。
「ついにあんなことやこんなことをするのか? フハハハハ! 」
「普通に寝るだけですよ。あんなことやこんなことはまだ早いです。」
ミューリエと俺、オロチさんとキフェ、ルゥ、ウィズム、ヴォルフガングの四人と一匹に部屋を分けた。
たまには手を繋いで行くのも悪くない。彼女の手は肉球のように柔らかく、ぷにぷにしている。
高校の時に付き合ってた彼女の手もぷにぷにしてたなぁ。こんなことを思い出しているとミューリエの握る手が強くなって……痛い、痛い! 骨折れる!
「未練ったらしいのは男の子の悪いところだよ、シンくん?」
手をつねらないでくれ、痛い! ミューリエってこんなヤンデレだったっけ? 違う気がする。
彼女がドアを荒々しく開けてベッドに押し倒した。そして馬乗りになって抱擁した。もしかしてミューリエさん、笑顔であんなことやこんなことするつもりですか?
「ううん、そんなことしないよ。今更よそよそしくしないで欲しいな。シンくんの香りを楽しんでいるの。それとね、怖かったの。ウィズムちゃんやキフェちゃんにシンくんを取られるんじゃ無いかって。それとシンくんに会ったのは初めてじゃないよ。何処かですれ違っているのを覚えてないかな? 」
「ごめん、覚えてない。ミューリエが地球に来ていたのがびっくりだ。」
「私ね、4年前に
コスモ様は8500年前、眠りにつく際も邪神、いえお母様を止めようと尽力していた。だからね、シンくんならお母様をどうにか出来るかなって、こんな格好良い子と一緒にいれたらな、って思ってたの。
つまり、一目惚れしたんだ。だからね、会いに行ってたりしてたけど気付いてくれなかった。私、巫女さんのバイトやってたんだ。」
「高3最後の正月に巫女さんのバイトしてた黒髪のとんでもない美人さん? 丁度当時の彼女にフラレた時に慰めてくれたお姉さん? 確か名前はミリアちゃん? 」
「そうだよ、それ、私だよ? 」
「えっ、マジっすか? もう会ってるってそういうことなんだ。」
あの時画家になると言ったら当時の彼女に生活が不安定な仕事をする人と一緒にいたくないとフラレたなぁ。
画家はピンキリが激しいから今では仕方ないと思う。気持ちを伝えるなら今しかない。拗らせの恋愛はあまり好きではない。
「さっき一目惚れって……。俺もミューリエに一目惚れしたんだ。」
「……うん。えっ? そうなの!? 」
「前に地球で会ったからかな、気になった部分もあるし、見た目も心も好きだ。」
あともうひとつ、わが両親が共謀者ではないことを祈りたい。
「ありがと。もちろん共謀者だよ? 結婚前提のお付き合いオッケー貰ってるよ。『不束者だけど良いのか? 』ってお父さんがね。」
「まだあの二人俺に隠してることあると思う。出生の秘密とか、
「うーん、そうなのかな? 二人ともいつもニコニコしてるよね。」
「息子にも隠し事をする夫婦だ。あの笑顔に何度騙されたことか……。」
幼少期に誰でも経験するお菓子買って問題。
笑顔で今度買うからでずっとスルーされ、お年玉から買ったんだよな。それからお菓子はスルー、ゲームのおねだりもスルー、ラノベは渋々、漫画やアニメは大丈夫で画材だけは快く買ってくれた。
絵に対する刷り込み教育としか思えない。絵本とか何百冊もあったからな、孤児院や児童クラブ、図書館に寄付したくらいあった。
「へぇー、そうなんだね。いつも笑顔なのは駄目なのかな? 」
「あれは悪意ある笑顔だ。騙されないように気をつけてくれ。」
「大丈夫だと思うけど。……これからも一緒にいてくれますか? 」
「もちろん。」
抱擁を返した時にミューリエのマシュマロの柔らかさを持つ双丘が……。
「もう、シンくんはえっちだね。でもそれもあなたらしさだと思うよ。」
ミューリエからさりげない口づけを貰った。纏う甘美な香りがムードに彩りを与え、また離れてしまう|
久々の口づけは何処かのスイッチが修復に難航するほどショートした。
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あんなことやこんなことをしたかって? それは言えない、ミューリエとの秘密だ。秘密主義の両親とは違うたちの悪さは一切ない。
「ふみゅう……。シンくん、おはよ。」
「おはよう、ミューリエ。なにその効果音、可愛過ぎる。」
「つい出ちゃった♪ 」
コスモカップルには程遠いがバカップルになるのも時間の問題と言えよう。ミューリエのよそよそしさが更に無くなった。というか腕に絡んでノロケているから何処かにぶつかっても可笑しくない。
というか露骨にあーんのアピールをしてきた。なんて魔的なあざとさだ。俺より長い4年越しの恋が叶ったからここまで重い愛でも当たり前か。
「私の愛って重たいの? 」
「ずっと好きだったことに驚いているよ。その重さが老後まで長続きして漬け物石にして完成したたくあんを嗜むくらい重い。」
「年を取っても愛してくれるってこと? 」
「そういうこと。」
ウィズムの視線が焦げるように熱く、烈火のようなオーラを燃やし、背中から砲台二十程出した。
「ちょ、ちょっとウィズムちゃん? 」
「シンさまはボクだけのもの。あわよくば旦那さまになってもらおうと思っていたのに……! 」
「落ち着け、ウィズム。周りの人のことを考えろ。武器を納めるんだ。」
「武器は納めますが、人目は気にしません。
シンさまはボクが嫌いなんですか? 妻が駄目なら愛人でも良いんですよ? 」
発言次第では二人とも敵に回してしまう。
「一つ、ウィズムは俺の参謀兼頭脳だ。二つ、ロボットであれどその幼い状態で妻又は愛人には出来ない。最後に、細かいことは二人で話してくれ。」
~5分後~
「引き続き一緒に寝ます。ケンカしません。」
「それ以上はあえて聞かない。」
話を変えてあとどのくらいでつくのだろうか?
「船長、あとどのくらいでつきますか? 」
「昼頃にはつくよ。ディルク陛下の船は素晴らしいね、ぐんぐん進んでいく。あんちゃん、君の為に造ったと言ってたよ。 」
「予想通りの答えでした。」
「そうかい、それとカジキバーガーくれないかい? あたいは船が恋人だからさ、仕事人間で料理はからっきしさ。魚は仕事柄良く食べるから料理を教えてくれない? 」
船の操縦を副船長へ任せた。女船長ことカリーナさんはまさに姉御肌の性格の人だ。30台半ばほどで面倒見が良く指示を出しても部下は皆嫌な顔一つせず快く聞いていた。信頼されているのだろう。
「鳥の肉の揚げ物はいかがでしょうか? 」
「鳥料理はあんまり食べないね。」
唐揚げの作り方を教えることにした。醤油ベース……はっ! 醤油がない! 醤油がないと作れない。醤油は倭国にあるだろうか? 俺は召喚でどうにかなるが、他の人は厳しい。塩唐揚げにしよう。
塩と胡椒、小麦粉、片栗粉はないのでサンリャの粉末(エリュトリオンでの片栗粉)をまぶして揚げる。少し水を入れてわざとダマをつくる。
「あんちゃん、どうしてそうするんだい?」
「こうすると食感が豊かになります。」
「食感ねぇ、エリュトリオンの食べ物は食感が豊かなものが少ないからねぇ、食べるのが好きなあたいには長年の悩みだよ。」
「そうなんですか。何だかんだいって食べるのは大事になってきますね。揚げるときなんですけど……」
170度の時に入れるのではなく、火を入れる前に行う。これを低温調理、コールドスタートと言う。冷たい状態から開始すれば、焦げ付きのリスクが減り、失敗しにくくなる。
火は魔導ガスコンロを召喚した。魔法で着火すればあとは大丈夫だ。二度揚げも抜かりなく。
お馴染みのフレーズ、きつね色になったら完成。
カリカリ唐揚げの完成だ。
大学時代、唐揚げ発祥、大分県出身の同級生から教えて貰ったやり方だ。
カリッ、じゅわあー。
ヴォルフガングが涎を垂らしながら我慢している。
ってかヴォルフガングのことを忘れていたすまんな。
「ヴォルフガング、食うが良い。」
「はふっ、わふっ! あつい! ですが、旨いですぞシン様! 」
「ごめんな、ヴォルフガング。君の存在を忘れていた。」
「なっ!? なんですと! 某のことを忘れていたのですか!? その唐揚げとやら、全部食べてしまいましょうか? 」
「これは皆の分だよー。ヴォルフガング、食べちゃ駄目っ! ハウス! しなかったら熱々の油かけるよ? 」
「っす、すみません、主君! マナーを守って食べますので勘弁してください! 我が自慢の毛並みがぼろぼろになってしまいます! 」
「あっ、そうだった~。後でもふもふの刑ね。ヴォルフガング♪ 」
「主君、有り難き幸せに存じます! 」
「カリッ。 うーん! 美味しいねこれ! 生まれて初めて食べたよ。あんちゃんの料理は凄いね! やっぱり食は人を幸せにするよ! 」
「皆さんどんどん食べてくださ~い! 」
「わぁー唐揚げだ♪ カリッ。やっぱりこの味、この食感! 2年振りだぁ~♪ 」
ミューリエ、二年も日本にいたのか。
「そうだよ。楽しかったなぁ。シンくんと一緒に東京デートしたいね♪ 」
「そうだな、コスモに頼んでみようか。」
「だね! 」
「カリッ。何だ、この食感は!?」
「溢れる肉汁と旨みがある! 」
「そして柔らかい! 素晴らしい食べ物よ! カラアゲという食べ物は! 揚げ物は素晴らしいね! 」
皆食べていって唐揚げパーティーになり、俺はどんどん作らされる羽目になった。『絵の具をぶちまける』で召喚したら青い顔をされて誰も食べなかったので結局俺が食べた。うぅ、胃もたれが……。
「皆、満腹の所悪いけどそろそろつくよ! 中央大陸の玄関口、イムロスヘ! 」
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