第29筆 カーシャ・ラーシャ 水の試練 (改稿)

 ユミトとコスモは本当にラブラブカップルだったな。リア充死ねより早くミューリエと純愛したいところだ。


 平原を抜け森を潜ると巨大な滝が二つ流れ血脈の如く分化していくようになっており、浮島に立つ塔。

 あれが水聖塔が一つ薄氷の塔か。冷気を放ち、氷のような材質で構築されている。その前に橋が架かっており、水が練り固まったかのようだ。

 渡ろうと足を踏み出すと一陣の冷風が吹いた。

 霧のようなもくもくとした二つの塊が空からゆっくりと橋の真ん中に舞い降りた。霧が消え二人の少女が姿を表す。水色の髪と薄水色の髪の持ち主。


「姉のカーシャ。水を司る者。水色の髪よ。」

「妹のラーシャ。氷を司る者。薄水色の髪よ。」


「水は記憶を持つのです。」

「シン・イーストサイド、そなたに試練を。」


「水は写し見、時に鏡となり、時に喉を潤し、時に作物に恵みをもたらし、時に土砂崩れを起こす雨となりて、変化する。

 雪となり、氷となり、雲となり、循環、流転する。それは魂の輪廻が如く。」


『その試練の名は【水廻遡行の儀ゴルバザウォータルサイクロ・レーテ】。』


 二人がハモって言った。


「貴方に戦闘の試練など無用。」

「過去を乗り越えるのです。」


 脳天に滴が「ぽたんっ」と落ちてウォータークラウンが天輪のように拡がり俺は姿を消した。


「おい、カーシャ、ラーシャ、何が起こった!?」

「彼の記憶を引き出しそれを乗り越えてもらう儀式です。」

「ルゥさんにはこれを。【贈与ギフト水魔法全てオールフォーウォーターマジック。」


 ~世界の声です~


 ルゥ様が水魔法神級まで取得致しました。


 以上世界の声でした。


「【贈与ギフト】なんてしている場合ですか!?」

「シンさまを戻してください! 」


「皆様、落ち着いてください。」


 カーシャ様が円を指先で描くと水鏡が出現した。シンくんが神殿のような場所にいる場面が写っていた……。


 _______________________



 うーん?ここはどこだ?


「カーシャです。そこは水聖塔の内部、太水殿です。その石畳の先に貴方の記憶の映像が水鏡にて写し出されています。

試練の突破、期待しております。」


 何だかよくわからないがとりあえず俺の周囲に見えるのは薄暗く石畳がひかれた道でそれ以外の場所が水が流れていて、変な生き物の彫り物がマーライオンみたいに水を吐き出している。

水は底から発光して少々不気味だ。真っ直ぐと視線を移すと水鏡が写し出されていて俺の幼少期の映像が流れているではないか。


「ラーシャです。その水鏡に触れてください。触れると記憶に入れます。」


 ラーシャ様の指示通り触れると誰かに手を掴まれたかのように体を持っていかれた。


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「ねぇ、母さん。今日のご飯は何~?」


「今日はシンの好きなカレーライスよ~。」


「やったー! カレーライスだぁ! 」


 これは4歳ごろの記憶だ。幼き自分と母さんは俺に気付くことなく通りすぎていった。

 場面が霧のようになって切り替わる。


「シンは絵が上手ね~。夢は絵描きさんかな? 」

「うん、絵描きさんになりたい! 」


 5歳ごろか。この時は幼稚園で一番絵が上手くて賞を一杯貰ったっけな……。


「うっ、うっ、ぐす……。母さん……。」

「大丈夫、ガンなんてすぐ治るわ。」


 6歳の時に母さんがガンを患って一年後全身ガンで死んだ。遺言はシンならなんでも出来る、って言ってくれたなぁ。この試練は過去を乗り越えるものと言ってた通り誰かが死ぬことを覚悟しないといけないか……。

 それから母の銀行通帳を見ると資産が50億ほどあった。父さんが調べたらパソコンに為替の記録が残っていてそこで稼いでいたということだ。

 祖父母と父さんと話し合って無駄遣いをせず、俺と神社の修復の為に使うことになった。

 ちなみに俺は神社の神主である父さんの元に生まれた。なのである程度の日本神話は子守唄や絵本にして読み聞かせてくれたので知っている。

 祭神は天照大御神だ。東郷の名字だから東郷平八郎の子孫かって言うと違う。でも神話の挿し絵とか父さんが見せてくれたりもした。なぜかご神殿に納められていた。

 今、高校生の時の映像が流れているが、この時ラノベとアニメにドハマりしてその模写も度々SNSやらイラスト共有サイトにあげてた。

 高校は多学科の学校で俺は美術クラス、そして科学クラスの友人に嫁キャラ描いてあげる代わりに実験に付き合ってた。

ウィズムの電磁波ビリビリは友人自作のテスラコイルのビリビリをずっと続けたような痛みだ。

 ある日の日曜日、家である神社を描いていたら天から「すとっ 」と少女が降りたって俺にウィンクして本殿の銅鏡の中に入っていった。引きずるほど長い髪をふわりと舞わせながら後ろに150㎝はある鏡が一緒に付いていった。

 それを父さんに話した。


「それは天照様かもしれない。シン、良いことあるかもな。」


 と言われてその数日後応募したファッション画コンテストが大賞とって有名なブランドにデザインが起用されたなぁ。


 良い思い出ばかりだけど俺の乗り越えるべき過去は母さんの死と絵が売れない日々か。

 これを思った瞬間、水鏡から出てこれた。足から逆子で産み落とされるような感じで着地した。

 水鏡の左前方に今までなかった扉がある。

 そこには水属性のエレメントマーク六聖紋章と滝と雪の描写の彫刻がされた扉だ。扉を開くと球体の水の塊があった。


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 球体の水の塊からウニのようなトゲが多数飛び出し、水の塊を破り、「ドロォ」とヘドロの匂いがする液体が出て来て母さんの姿をした黒い人になった。

カーシャ、ラーシャ様は戦わないがこうゆうのが出てくるわけか。こいつと戦って勝てと。


「シン、ただいまぁ。」


 あまりにも母さんにそっくりな声で語りかけてきてドキッとした。


「てめぇは偽物だろうが。母さんの真似するな!」


「ウフフ…… クシャアァァーー!!」


 自身の泥から剣を造りだし俺に攻撃してきた。それを弾き一振りでぶっ飛ばした。


「【神器解放】顕現せよ、天叢雲剣、八岐大蛇。」


「おう、呼んだかシン。ってあれはシンの母さんじゃねえか。高天ヶ原で会ったなぁ。偽物の癖に姿を真似るとは気持ち悪い演出しやがる。」


「オロチさん、母さんに会ったってどういうこと?」


「あっ、やっべ。口が滑った、まだ秘密なんだよ。母さんは高天ヶ原で生きてるぞ。それだけは言える。また今度な。それよりも! 」


 オロチさんが羽織から尻尾を出して偽母さんの剣戟を弾いた。


「すみません、すぐに倒します。」


「見たところこいつは泥と一緒だ。打撃のガルグルマーはまず、無理! 泥は感電しないとか言われるがそうとは限らん。天叢雲剣の雷を使え! 」


「我はシン。八柱の雷神の力賜りて彼の者切り裂かん。弐式 【雷皇神の演舞斬】」


 俺は日本の雷神8柱( 頭に大雷神、胸に火雷神、腹に黒雷神、女陰に咲(裂)雷神、左手に若雷神、右手に土雷神、左足に鳴雷神、右足に伏雷神)の雷を纏わせて踊る。8色の雷だ。壱式は【八の字大円斬エインティル・グレイトサイクルスラッシュ】。

 のらりくらりとかわしかわした分だけスピードが上がりそれは雷神が踊りながら雷を落とすかのごとく。剣戟を弾き返し、雷を当てる。感電し続け電子を弄り結合を分解する。

こいつは幻像で魂なんてないから楽だ。魂があると霊子を斬る必要がある。

 感電しまくって体内に暴れだす電子を斬って終幕。

 魔物のように光となって消えていった。

 と思ったら後ろからまたシルエットが出て来て走り出したか。天叢雲剣を腹に刺して通過して穿つ。

 何で出血しないのかって?

神器と一体化することによって神と同じ状態になれるからだ。物理は効かなくなる。これを【神体化ゴッドアーマー】と言う。

 丸いコアっぽいものを天叢雲剣が壊したら霧散して消えた。

 コアが生成されたのか。

 コアというのは壊さない限り再生し続ける。ヒトが触れるか食うか壊さないと再生し続ける。

 ヴォルフガングが進化制限解いたからそうなった。

 以前は放置してても大丈夫だったんだけど。


 無事終わったようだ。杭扉が開き、水色に輝く宝石が開いた宝石箱から見える。間違いない、水の紋章が刻まれた水のエレメントストーン六聖紋章石だ。

それを取り出すと脳天に滴が「ぽたんっ」と落ちた。場面が変わり目の前にカーシャ、ラーシャ様が見える。なんで泣いているんだろう。


「お母様、一回死んだんですね。っぐす。」

「高天ヶ原で生きてるらしいから……」


 俺が睨んで答えろと念を送った。


「今度コスモ様から説明があるそうです。」

「試練達成おめでとうございます。」


「なんですか、教えてくれないんですか?

まぁ、有り難くエレメントストーンは頂戴します。」


 本当に何だってんだ。母さんが生きてるのは嬉しいがなぜ高天ヶ原にいるんだ。オロチさんもカーシャ、ラーシャ様も教えてくれないんだ。秘密多すぎない?


「なぁ、シン。霧散する時に魂の残り香みたいなのが一緒に飛んで言った。母さんが試したのかも知れないな。」


「えっ、どういうことですか?」

「俺にも分からない。」

「そうですか。」

「あぁ、それより皆祝辞を言いたそうだぞ。」


「シン様、おめでとうございます! 某も嬉しいですぞ。」

「シンくん、おめでとう♪」

「シンさま、おめでとうございます。」

「ルゥ、二人から水魔法贈与ギフトして貰ったよ~」

「そうか、おめでとう。」


 ルゥの頭を撫でると恥ずかしそうに眼を細めた。


「くすぐったい~。」

「これにて試練は終了となります。お疲れ様でした。」

「邪神、エドュティアナの討伐期待しております。シノさんが残したれ《・》を使うのでしょうか? 」

「こら、ラーシャ、名前言っちゃってる。」

「すみません。」

「そんな名前だったんですか。未だにあれは謎ですが、頑張ります。あとこれを。」


 お馴染みのネックレスを渡した。


「連絡用のネックレス型魔導具です。好みのデザインに変わるので今のデザインはお気になさらず。何かあったときは声かけます。」

「協力しましょう。最近は邪神教などと言う輩もいらっしゃるようで厄介なものです。 」

「では、さようなら。」


「ドッガアアアアアアアアアアンン!!」

「バガッバガグガァァァァァァァァンン!!」

「キュイイイイイン!!」


「何事だ一体!? 」

「シン様、あれをご覧下さい!!」


 振り返ると南西から光の波が天高く差し込み、そこから轟音が鳴り響いていた。


「なんじゃ、ありゃあぁぁぁぁ!!? 」


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