第71筆 闘技大会6日目

「はぁ……。ミューリエが引き分けになるとは思っていなかったよ。」


あの闘い、俺でもなんとか視認出来た闘いだった。

他の観客に見えるように水晶のスクリーンに低速魔法がかかった映像だったが、魔法の一つ一つにとてつもない殺意を覚えた。

──あれが魔法の闘いなのか。

あの暗闇の中の攻防戦は新たな世界が生まれる勢いだった。二人が本気を出したら星が砕けるのはあながち間違いではない。


「しっかし、ミューリエ。あれから続けたらどうなったんだ? 」

「そうだねぇ……。ライカストおうが相手だから太陽系一つは普通に崩れるかな? 」


俺は顔が青ざめて仕方なかった。ミューリエさんを敵に回してはならん。婚約者で良かった。

……でも俺いる意味あるのかな?


「ダーリンの創世と召喚の能力には勝てないよ? 」


ぐはっ! 今の一撃刺さりましたぜ。

ダーリンとはあざとい!


「与太話はこのくらいにしてシンくん、決勝戦だね。」


あっ。そうだった。決勝戦だったわ。一昨日の準決勝はミレイさんだったし。


「となると、ウィズム、やっぱり相手はルキファか? 」


ボストン型のPC眼鏡を掛けてノートパソコンで何やら調べものをしていたウィズムが画面を閉じて返事をした。


「はいっ。ルキファさまは腹痛という不意打ちにあって初戦敗退していましたが、運営に抗議して敗者復活戦に参加、怒涛の勢いで勝ち上がりました。

準決勝にて刀神アザルフ・エイロクさまに勝利しました。

エイロクさまは倭国にて最強と謳われる【刀神カタナガミ】の称号を冠する剣士です。」


ルキファよ、まさかの腹痛負けとは……憐れだ。

トレントさんみたいになったわ。


「エイロクさんはどのくらい強いんだ? 」

「イサク流の当主ですからね。代々当主はソルドレッドさまが作製し、イサクさんが持っていたあの刀を使います。で。」


溟淵くらふち』『嶺絶みやたつ』『霄裂あまきり』『翳曙かげあき』の四振りだな。


「一つ質問。記憶違いかも知れないが、イサクさん、死んだときに一振り一緒に入れて埋葬したと聞いたけど? 」


ソルドレッドさんはこんなこと言ってないが、そんな夢を見た。……いつだったか覚えてない。


「ちょっと待ってくださいね。……あ、これだ。パソコンみてください。」


パソコンの画面には新聞記事のデザインで大見出しに


『イサク、死す!! フードを被った謎の男、一振りの刀を捧げ、【カタナガミ】と称号を与えん。男は行方不明のソルドレッドか? 』


と書かれている。

記事には

・イサクさんが179歳で老衰の為、亡くなったこと(長寿の呪い持ちの為、長生きした)

・四振りの刀は四大弟子に一振ずつ譲り、当主が管理すること

・国王は当主とは別の人間が担う

・アンデッド化を防ぐ為、火葬にて荼毘にしたこと

・謎の男について直撃と言及をしたが転移門を使って行方不明になったこと


が書かれていた。


「それと、私の独自調査では……。」


ウィズムがエンターボタンを押す。


「埋葬時に捧げた剣は四振りから剣の因子を抽出した無色むしき剣、巡遍じゅんへんを捧げたとあります。死を尊ぶ剣でもあるようです。

ソルドレッドさまは彼の死を悼んだようです。それと……」


ウィズムが再びエンターを押す。

そこにはデフォルメされた三頭身のウィズムのイラストがフキダシを持っている。フキダシをクリックすると音声メッセージが表示された。


《あー、おう。聞こえているか、シン。俺を待たせるのはいいんだけどさ、観客がヤジを飛ばしてんぞ。あいつはまだか~! って。

だからさ、さっさと来いよなー。それじゃ切るわ、こうやるんだっけ? プツンっ──。》


すまない、ルキファ。俺また人を待たせてしまっている。本当に申し訳ない。


「んじゃ、行ってくる。」

「頑張ってねーシンくん! 」

「頑張ってくださいね、シンさま。」

「待たせたのは君のせいだろ、ウィズム? 」

「うっ。そこをつつきますか。後でお詫びの品を用意しますからお許しください。」

「期待しとく。」


ウィズムがグチグチうるさいが無視して闘技場に向かう。


舞台にはこの国では一般的だというオレンジの髪を持った青年が聖剣キュベルミナスを背負い腕を組んで待っていた。


「うし、やるか! 」

「ごめん! 待たせた。」


ラティが欠伸あくびをしながら現れる。


「あと5分しても来なかったら失格でした。ちなみに優勝者には陛下との対戦権が得られます! 」


ずっと熱視線を感じる陛下のそれって……。明らかに俺と闘いたいからだよな。黄金の血を見せてしまったし、血を操る能力らしいから面倒だ。

戦闘狂か?


「また、陛下はシン選手との試合を熱望してますよっ! 両者とも頑張って下さいね! 」


この感じは勝っても負けても闘わされるパターンだ。


「それでは、開始っ! 」


始まりの号令の直後、鍔競り合いが起こる。

今回は晞颯には休んでもらう。天叢雲剣を帯刀して挑む。







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