第70筆 闘技大会 5日目
昨日、私はというと、闘技場にはいなかった。おとといネルソンさんが言っていた額に刻んだ魔方陣を手に移していた。
前述したけど、額に刻印するのはかなり危険で脳が蝕まれてしまう。ただし、魔力操作がかなり上手い人であればそのままで大丈夫なんだけど、魔術ギルドの人たちは魔力操作の技術が高いかと聞かれれば、普通な感じだった。
数万人に一人の割合で無意識に魔力操作が出来る人間がいる。そういう人だったら額に刻印した魔方陣を暴走させることなく、魔方陣の回路を使いこなして手に刻印したときよりも倍以上の威力を発揮する。
ちなみに一度身体に刻印した魔方陣は一生動かせないのが常識だけど、私のオリジナル魔法、〘
これを広めたのが誰なのかシンくん経由で
「ミューリエ様、そろそろ出番ですよ。」
「あれ? もうそんな時間? 」
「はい。今日のお相手は【孤高の魔導賢老】ライカスト・ルトロニモ・ワクマさまです。」
昨年会ったなぁ。私が砂漠で迷子になった時、身体中に魔導刻印が彫られたハイエルフのお爺さんが助けてくれたんだった。彼の魔導刻印のお陰で〘
かなり強いから注意しないと。
「行ってくるね。」
「ファイト! ミューリエさま! 」
アナウンスが鳴り、舞台に立つ。
ハイエルフの特徴である上向きに伸びた長い耳を持った老人が杖に体重を少し乗せて佇んでいた。
私の顔を見て、久々の再会に顔を綻ばせている。
彼がライカスト・ルトロニモ・ワクマ。
齢10万を優に越える数少ないハイエルフの一人。
その風貌はエナンを被り、赤いストール、そしてあらゆる聖獣の皮、鱗、甲殻、爪と角で作られた素材、肩口から袖にかけて金色の刺繍が細やかに施された重厚なデザインのローブを着込んでいる。
魔術師にとってローブとは正装だ。
また、
失礼ながらネルソンさんとの試合では着なかったあのローブを着ることにしよう。
私がポーチから取り出したのは六天竜のローブだ。
彼らの素材の一部を貰い受け、アウロギ様が作られた祝福のローブ。白地をベースとながらもプリズムを起こし虹色に輝くそれは【
みんなごてごてした名前付けなくて良いのに。
「お久しぶりです、ライカスト
「フォアーッハーッハッー! 久しぶりじゃのう、ミューリエ姫。たまには血が滾る勝負も悪くないわい。ルスト坊は元気かの? 」
『お呼びかな、ライ爺。』
今回は魔法大会なので出て来ないようにお願いしたので声だけの登場となる。
「元気そうで何よりじゃ。」
『じゃあねー。』
「ミューリエ姫もそのローブとなると本気のようだね。」
「貴方に敬意を表しているんです。始めましょう。」
「審判さんよぃ、頼む。」
「は、はい! 」
審判のラティさんは私のローブに見とれていた。見る角度によって色の輝きが変わるので興味深く映ったのかな?
「それでは、開始! 」
開始の号令の直後、両者は同時に技を繰り出す。
私は
どちらも無詠唱かつ上級魔法だ。
光線と
一般の魔法使いなら鬱陶しい煙を消そうとするけど、二人はそう考えない。
利用する。
矢をつがえ、私の
「〘
まさか、空からではなく、地下から光の矢雨が天へと駆け抜けるとは思わないよね。
だけど、そこでくたばらないのがライカスト翁。
「中々ですのぉ。〘
ここで光魔法帝級、〘
〘魔跡探知〙から私が放った光の矢雨を利用して縦横無尽に移動している。
はうっ。この魔力の流れは──!
はっ、いけない! 私のバカ……。
矢雨一つ一つに魔方陣を仕込んで準備を整えられてしまった。
来る、あの技が。
「フォーハッハッハー! 気付いたようじゃが、もう遅いぞい。〘
この魔法、
仕込んだ魔方陣が堂々と出現し、大きな魔方陣を形作り、全てを無に帰さんとする光の圧迫が私に押し付けてくる。
だけど、私は負けない。
光魔法は光が世界に存在する時のみ発動が可能だ。
となると答えは簡単。光のない世界にすれば良い。
「〘
「な、な、何が起こったのぉ~!? 」
周囲が真っ暗になり、真の暗闇が訪れる。
突然の事態に観客たちが困惑とどよめきを露にし、ラティさんがパニックで走り回って結界の壁にぶつかって気絶した。
効果時間は5分。
「ふむぅ、〘
残念ながら私の存在が法則なので通じない。
「〘
「〘
「泥仕合になってしまいました。私の名において解除する。」
私が魔法を解除したことによって全て元に戻った。
「仕方ないじゃろう。お主も自分も異界を渡り歩いた者なのだから。」
ライカスト翁はエリュトリオンでは【始まりの三賢老】と呼ばれている。お父様が救ったエルフだけの世界から来た優秀な三人の賢者だ。
今はとある女性の賢者、ライカスト翁、そしてもう一人、魔法公国の建国者で国名にもなったジェロネーヴ翁。
フルネームがジェロネーヴ・オデュド・テマロスで彼が命を代償にして作り上げた魔法、〘
「おやおや、ジェロネーヴのことを思い出したのかい。」
「はい。」
「目尻からこぼれ落ちているそれに気付かないとは……。」
ライカスト翁に言われて気付いたけど、私は泣いていた。
あぁ、私、お母様のことで泣いているんだ。
……泣いていても仕方ないから涙をウィズムちゃんから貰ったハンカチで拭いた。なぜかひし形だけど、花畑の刺繍がされていて、キャンバスに描いた絵のデザインの手拭が涙を吸収できないほど拭いた。
「まぁ、ワシも手伝うわい。引き分けで良かろう。」
「あの、ライカスト選手、両者とも気絶してないじゃありませんか。」
「なら、これじゃ。〘両奔〙」
ライカスト翁は自分と私を場外へと魔力の手で吹き飛ばした。
場外負けも勝敗条件の一つ。
「両者、場外にて引き分け! 引き分けの場合、両者は敗北扱いとなり、この試合をもって終了となります。 お疲れ様でした! 」
相手が悪かった。
彼はうっかりで世界を創造してしまう人だから私に負けず劣らずの実力を持つ先輩魔導師。
こうして私の闘技大会は引き分けにて終わった。
シンくんが落ち込んでいるから慰めないと。
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