第69筆 闘技大会 4日目
いやはや、物凄い戦いであった。
ウィズムに開催前に頼まれて人工衛星【ワルガー】を召喚、飛ばしたのだが、〘
ミューリエに伝えたら恥ずかしそうに「やりすぎた」と言っていた。
これは、ウィズムの最大出力攻撃、〘
この人工衛星はウィズム用の物なので後は知らない。ただ、言えるのは超遠隔で砲撃を放つ最高峰の兵器を与えてしまったから益々敵に回すことが出来なくなる代物だ。
現在、【
あの子たち、元気かな。
なぜか、俺のことを王と呼んでいて意味がわからなかったけど、定期報告のメッセージが来た時、幹部の一人を倒したらしい。
ただ……。そう、ただ、あの子らが動いてくれているにしては異様なほど邪神教が出てこない。S級冒険者が多くいた西方大陸事件の時、互角に渡り合っていたクシュトラの配下……。
全くもって足取りが掴めないからキナ臭くてありゃしない。
そんなことを考えているとアナウンスが聞こえてくる。もう準決勝だ。
「両者、入場です! シン選手、ミレイ選手! 」
え? ミレイさんですか!?
声をかけられた彼女は俯きながらもその声援に答えていた。
特に熱狂的なのは彼女の恋人の公爵だ。
少し恥ずかしそうにしている。
「えーっと、ミレイさん? 宜しくね? 」
彼女は顔を上げて少し微笑んだ。「いひひっ」と笑った後、言葉を続けた。
「ん……シンさん……この前は……ありがとう。」
マンゴーシュが彼女の周りをゆっくりと周回している。自動成長機能が上手く働いている証拠だ。
「武器、使ってくれているんだね。こちらこそありがとう。」
「……ミューリエさんとは……上手くいってる? 」
ブフォー!? そこをつつきますか! ミレイさん!
「それは後で話そうか。」
「私も気になるところですが……仕事優先します。それでは、始め! 」
彼女が半身になり、レイピアを突きだす。
先に仕掛けたのは俺だが、すぐにマンゴーシュに弾かれた。
彼女を守る盾としてしっかり機能している。
試しに
斜めは? 弾かれた。
縦は? 弾かれた。
横薙ぎは? 弾かれた。
……うん。かなり優秀だ。こちらも
彼女の鮮烈な突きを受け流しながらも
弾かれたの時の感触がかなり重く、鉄塊に当てているかのようだ。
我ながら恐ろしい武器を作ってしまったが、どうしたものか……。
剣戟を飛ばして衝撃波を作ろう。
〘八百万斬り〙で衝撃波を縦横無尽に飛ばす。しかし、全てマンゴーシュに弾かれて、彼女がその僅かな隙間を縫って突きの衝撃波を飛ばす。
同じ軌道で二連続の突きがあったため、見切れず、頬をかすってしまった。
これでは駄目ならば、こちらはどうだろうか。
〈
〈
〈
〈
「〘
神力と魔力大半を込めて、左手をそのまま切り上げ一閃、右手を逆手持ちして切り下げ一閃する。それは全てを噛み砕く蛇のごとき一撃。
光の二柱が燦々と輝き、対象の存在を許さずに溶かし続ける。
だが、俺も限界に近い。
頭痛が酷くて立っているのがやっとだ。
光の柱がなくなったのは10分もの時間を要した。
俺の眼前には見たことない彼女をすっぽりと覆うほどの大楯があった。
大楯が彼女を守り、良く見るとマンゴーシュが変化した姿だと伺える。しかし、その大楯は三等分され、カランと高い音を立てて前に倒れた。
ミレイさんの身体も同じく三等分されており、胴体の中心と頭のみがのこり左右の身体はバラバラに落ちた。
……やりすぎた。
勝ったけどやりすぎた──ぐほっ!?
突如、凶刃が飛んだ。
それはミレイさんのレイピアだった。
彼女が弱々しくも「いひひっ」と特徴的な笑い声を出した。今、この時を狙っていたかのように。
俺は愛用の鎧である
心臓を神力で強化していなければ即死だった。鼓動でレイピアをせり出す。金色の血が溢れているが、構わない。
血が乾く前に一滴、小瓶に入れる。
瀕死の彼女はほとんどの血液を失っており、地面一帯が赤黒く染まり、そして泉のように溢れていた。
「……んん。……私、死ぬの? 」
「申し訳ない。やりすぎた。だけど、さっきの一撃は凄かった。」
「……そう。……私、幸せだよ。良い相棒と出会って、プレゼントしてくれた本人と本気でぶつかり合って……けほっ、けほっ! 」
「だから死なないっての。今から奇跡って奴を見せてやる。」
悪いけど今から格好つけたことをするけど、どうか許してほしい。
「我はシン。偉大なる太陽神、天照大御神が
我望みし者に豊穣の一滴を。〘神の雫〙──! 」
先程採取した俺の血を特にひどい胴体の中心部分に一滴たらす。彼女の血が金色に輝き、出血が止まり、動き始める。
動き始めた血液が切り離された肉体を傷一つ、隙間なく綺麗にくっ付いていく。
残った血液は彼女の体内に異物一つ許さずに戻っていった。
服がぼろぼろなので新しい服を〘
あぁん? 誰だ、変態と言った奴は?
……わかった。あの人だ。ハルティレク公爵が怨嗟の念を送ってきている。さっきから
『変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態……』
と、黒い文字の塊が具現化して俺の頬に刺さるんだ。
着替えを終えた彼女が出てきた。彼女の姿を見てほっとしたのか公爵の怨嗟の念はなくなった。
はっ! 忘れてた! ここ闘技場の舞台だったわ。
俺のうっかりさん。審判のラティさんがポカーンと心ここにあらずの状態になっている。
「ミレイさん、どうしますか? 」
「ん? ……シンさんの勝ちじゃない? 」
「は、はぁ。シン選手の勝利です! 」
ラティさんはため息を上げて俺の腕を上げて勝利をアピールした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます