第65筆 剣神聖の末裔

「このぼったくりがぁっ!! 」


 だいだい色の髪を持つ20代程の大剣を抱えし青年が声を荒げる。


「ぼったくりも何も貴方が代金をお支払していないではありませんか。」


 宿屋の人間らしき人がなだめる。

 あぁ、これはあれかな。食い逃げって奴だよね?


「大体ここの宿代は高すぎるんだよっ! なんだよ、この小金貨一枚、十万リブラだぁ!? 払えるかぁっ! 」


「貴方がいくら剣神聖の末裔とあれど無料には出来ません。こちらも商売なんです。」


 確かに。商売だし食い逃げとか論外だ。


「シンさま、あの方、本当に剣神聖の末裔ですよ! 剣神聖とは8000年前にディラ歴を開いた張本人で

 聖剣流の開祖です!

 暦無き後、腐敗を反省して子孫は帝都に道場を開いて聖剣流を伝えているらしいです。当主は剣神聖を名乗るらしいので多分その人じゃないかと思われます。」


 でも何でここにいるんだと思っていると彼と目が合った。


「おい! そこの赤髪! 」


 うわぁ、面倒くさい。でも仲間にしたらラグナロクで活躍しそうだ。

 ここは一つ、恩を売って男気を見せよう。


「お困りのようですね、皆さん。俺たちは『異界の救済者アルヴェン=ラストセイヴィアス』でしす。」


「アルヴェンってあの──! 」

「西方大陸を再生させたとんでもないパーティーではありませんか! 」

「なんだぁ、てめぇら、そんなに有名な奴だったか。」

「とにかく、この方が宿代金を払ってくれないんです。それで引き留めていた訳です。」

「でしたらその件、俺が支払いましょう。」

「シンくん、良いの? 」


 良い考えがあるとミューリエに言っておく。

 俺は30万リブラを取り出して手渡す。


「10万リブラで大丈夫ですよ? 」

「その10万リブラは二人へのチップです。周囲の方々に対してもご迷惑をかけています。もう10万リブラは俺たちの宿泊料金です。

 それと、剣神聖さん、ちょっとよろしいでしょうか? 」

「なんだよ。」

「まずは自己紹介から。俺はシン・イーストサイド、召喚術師です。」

「……!? はぁ!? 召喚術師!? マジかよ! 俺はルキファ・ディエールだ。22歳だ。悪ぃな、払わせてしまって。」

「勿論、条件がありまして、邪神との戦い、ラグナロクに協力することです。」


 ルキファは嬉々とした表情且つ、目を輝かせていた。


「戦争か! この時が来るのを待ってたぜ! エルゼンハウズの予言、赤髪の男、ラグナロク、まさか俺の代で体験することになるとはなぁ! 我が家の復権にも役立てる! 」

「ということは協力してくれますか? 」

「協力も何も楽しませて貰うぜ! お前何歳だ? 」

「同い年です。」

「んじゃ、タメ口で良くないか? 宜しくな。」

「宜しく、ルキファ。」

「おうとも! そういやどうしてここに来たんだ? 闘技大会に出るのか? 」


 俺は愛剣を二振り取り出す。


「お前、それは刀じゃないか! それとそのもうひとつはなんだ? ロングソードでもないし刀でもないな。」

「二つとも神器だよ。」

「俺のは六聖神の加護つきの聖剣なんだけど、神器とはな……。ここで話すのは何だし部屋で話すか。」


 俺は了承し、チェックインを済ませ、部屋に入る。高級宿とあってかかなり広く、調度品や家具の一つ一つに至るまで高級そうな印象だ。


「ルキファはなぜ食い逃げしたんだ? 」

「食い逃げじゃねぇ! あれは昔から剣神聖の末裔はタダになってたんだ! だけど無理だと言われたから抗議したんだ。」


 凄いな、剣神聖とは。無料になるほど過去は活躍したんだな。


「でも過去のことでしょう、ルキファくん? 」

「あ、あぁそうなんだよ。綺麗な人だな。」

「紹介が遅れたね。私はミューリエ・エーデルヴァイデ。シンくんのフィアンセだよ。」


 フィアンセ、フィアンセ、フィアンセ……。バタッ

 俺は幸せの余り絶頂してしまい、ここから記憶が無い。


「大丈夫、シンくん!? 」

「幸せそうな顔して寝てるぞ。」


 シンくんをルゥちゃんがベッドに運んでいった。


「あぁ、幸せのあまり気絶したようだ。大丈夫だ。俺様は八岐大蛇だ。オロチさんと呼んでくれ。」

「ウィズムです。」

「ルゥだよ! 」

「ヴォルフガングですぞ。」


 ガングくんが喋ったことに対してルキファくんはかなり驚いているみたい。


「お、狼が喋ったぁ!? 」

「某は十天狼宙神コスモティックアシャラヴルデウスですぞ、ルキファ殿。」

「神なのかお前!? ってこんな口調失礼か。大変申し訳ありませんっ! 」

「調子が狂いますぞ、ルキファ殿。して、道場は良いのですか? 」


 彼はガングくんの疑問に対してため息を一つついた。


「あぁ、それなんだが、剣祖様が行方不明なんだよ。時間として5~6月頃だ。」

「剣祖様って聖剣流の始祖でディラ歴初代女王ですよね? 」

「そうだ。俺の一族は剣祖様は死後 、剣の大聖霊になって守護神になったんだ。それで奉っているんだが、反応がない。」


 うーん、もしかしてアルルくんについた剣の聖霊かな?


「ルキファくん、そのヒトなら知ってるよ。西方大陸はウェディケットの領主の息子、アルルくんの指南役になっているよ。」


 これを聞いたルキファくんは白目を剥いて驚愕している。


「嘘だろぉー!? 嘘だと言ってくれ、剣祖様! どうか俺達の所に戻ってください! 」

「それって厳しいかと思い──」


 ウィズムちゃんが断言しようとした瞬間、空間から一筋の切れ目が入り、ルストくんがにゅるりと現れた。その隣には20代後半に差し掛かる女性がいた。


「姫様、連れてきたよー! 剣祖様だよ! 」

「えぇーー!? 剣祖様っ!? 」

「こらこら、落ち着きなさい、ルキファ。皆様、お久しぶりです。私は剣祖、イテアリスです。現在、アルル・ボルケニアくんの指南役を務めています。」

「おう、あんたが剣祖か。アルルは元気か? 」

「えぇ、ルキファを凌ぐ勢いの剣の冴えです。私なんて直ぐに越えてしまいそうな程……。あの子は天才、いえ、神才を持っていますね。」

「まさか、伝説の剣祖様に出会えるとは……。握手を……」


 ウィズムちゃんがガタガタ震えながら畏れ多そうに握手をした。意識体でも触るには技術が必要だけどウィズムちゃんにその心配はいらないかな。


「どうか戻ってきてください!! お願い致します! 」

「ふぅ。ルキファ、貴方はまだ未熟です。私を探そうとしてくれたのは有り難く、そして心配要りません。そもそも私に頼り過ぎです。」

「俺が未熟なのは確かですっ! ですが、力を貸してくださいっ! 」

「貴方は世界を知る必要があります。私に頼らなくとも貴方は強いです。5日後に開催される闘技大会に参加しなさい。シンさんも出ると思います。」


「こいつがか? 本当に強いのか? 」

「ミューリエ様、ウィズムさん、あれを。」


 ティアリスさんに“あれ”と言われてホログラム映像とエレメントストーン六聖紋章石のことかな、と思い、シンくんのバッグから取り出す。

 ウィズムちゃんも証拠の映像を見せる。


「なんだよ……こいつ……。化け物かよ……。」


 映像を見た後、シンくんの姿を見て足が震えている。


「良いですか、貴方は未熟なのです。星を砕き、六聖神を圧倒する威力を持っているのにもて余している。しかし、これを邪神の戦いで使わず何になるのです? 私から続くその聖剣キュベルミナスを棒切れにしないで下さい。」

「お、俺やって見せます! 復権の為に、更なる剣の極みへ! 」

「宜しい。お騒がせ致しました、皆様。私は帰ります。」

「ごめんねー、みんな! イテアリスさんがもの申したいって言ったから連れてきたんだ。じゃあねー! 」


 こういう時に限ってルストくんは自由だから羨ましい。


「すまん、皆! うじうじした所を見せてしまって。俺、闘技大会に出る!シンも出るんだろ? 」

「多分出ると思うよ。」


「5日後、宜しく頼むぜ! 皆には俺の宿代まで払ってくれて申し訳ねぇ。この恩は邪神との戦いで返す! 」

「うん、宜しくね♪ 」


 私はにっこりと微笑んだらルキファくんが気絶した。


「ミューリエさまはモテるんですよ。その微笑みで気絶するほど……。」

「ミューリエは美人すぎるからな。」

「オロチさん、ウィズムちゃん冗談はほどほどに──」


 なんで皆真剣な表情なのかな? 私ってそんなにモテるんだね。初耳だよ。


「バイタルチェックします……。二人とも数時間後に起きますので大丈夫です。ミューリエ様の美貌は使いどころを分けてくださいね。」

「はーい。」

「ミューリエは闘技大会には出るのか? 」

「うーん、剣はね、本気出すと銀河一つ消えちゃうから止めとく。魔法の方で参加しようかな。」

「そうか。俺様は観戦するわ。」

「ボクも戦闘向きの能力では無いので……。」

「ルゥは出ようかな♪」

「某は観戦します。」


 うん、決まりだね。闘技大会が楽しみだよ。



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