第64筆 狂血帝の招待状

「えーっと、俺に何の用でしょうか? 」


 念のため、ウルトリムちゃんを取り出して右手に持っておく。


「け、剣をお納め下さいっ! 私たちは敵ではありませんっ! アーガラム帝国からの使者です! 」


 アーガラム帝国? 俺何かしたかな? 皇帝の息子さんにしか会ってないよ? とりあえず話を聞いてみよう。嘘なら皆が塵の存在も許さないだろう。


「どうぞ。今朝食中なので。」


 二人を食堂に案内し、皆にアーガラム帝国の使者だと伝える。朝食を食べてないらしいので食べて貰うことにした。

 メニューはパンとハニーナッツ、目玉焼き、サラダ、ウインナーソーセージ、コンソメスープ、ヨーグルトだ。


「見たことないものが一杯……」

「毒はないのでご安心下さい。心配であれば解毒してください。」

「皆さんと同じものだとわかったのでそんなことしませんよ。」

「はむっ。どれも美味しいよ、イクスァさん! 」

「むぐっ。これは……! パンが……柔らかい!? 」


 えーっと、パンが柔らかいって普通じゃない?

 宿屋さんでもフランスパン位の硬さだったよ?


「シンくん、王宮の騎士さんはフランスパンよりも硬いパンらしいよ。」

「うわ、マジかよ。食育知らないのか。」

「しょ、食育? 」


 二人は知らないのか。堅くないパンはストレスになりにくいよね。


「食べ物を通して栄養素や文化を学ぶことです。良いものを食べることも食育にあたります。」

「初めて聞きました。」

「あたしも……」

「おかわりありますのでどんどん食べてください。」


 昨日のルゥ並みに誰も取られまいとがっついた二人は満面の笑みでお腹をさすった。

 長旅で余り食べていないのだろう。


「美味しい食事をありがとうございました。本題に入りますね。」

「皇帝陛下からお達しです。」


 陛下からお達し? 俺本当にやったらいけないことしたかな? そんな杞憂が顔に出ていたようだ。


「あのー、それは違います。こちらの手紙を。」


 イクスァさんが手紙を取り出して俺に手渡す。


 ───────────────────────

 はじめましてだな、伝説の召喚術師シンよ。

 俺が手紙を送ることは少ない。

 獣人が邪神教の手に落ちたと聞いた。新しい宰相たるレスリックは暗愚でな、気に入らん奴だと思っていたら邪神教だったわけだ。

 だが、俺は違う。お前に興味がある。イカイビトでかり、邪神を倒すものであり、召喚術師。これ程の逸材をどれほど待っていたか……!

 前座はこれくらいにして本題だ。

 アーガラム帝国はシンに全面協力をすると共に条件として記念闘技大会に参加して貰う。それと俺と戦って欲しい。

 良い返答を期待する。

 クロストフ・アーガラム

 ───────────────────────


 ──要は協力するが、条件として実力を知りたいから闘えと。

 協力者が得られるなら万々歳だ。騙されたって構わない。以前騙されたけど。


「善は急げ。直行しましょう。」


 ディートリヒ様が頷き、おもむろに魔方陣を展開し始めた。


「ならば、これだな。六聖神大陸間転移許可特別措置ゴッデス・オーダー・ワープ。エリーゼ、祭の準備の一環として通してくれ。……許可が下りた。

 アーガラム帝国郊外の城門近くを転移先とする。

 準備は良いか? 」


 荷物も持ったので大丈夫だ。


「じゃあな、また会おう。転移門──! 」


 ディートリヒの声に呼応して闇の六聖紋章が刻まれた門が出現し、開かれる。

 イクスァさんとラティさんはあんぐりと口を開けたまま立ちすくんでいた。どうやら初めてのようだ。


 メデューサが石化をかけたんじゃないかと思うくらいガチガチになった二人押してくぐり、出てきたのは巨大な城壁がある大きな街だった。


「ここが帝都エルトティウスです。」


 今まで見てきた街の中でも随一の大きさを誇るその都。建国500年記念祭の影響もあってかかなりの長蛇の列が門前にうねっていた。

 馬車や様々な人種の人々が並んでおり、日本人の真っ直ぐ並ぶ文化は律儀だと思った。

 そんな行列をもろともせず、イクスァさんは先導して女性の門番に話しかけた。

 流石は斥候長と言ったところか。門番は驚いた顔をして会釈、俺にサインを求めてきた。

 サインは北の大陸の修復中に片手間で考えておいた。

 知名度が上がっているのは嬉しいことなのでお礼にサインと太陽の紋章の判子、門番の似顔絵を画用紙に描き、手渡した。


「ありがとうございます! 伝説の召喚師様! 一生大事にします! 」


 結構気に入ってくれて良かった。またもやイクスァさん、ラティさんが白目を剥いて驚いている。


「悪鬼の門衛長を屈服させた──! 」


 彼女の額を見ると角が生えている。種族的になのか鬼のように厳しいのか……どちらだろう?


「こらーっ! イクスァさん、今度それ言ったらただじゃ許しませんからね! 憧れの召喚師様に会えたのに……。」


 門衛長と呼ばれた女性は激怒しながらも俺に羨望の眼差しを向けた。そろそろ行こうかな──!?

 彼女がもの凄い力で俺の腕を掴んでいて余りの激痛にうめき声をあげてしまった。ゴキッと骨が折れる音が聞こえすかさずイクスァさんが一喝した。


「シン様の腕を離してください! 自分たちは陛下に会うんです! 」

「憧れの召喚師様……私に召喚術を教えて下さい! 」


 ファンがいるのは嬉しいけどうぅ、痛い。

 ミューリエが即座に治癒魔術『ゴッデス・ヒール』をかけて治療したのでなんとか腕は元通りになった。しかし、ミューリエの視線は厳しい。

 いつもの通信用ネックレスをプレゼントして手打ちにした。

 イクスァさん曰く召喚術師になりたい人は一定数いて幼い頃に読んだ絵本や吟遊詩人のうたで存在を知り、なりたくてもなれないこの職業に門衛長ロッカさんは憧れていたらしい。出発時に俺に会うと話したら「私も行きたい! 」と皇帝に懇願したらしいが断られたらしい。

 ミューリエはこの話を聞いて納得したようだ。

 ファン第一号のロッカさん、大事にしよう。


 イクスァさんは城に戻ると言い、教えてもらったおすすめの宿があるというので行ってみることにした。女神の微笑み亭というところらしい。


 数十分ほど歩いた所にその看板が着いた豪華な建物に着いた。

 しかし、その入り口で口論を広げている人たちがいた……。

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