第3章 中央大陸 ~光の神~ 編
第36筆 呪われ子(改稿)
ギルドを後にし、港へと向かう。昨日の賑やかとうって変わって静かである。
フィルトンから貰った船券を手に係員らしき人に渡す。
「シン・イーストサイド様ご一行ですね?
昨日のキングレイピアカジキ、大変美味しく頂きました。
あんなに大きな個体がいたなんてサテルマ海はまだまだ未知で広大なのだと気付かされました。
最近はリヴァイアサンが出没するので、その手腕、期待させて頂きます。」
「いえいえ、本当に恐縮です。運が良かっただけです。」
「あれは大変な名誉なんですよ。船内でお待ち下さい。30分後に目的地はイムロスで出港します。」
「お願い致します。」
~30分後~
「出港致します。乗り遅れのないようお願い致します。」
プウゥーー。甲板に出ると煙突があって煙がももくしている。もしかしてこれって蒸気船なのか?
「これって蒸気船ですか? 」
「そうですね、蒸気船です。ディルク陛下が一昨日プレゼントとして頂きました。帆船よりかなり早いので大変驚いております。シン様とウィズム様が原案を立てたと伺っております。念のために帆を付けている次第です。」
ディルクさん凄くない? ちょっと教えただけなのにここまでやるとは。ドワーフ恐るべし。良く聞く巨大な水車みたいなのもないし、もしかして内蔵型なのか?
しかも、俺らの渡航に合わせて贈ってくれているとしか思えない。
昼食を食べていなかったのでカジキバーガーを食べていたら他の乗客から何それな顔をされたので皆にプレゼントした所、かなり美味しいと話題になった。長崎に佐世保バーガーがあるくらいだし揚げ物とハンバーガーって良いね、あまり間違いがない。
ゴロゴロ、ゴロッ! 雷鳴が何処からか聞こえてきた。山と海の天気は変わりやすい。
船窓から黒雲が立ち込め始めるのが見える。
叢雲を何度も呼んだ俺ならば分かる、あれは嵐が来る雲行きだと直感した。
別に止める手段を使っても良いのだが、何処かで絶対に清算(ツケ払い)がやってくる。
嵐を力ずくで止めることを繰り返すと歪みを修正しようとする現象が起きる。
父さんから聞いたのだが、一年間止まない記録があったらしい。
例えば永遠に止まない雨が降ったりとかだ。幸い地球にはそんな現象は起きていない。
だが、エリュトリオンはどうだろうか? この世界には魔法がある。魔法で起こしたものなら世界の運行システムである
「船長、この嵐大丈夫でしょうか? かなり規模が大きいですよ。他為的な魔力の流れがあります。」
「まぁ、確かにそんな感じもするわ。でも確認する術を持っている人がいるの? 」
船券を確認した人が心配そうに女船長へ相談していた。まぁ、俺なら出来るかもしれない。
ウィズム、人為的又は他為的な魔力の流れは感じるか?
「いえ、ありませ……嵐の目の部分に誰かいます! その方が起こしているのかもしれません。」
「行ってみるか。人であればラグナロクの時に協力してもらおう。魔物なら慎重に行く。オロチさん、天衣の準備を。」
「あぁ、面白そうだ! 行ってみようじゃねぇか。」
「あっ、ちょっとシンくん!オロチさん! 本当に行っちゃった……。」
「お二方は決めたら一直線ですからね、ミューリエさま、待ちましょう。」
「だね~、ウィズムお姉ちゃん。」
船首を蹴って飛翔する。嵐の中心へ。
_______________________
吹き荒れる暴風が俺の肌を切り裂いてくる。叢雲でブロックしているのにも関わらず、それすらも通り越して切り傷になってしまう。
だが、止めるわけにはいかない。俺の興味が本能がそこに行けと訴えてくる。
ここが一番渦が分厚く、何故か黒い。恐らくここが嵐の目だろう。
これでは埒が明かないと思ったから天叢雲剣を引き抜いて縦方向に一閃した。
その感触はただの風の渦ではないと疑ってしまうほど岩の如く硬かった。
渦が裂け、切れ目が少しずつ開いていき人影が見えてきて、さらに近寄るとそれは青い髪に二つの角がある少女。
服がずぶ濡れで胸の膨らみと突起が……ってそんなこと感想にして出してる場合じゃない、俺はミューリエとプラトニックラブを経てからイチャイチャすると決めている。
邪魔をしないでくれ、エロ博士。今はこの子をどうにかして嵐を治めなければならない。
「君は誰だい? この嵐の下にある船に乗っていたんだけど、君の嵐のせいで動けない。どうにかしてくれないか? 」
「私には名前がないの。ただ違う姿の時はリヴァイアサンって呼ばれてる。」
ウィズムから参照して貰ったリヴァイアサンってのは『ヨブ記』『詩編』『イザヤ書』よりその巨大さゆえ海を泳ぐときには波が逆巻くほどで、口から炎を、鼻から煙を吹く。口には鋭く巨大な歯が生えている。姿は蛇や竜、鯨の姿で描かれるとのこと。
「どうして人間の姿に? 」
「生まれたときから人間の姿になれるの。だけど親もわからないし、名前がない。
人間の姿の時、ある夫婦に拾われたんだ。だけどね、その姿のままだと気を失って、気付いた時には嵐が過ぎ去ったようになっていたの。
その渦の跡の中心にいたのが私で夫婦は私を守るようにうずくまって死んでいた。
私の両手は血まみれでグニグニとした変な感触のものを二つ持っていた。夫婦は左胸がなく風穴が空いていた。後で知ったんだけどそれが心臓だとわかって申し訳ない気持ちになった。
一人で生きる方法なんて知らなくて飢えで倒れた時、お爺さんが私を助けてくれた。
彼はいろんなことを教えてくれたけど一週間経過すると暴走しちゃって倒してしまった。
やがて海で暮らすようになって普通になりたいと願って人間の状態になったけど、その度に町を一つ、二つと自分が暴走した時に発生した嵐で皆死んでしまった。
しばらくリヴァイアサンの姿で過ごしていると魔物だからと言う理由だけで攻撃されて消えない傷痕が出来た。」
彼女の腕や脚元にずっと残っているような切創や痣、皮膚が裂けて戻らなくなった傷痕が見えてなんとも痛々しい限りだ。
『ヨブ記』によるとリヴァイアサンの鱗はどんな攻撃も弾くとされているが、世界が違う理由や直ぐに死なないからと極大魔法や強烈な斬撃によって与えられたのだろう。
「それからたまに人間の状態に戻ってみるけど駄目だった。一週間を過ぎると記憶が無くなって国を壊したこともあった。ごめんね、一人でずっと語っちゃって……。」
「いや、大丈夫だ。話を聞いて苦しみが減るなら本望だ。では、また人間の姿になった理由は? 」
「ありがとう、お兄さん。理由……。うーん、記憶がないの。あ、でも夢の中でね、こんな事を聞いたよ。『絵を用いる赤き召喚師現る。汝の呪い解かれたし。』だって。」
コスモ、クシュトラ、口調からしてエルゼンハウズだろうか。
誰かが俺を利用しようとしているのか、それとも彼女を救いたい善意からか、いずれも答えが出ない。俺は俺が決めたことを信じる。コスモも皆も信じてくれると嬉しいな。
『ウィズム、聞こえるか! 再召喚によって呪いは消せるか? 』
『リサーチ中……。すみません、わかりませんでした。様々なパターンから
「俺は夢の中の通りの人物像だ。
名前はシン・イーストサイド。絵を描いて召喚する能力、『
君を再召喚しよう。
オロチさん、どうすれば良いですか? 」
「そうだな、額に触れろ。脳に一番近いからな。だからまぁ、皆額に触れる。
厄介な呪いは脳に絡み付いている。透視すると呪文の鎖のようなものがあいつの脳の周りを渦巻いているからな。
召喚したことない個体でもシンなら出来るかもしれん。『
「了解、君を『
「それで暴走しなくなるの? 」
「あぁ、大丈夫にしてやる。という訳で額を借りるよ。『
「えっ、あっ、うん。」
俺が唱えた瞬間、彼女が姿を消した。
もう一度召喚用紙に彼女の姿を描いてお決まりの言葉を一つ。
「我が名はシン! 更なる進化を求めて再び会いまみえん! 『
彼女の姿が再び現れた瞬間、体を中心として急激に渦を巻き始め、失敗かと思いきや、集めた空気を突風にして吹き飛ばし、津波が起こり、一気に雲を吹き飛ばしながら俺は耐えきれず吹っ飛んだ。
何処までも何処までも飛ばされそうな勢いにオロチさんが魔法を唱える。
「風を捉えよ、【
風向きが逆になり押し出し、追い風へと変化した。
「ありがとうございます、オロチさん。」
「シンの
戻ってくると彼女が人間の姿で海上に浮き立っていた。今まで無かった背中にドラゴンのような翼が二つある。
「お兄さん~! ありがとう! そして、吹き飛ばしちゃってごめんね。 それと、見て見て~私の右腕! 」
彼女の右腕にドラゴンの頭と飛び跳ねる鯨、身を滑らかに動かす蛇のタトゥーがピンク色で染められている。
「多分ね、コレが呪いを解いて自由にしてくれていると思うの。」
「そうかも知れないね。お祝いに名前をプレゼントしよう。
君の名前は『キフェ・マールン』。呪いを打ち破り、海に安寧をもたらす女神ちゃんだ。 宜しくね。」
~世界の声です~
呪われし名もなき少女がシン・イーストサイド様より名前を頂き、キフェ・マールン様になりました。
『呪いを打ち破り、海に安寧をもたらす少女』から
『
今回はシン様が神と言うことが発覚してから初めてのお祝いの言葉となります。
シン様が神の一端であることをお忘れなきようこの場を借りてお伝え致します。
以上、世界の声でした。
「さっきの声は何? 世界の声? 」
「キフェちゃんは知らないのか? 」
「初めて聞いたよ?」
「あれは世界の運行システムだ。種族が変わった時や新しいスキルを得た時にあのシステムが出てくるんだ。あのシステムを運営している人に会ったことあるけど同じ声だったよ。」
「へぇー、そうなんだ。」
「これからどうするの? 」
「うーん、決めてない。」
「じゃあイムロスヘ行くから冒険者になって旅をしてみるのはどうだろうか? 」
「旅なんて初めてだなぁ。お兄さんも一緒に来てくれる? 」
「悪いが、仲間がいるから置いていけない。何かあったらこれ使って。裏側に白い宝石が付いていて、それを押すと俺に伝言と遠く離れている所でも話すことが出来る。俺もほら、持ってるから。」
いつものネックレスだ。ストックは300程はある。通話、メッセージ機能つきのネックレス。LINE機能つきのネックレスと思ってくれて良い。
「え、でもデザイン違うよ? 」
「好きなデザインに出来る。ネックレスを握って、キフェちゃんのドラゴンのタトゥーをイメージする。例えばでやってみたがこんな感じだ。」
俺の最近のお気に入りは太陽をイメージしたデザインだ。こんな俺でも一応天照様の眷属らしいし。
「おぉー、凄いね! 好きなデザイン……うーん、まだないからとりあえずこのドラゴンのタトゥーのデザインにしてみる。」
「おっ、良いんじゃないか。ピンクゴールドで可愛いね。」
「ありがとう! っあ、あれ? 何か急に力が抜けてきた……。バタ……」
あぶねぇ、危ねぇ。すかさずキャッチしたら思わず触ってしまった。キフェちゃん、結構胸あるな。
グーにして触らんようにしておこう。俺は紳士。一番堪能するのはミューリエの身体の予定だ。
お姫様抱っこして天衣で飛びながら船首に着陸。心配そうに皆が駆け寄ってきた。
「その女の子は誰だい? 傷痕だらけじゃないか? 」
女船長が真っ先に質問を飛ばしてきた。
「呪いによって暴走していた所を止めて、呪いを解除しました。彼女、キフェちゃんは生まれたときからこの呪いと闘ってきたそうです。名前が無かったのでプレゼントしました。キフェ・マールンって子です。」
「なぁ、もしかして『流浪のリヴァイアサン』じゃないのか? 」
一人の男が気になることを話し始め、俺らの否応なしに続けた。
「傷だらけのリヴァイアサンでいつも逃げ回っていて、フラフラと5000年程流浪しているんだ。
その根拠は世界樹の記録に残っているほどだ。
中には人の姿を見た者もいるらしいが真相はわからない。
過去には国を滅ぼしたこともあって、まさかこんな女の子だったとはな。俺は仕方ないと思うぜ。呪いならば仕方ない。
皆、そう思うだろ? エリュトリオンには呪いで苦しむ人が少なからずいる。彼らを責めるのは違うんじゃないのか? 」
この男、かなり良いこと言ってる。しかも5000年も生きていたのか。それも呪いの一種なんだろうな。
「袋叩きにしようと思っていました。すみません。」
父はこの言葉を残した。
“大抵の人間は異端と未知を畏れる”。
結構ざわついているな。ずっとキフェちゃ抱っこしているからミューリエからの嫉妬の目線がきつい。
いや、キフェちゃんから魔力の流れ感じないんだけど。俺結構鈍い方だが、これは分かる。
「彼女、魔力切れみたいです。とりあえず寝かせてあげようと思います。あと、ミューリエ、嫉妬しないでくれ。彼女は呪いで苦しんできた女の子だ。」
「うっ、うん。」
「シンお兄ちゃん、ルゥが抱えるから。よいしょっ。」
「え? 軽々と持ったな!? その赤ちゃんを天へと抱えあげるようなやり方止めとけ。」
「あっ、ついやっちゃった♪ 」
いや、どうやったらついああなるんだよ!?
ミューリエ、嫉妬してるかなぁ。結構私だけにしてほしいわがままさんなのかな。
「我が儘じゃないよ。」
頬をぷくっとした。たまには二人で寝てみるのもありかも。
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