第21筆 町長の願い (改稿)

「こんにちは、アウロギ様の使者と聞いたが、君たちは?」


「シン・イーストサイドです。」

「ミューリエ・エーデルヴァイデです。」

「ヤマタノオロチ、オロチさんと呼んでくれ。」

「ルゥです♪」

「ウィズムと申します。」


「私はリヴォーリウス・ボルケニア。見ての通りケット・シーの中年おじさんです。

 立ち話も何ですし、お掛けになって下さい。紅茶を淹れましょう。アルル、君も座りなさい。」

「はーい、父ちゃ―町長。」


 リヴォーリウスさんは隣にあるガラス棚からおもむろにティーセットを出した。紅茶の茶葉をティーポットに淹れ


「水の神よ、潤いによって我が乾きを癒せ。〘アライブ・ウォーター命の水〙」


 と呟き右手の平からポットに向かって水が出た。手のひらから円形の魔方陣が出現してそこから水が出ている。


「〘詠唱持続エンツェラ〙。

 火の神よ、熱き心によって燃やせ。〘ファルア燃え盛る炎〙」

 今度は右手にポットを持ち、左手から魔方陣を通して炎が「ボッ」と出た。数秒して

「〘詠唱終了ナーツ〙」と呟き炎が消えた。


「温めすぎたな。」


 熱々の紅茶を、どこかの推理ドラマで見た紅茶を肩と同じ高さから腰側の高さ迄、持ったカップに淹れ始めた。

 あれって何の効果があるんだろうか?


「お待たせしました。中央大陸、クルシャ山脈で栽培された茶葉を使った紅茶です。お召し上がりください。」


 飲んでみて高い場所から淹れている理由がわかった。空気にさらしたことにより、丁度良い飲みやすくて体が休まる温度なのだ。

 しかも魔力を使って紅茶の水流が乱れないようにしている。


「美味しいですね、これ。飲みやすい温かさです。」

「今日はちょっと温め過ぎました。中々の大御所の使者の来客とあって少々緊張してしまったようです。」


 俺たちを一瞥。


「して、要件は何でしょう? 」


「要件は三つです。一つはシュルハの法皇に会う。

 二つ、水のエレメントストーンを手に入れたいのです。

 三つ、アルルが漁師たちから略奪して販売する男を見かけたので倒したいと。」


「エレメントストーンとシュルハの法皇様にですか……時が来た訳ですね。貴方は100年に一度来訪されるイカイビトでしょうか? 邪神復活の時が近いと……。」


「はい、そうです。なので事態は早急を極めます。」


「そうですか。わかりました。こちらも全力で動く時が来たようです。アルル、もしかして略奪と麻薬を撒き散らすあの組織か?」


「そうかも知れないよ。あいつ、【変装カムフラージュ】と【能力詐称フェイク・ステータス】を使ってた。」


「説明しますね、私、リヴォーリウスがかねてより調査していた組織、“邪神教”の一員でしょう。邪神を崇め、力に溺れた者がたかるハエのような輩どもです。イカイビトであるシン様を狙っている可能性はあります。」


「なるほど、以前から襲撃に遭遇しましたがそれが原因かもしれません。全て一撃で塵にしましたけどね。」


「流石、シン様。もともと“法皇国の参謀兼騎士団長”でしたので紹介状を書いておきましょう。

 話を聞いてくれるはずです。

 突然で悪いのですが、確証が取れましたので組織壊滅の為、協力していただけませんか?」


 邪魔してくる奴はなるべく倒したいから協力しよう。皆も頷いている。


「わかりました、やりましょう。」


 リヴォーリウスが握手を求めてきた。がっしりと返す。


「明日の夜、闇討ちと致しましょう。」


 闇討ちか。悪党には手段を選ばず、闇討ちが良いだろう。それ相応のエグゼクトおもてなしをしないとな。


 _______________________


 翌日夕方。宿は【瑛風のさざ波亭】に泊まった。お風呂は無かったが、外観がカラフルなだけあって部屋の色もカラフルだった。色合いが目立つ色合いではなく、落ち着いた色合いの壁紙が多かった。

 ウィズムが町の解説をしてくれた。もう黙ったらどうなるかわかっているよな?


「ヒイイッ! すみません。もうしませんのでちゃんと解説しますから両手をリボンで縛らないで離してください。」


 え?俺はウィズムをリボンに縛って暫くなでなでしてコアをデレ過ぎてショートさせようとしただけだけど悪いかな?


「……うぅ。ここ、ウェディケットはケット・シーの女傑、ウウェンディアが建てた町です。何もなかった岬を大規模魔法で切り開いたそうです。

 このカラフルな町並みが有名で観光客がトップクラスで収入源となっております。

 港町なので海産物も有名で真珠の人工栽培もされているとのことです。これはどうやらシノさまが真珠の存在を伝えたそうです。そこから独自研究を行い、人工栽培を始めました。

 時に海流の魔力だまりに飲み込まれた真珠貝がモンスターへと変貌し、巨大かつ、魔力を大量に含んだ真珠が生成されるとのこと。海からの魔物も多いです。ざっとこんな感じでしょうか。後は他の町と変わりありません。」


「了解。ありがとう。ご褒美な。」


 俺は頭をわしゃわしゃして撫でた。顔を真っ赤にして


「えへへへ。」と可愛い笑みを駄妹ウィズムがこぼした。


「それはボクの称号じゃないですからね。」

「わかってる。時々駄目なところがあるのが可愛い妹だから駄妹なんだよ。」

「えーっ、そういう意味だったんですか?」


 三人がじっと見てる。

「おうおう、なんか楽しそうじゃねえか。たまには皆で抱擁を交わすのもありだろう。」


「暖かいなぁ。」

「ハグも良いですね! 」

「ぎゅーっ、は大好きだよ! 」


「この温もりを奪う奴を許すな。

 邪神がどれだけ人を不幸にしてきたか想像がつかねぇ。

 俺様が若いときは分からなかったが、今はわかる。これが愛なんだよ。人は愛がなきゃ生きていけねぇ。

 永い贖罪生活の答えだ。

 人を思い、思われ、共に生きる。力に溺れた愚か者のよこしまな神やそれにくみする者なんざぶっ飛ばせ。この世界、守るぞ!」


 オロチさんがいきなりだけどめっちゃ良いこと言ってる。人より苦労してる兄貴の言葉中々沁みるわぁ。


『おー!!』





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