第60筆 闇天竜と闇聖神とクシュトラと

 翌日、一応結界魔法を張って眠ったが予想外の事態が起きた。魔物が取り囲んでいた。

 俺もまだまだなのか、それとも邪神の力が強いのかわからないが、ウィズム曰く、北の大陸は瘴気が魔物を生み出しているから効果がなかったらしい。

 この瘴気は俺という未熟な神で治まるものでは無いということがわかった。


 数時間程更に進み、大きな裂け目でルゥが止まって、と言った。


「シンお兄ちゃん、ここからディートリヒさんの気配がするよ! 」


 よくあるやり方だが、小石を落としても音が聞こえない。かなりの深度がある。

 足がすくむが行くしかない。己を奮い立たせ、天衣を羽織る。


 いざ、裂け目の底へ。


 ───────────────────────


 30分程かかって着いたが何も見えない。

 しかし、その無明の暗闇にも関わらず誰かが戦っている音が聞こえてくる。


「みんな、いますか? 」

『うん! 』


 画竜点睛アーツクリエイトを使い、人工太陽を召喚して辺りを照らす。

 俺の後ろに皆がいて、数百m先に紫と黒の斑模様のドラゴンと長身の男性で、背中まであるパーマがかかった黒髪を揺らしながらいがみ合い、攻防戦を繰り広げていた。


「ディートリヒ様ですか!? その竜は!? 」

「む!? 説明は後だ、このドラゴンを取り押さえてくれ! 」

「オッケー、ディートリヒさん! 『絶対重引伏アブソリュートグラビティ』。」


 ルゥがドラゴンを動かないように押さえつけたが……効果がない。彼女に目をつけたドラゴンは懐を殴って壁まで吹き飛ばし、気絶させた。


「ルゥ様っ! 某が参りましょう。『亜空牢獄トュイストプリシズム』──! 」


 ドラゴンの身体中に呪文の鎖と魔方陣が幾重にも重なり縛り付ける! もがけばもがくほどにその拘束はきつくなっていった。


「無駄ですぞ、ドラゴン殿! それは量子技術を応用した空間の鎖! 動き続けると世界に存在を否定されてどのみち死にますゆえ! 」

「グガァァァァァ! キュイィィィィ!! 」

「助かった、狼よ。さっさと戻れ、たわけ者!

 邪印浄影ヴェノンヒィーチ付与エンチャント幼若化リジュヴェネート』。」


「ヒュガァァァァ!! 」


 ドラゴンの斑模様が無くなり、紫の甲殻を持つ幼竜へと若返った。彼は開口一番、


「無礼を御許し下さいっ! 」

「まったく、あれほど闇に呑まれるな、よこしまに呑まれるなと言っているのに……。」

「えーっと、ディートリヒ様? 」

「あぁ、すまない、紹介が遅れた。俺は六聖神が一柱、冥幻神ディートリヒだ。こいつが──」


「闇天竜ゴルハザ・カーウェンです。申し訳ありません。クシュトラに奇襲に遭い堕とされました。」

「シン・イーストサイドです。」

「ミューリエです。」

「久しいな、姫君。」

「お久しぶりです。ディートリヒ様。」

「ルゥだよ♪ 」

「ルゥ様、大丈夫ですか? 某はヴォルフガング。」

「うん! ゴルハザさん嫌な感じが無くなったね! 」

「特異点様、申し訳ないです。」

「オロチだ。」

「うちはマリティアーネ。宜しくね! 」

「ウィズムです。」


「皆の者、宜しく頼む。まずは順を追って話す。

 まずはゴルハザについてだ。どうやらクシュトラがやったようだ。ヴォルフガングくん、君のお陰で押さえることが出来た。感謝する。」


「恐縮でございます。」


「次に同じ被害に遭った六天竜がいる。それは水天竜だ。」


「え? 本当ですか? 」


「あぁ、カーシャ、ラーシャが涙ながらに連絡をくれてな、死んだらしい。調査したところ、オロチさん、君が搭の迷宮で倒したそうだな。」


「ディートリヒさんよ、もしや青い鱗に黒い鱗が混じったドラゴンか? 逆鱗を抜いたら死んだぞ。」


「それだ。クシュトラによって弱体化され、逆鱗が作られ、邪竜化した。誠に遺憾である。だが、大丈夫のようだな。シンに借りが出来たと言っておったぞ。」


「心当たりがないです。」

「じきにわかる。次にクシュトラについてだ。」


「あっ、そういえばクシュトラについて詳しいとレナーテ様から聞きました。」

「あぁ、クシュトラは俺の一番弟子だった男だ。 」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? 」


 ───────────────────────


「あいつは世界で二番目のイカイビトだ。一番目はエルフたちのことだ。今の人々は忘れてしまっているがな。そこからコスモ様が邪神になったエドュティアナ妃を止める為にイカイビトの派遣を始めたわけだ。

 あいつは記憶喪失でな、異界から来たこと以外何も覚えていなかった。そして自分の無力さを恨んで力を求めるようになった。

 六属性で最も力の強さがわかりやすく最も扱いが難しいのが闇属性だ。一歩踏み間違えると一瞬で力に呑まれる。だからこそ、闇の魔法は禁忌の術が多い。俺以外に扱いきれない者が多いからな。」


「なぜ、クシュトラは力に貪欲だったのでしょうか? 」

「わからないな。ただ、その貪欲さは異常だった。悪魔の王に会いにいったり、エルゼンハウズ様から死の魔法を教わろうとしていた。──ふぅむ。一つ思い出した。特にエドュティアナ妃の見る目は他と違った。なんというか恋心に近い感じだ。」


 ミューリエが複雑な表情をした。


「すまない、姫君。俺ごときの直感だから外れていても構わないものだ。気に死ないでくれ。」

「いえ、大丈夫です。」


「となると邪神にしたのはクシュトラだと? 」

「察しが良いな。俺はクシュトラこそエドュティアナ妃を邪神たらしめる原因だと思っている。」

「あとは本人に聞いてみるしかないですね。」


「その方が良いだろう。シン、忠告だ。

 エルゼンハウズ様の予言は絶対。

 赤き召喚師が君で黒き召喚師がクシュトラだ。あいつは召喚術の使い手だ。」


 今、衝撃の事実をもう一つ聞いたぞ。


「クシュトラが召喚師!? どういうことですか!? 」

「どうどう、落ち着いてくれ。ちゃんと話すから。あいつはエリュトリオンに着いた時から召喚術が使えた。自分の名前と召喚術のことだけは覚えていて、他はすっからかんだった。

 特にな、英霊や神獣を召喚するのが得意だった。だが、いつしか俺の制止を聞かず闇に呑まれていった。そして不老不死や更なる力を求め、召喚するものは邪なる者へと変わり、まるで誰かから命令を受けているかのようだった。あいつは一万年前、姫君が帰ってくるのと同時に去り、邪神が生まれたわけだ。だからあいつが原因としか考えようがないのだ。」

「なるほど。僕からも一つ良いですか? 試練を受けたいのです。」


「本当はゴルハザを救ってくれただけ合格と言いたいが、エリーゼ殿が五月蝿いからな。地上に上がろう。」


 裂け目の底から飛んで地上へと戻り、巨大な碁盤目の魔方陣を描き、土俵のような舞台を作った。

 そして人工太陽の明るさがあっても気付かなかったが塔のミニチュアをロープで縛って背負っていた。


「あぁ、これか? このミニチュアが搭の変わりだ。再建不可能の物質で出来ていたから欠片からこれを作った。」


 ディートリヒ様は搭を舞台の後ろに置き、こう言った。


「これより、闇の試練を開始する──! 」

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