第16筆 ディルクの正体 (改稿)

「……シ…ン…くん…!、…シン……くん!……シンくん!」


まどろみの中、聞こえてくるミューリエの声に目が覚めた。俺は宿屋のような施設でベッドで横たわっていた。


「やっと目が覚めた……。心配だったよ。あれから7日間寝てたから。」


ミューリエがぎゅっときつめに抱き締めた。少し痛いくらいだ。ふわふわの双丘が当たる。こっ、これはエロ博士。エロ博士ではありませんか!


『ふむふむ、コスモ殿とまた違うハリのある弾力ながらももふわふわとした当たり方じゃ。大きすぎず、小さすぎず、見事な美バストだ。』

『シンさま、いつもならぶっ飛ばしてますけど病み上がりの今回は許します。』


すまん、ウィズム。邪心が出てきた。俺は純愛をするんだ。それを守らなければならん。

ウィズムがエロ博士をぶっ飛ばした。おぉ、遠くまで飛んでいって星になったなぁ。もう出てくるなよ、俺の煩悩が具現化したエロ博士よ。


「クリストラ洞窟で〘転送〙失敗してシンくんだけ倒れたの。

ディルクさんがクリストラ洞窟は〘転送〙禁止なの忘れてたみたい。

それからお詫びでディルクさんの奢りで宿屋にタダで泊めてもらって医師さんからも診てもらったの。別の世界に意識が行ってるって聞いたからコスモ様の所かなって。」


俺はコスモのこと、寂しそうだったから彼氏ユミトを召喚したこと、ルゥのことやこれから大丈夫なのかを話した。

ユミトの結婚予想は伏せた。無論伏せるさ。恥ずかしい。


「なるほど~。コスモ様彼氏出来たんだね。

シンくんの信じる道を私も付いていくよ!

あ、そうだった。ディルクさんからシンくんの目が覚めたら王宮に来て欲しいって。

紹介状預かってるよ。」


「わかった。行こう。」


王宮?ディルクは王室の関係者ってことか?国王に会えるとしたら火の神に会えるよう取り次いでもらいたいところ。

とりあえず行ってみるか。


一階の部屋から出てルゥとオロチさんと合流する。ミューリエに話したことをそのまま伝える。

二人にはかなり心配されたが大丈夫だ。

宿屋から出て名前を確認する。《不死鳥の煌めき亭》と書いてあった。


宿屋の後ろに馬鹿でかい城がある。背の高い石垣上に高くそそりたつ城。

その隣に城よりも高さがある塔があった。後ろは森に囲まれている。

段々畑のように街が作られており、流石ドワーフの国とあってジュエリーショップや武具工房、防具工房、発明品の店、蒸気機関設備、酒屋が多い。


城が丘の頂上にあり、城門まで敷設された石畳の表通りを真っ直ぐ下まで歩けば港まで繋がっている。石畳を見ていると時々ハートマークがあったり、花の形や歯車のデザインなどの物があり、意匠に職人の遊び心を覚えた。

表通りを通って30分程、門の前に着いた。


門の前には厳つい屈強なドワーフの若者二人がハルバードを持っていた。当然俺らは通せんぼされる。


「王城に何か用か? 」

「紹介状があるのなら確認しよう。」


俺はディルクからもらった紹介状を見せた。

ハンマーと斧がクロスしその後ろに不死鳥のデザインがされた赤い蝋はんこがくっついている。


「そっ、それは陛下が直々に書かれた紹介状! 」

「大変失礼致しました! 直ぐにお通し致しますので、少々お待ちくださいませ。」


数分位待っていると城門が開いた。

開いた城門から出てきたのは甲冑を着た童顔なドワーフの女性だった。


「シン・イーストサイド様とミューリエ・エーデルヴァイデ様、ルゥ様、オロチ様、ウィズム様。

大変お待ちしておりました。

シン様につきましては病み上がりと伺っております。ご無理を成されないようにお手伝い致します。

不肖ながら、国王親衛隊隊長、メイフォリア・ブルターニが案内させていただきます。」


「よろしく頼みます。」


分厚い門を抜けると噴水のある広場があり、そこからさらに巨大な観音開きのドアを開ける。

巨大な螺旋階段があり、メイフォリアさんの案内に続く。十階まで上がった所でこれまた巨大な廊下がある。

どうやら最上階のようだ。

その奥に今までのドアとは違う豪華絢爛な装飾が施された扉がある。

その右側の部屋で10分程待って欲しいと言われた。


「俺様は待つのが嫌いなんだ。どうにかならんのか?」

「オロチさん、通常なら三時間は平気で待たされます。だから超VIP待遇です。」

「そういうもんなのか?」

「そういうものです。」


オロチさんが愚痴るのをなだめているとノックが入った。


「失礼致します。陛下との謁見の準備が完了しました。お入り下さい。」


再び案内され、豪華絢爛な扉の前に立つ。

男二人がその巨大な扉を開く。開いた先に見える玉座に座っていたのはディルクだった。


_______________________



ディルクって王様だったのかよ!? 初対面の時に見た酒瓶を床に撒き散らし“酔いどれ帝”と呼ばれ呑んだくれている訳じゃなくて、綺麗に三つ編みした髭、いつもの甲冑姿ではない礼服のような物を着ているディルクが王だとは思わなかった。

全員あんぐりしているのにウィズムだけがクスクス笑っていやがる。君、知っていたな。


『だって、この驚くところが面白そうだと思ったので放置しました。』


いつから人に隠し事する悪い子になったんだ。

俺はそんな助手選んでないぞ。

真面目にならないとコスモに怒られるぜ。あの手この手の罰ゲームしたって良いんだね?


『すみません、次からは言います。』


それで良いんだ。本題に戻そう。


「騙してしまったようですまんな。

ウィズム嬢が黙ってくれたお陰で話しやすい部分もある。

改めて自己紹介しよう。儂は第178代ドワルディア国、国王ディルク・ドワルディアじゃ。」


「どうしてシャルトュワ村にいたんですか?」


「火の神からの伝言、イカイビトが来ることをシノ、ダルカスに伝えるのが一つ目、ナゴルア山脈に不穏な気配を儂の愛鳥、不死鳥フェニックスのハウザーが感じ取った。

行ってみたらエンシェントカースドラゴンの出現というわけじゃ。

三つ目に家出したい欲求が抑えきれなくてな、丁度三つとも重なった。」


隣にはオレンジ色に煌めく鳥。止まり木に佇んでいて、尾羽は床に付くほど長い。

特殊な能力を持っているのかも。若いときも家出していたようだし縛られるのが嫌なんだろうな。



「ハウザーについては守護精霊じゃ。

それぞれの国家元首に守護精霊、または霊獣がいる。まれに個人で霊獣と共に生きる者がいる。

あと、シン。何か要望があると聞いたがなんじゃ?」


「ウィズムの身体を作っていただきたいのと、火の神に会いたいです。」


「そうか。ウィズム嬢の身体を作るのは面白そうじゃ。私と妻と一緒に作ろう。シンは勿論パーツを召喚するんじゃろ?」


「勿論そのつもりです。」

「陛下、良いのですか?」


「可愛い後輩の願いを断りたくないしの。

儂が鍛治するだけ皆騒ぎすぎじゃ。世知辛いわ。」

「すみません、陛下。」


「煌炎神アウロギ様には儂から話しておく。“封印のエレメントストーン六聖紋章石”がいるしな。封印をかけ、解くことも出来るものじゃ。一度解いて倒すのだろう?」


「うーん、行ってみないとわかりません。一応ご助力願う感じです。」


「そうじゃな。行ってみないとわからん。

明日、ウィズム嬢の身体をつくり、明後日アウロギ様に会うスケジュールにするが良いか?」


「わかりました。」


「じゃあねー、ディルクお爺ちゃん~。」


「陛下に失礼な! 」


「良いんだ、メイフォリア。ルゥは特異点。元々はスライムだっただ。希望の子たる彼女はありのままで良い訳じゃ。」


「二度もすみません、陛下。」

「わかれば良い。」


「では、また明日。」


「あぁ、またの。明日は朝、城門の前で待っといてくれ。」


こうして謁見は終了した。堅苦しくないって最高だ。やり易い。


「あぁ~、疲れたぜ。明日どうする?」

「俺とオロチさん、ウィズムはディルクさんの所へ。ルゥとミューリエはお買い物で良いかなって。」


「別々は寂しいな……。」

「たまには女子会楽しんで欲しいんだ。」

「そう言うんなら楽しんじゃお♪ 」

「うん!」


まさかディルクが王様だとは。嬉しいサプライズだった。明日が楽しみだ。











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