第22筆 正義執行 (改稿)

 人々が寝静まった夜。リヴォーリウスが指定した町広場に集合した。


「光魔法がひとつ。光の神よ。暗闇を灯し、世界に光をもたらせ。〘リライト照らし夜〙。」


「明かりを有難うございます。ミューリエ姫、貴方はエンゼルハウズ様のご息女ですよね?」


「えーっと、なぜ私のことを知っているんですか?」


「世界樹の図書館で読みました。古い古い今にも破れそうな書物にです。貴方は転生の儀を繰り返しているので記憶が曖昧なのかもしれません。アウロギ様は記憶を温存する魔導具マジックアイテムを利用していたので記憶を持ち越しているのです。多分、エンゼルハウズ様は何かを隠しているのかもしれません。」


「うーん、分からないことが多すぎます。お父様を探さないと行けませんね。」


「私から言えることはそれくらいです。では作戦をお話しましょう。あと、アルルが行くと言って聞かなくてね、連れてきてしまいました。」


「よろしく、皆! シン兄、悪いけど双剣が欲しいんだ。」


「人を斬るんだぞ。覚悟はあるのか?」


「困ってる人のことを考えた時、ぼくは腹を括ったさ。」


 そう言っても脚が震えてる。仕方ない。その恐怖を取っ払うほどのカッコいい剣を創ってやる!

 それでは〘画竜点睛アーツクリエイト〙!

 機能

 アルルは身長140セルツほどなのでそれに合わせて刃渡り60セルツ程にする。

 短剣サイズで30セルツ程、最長90セルツに自在変更出来るようにする。

 100セルツだと長すぎて動きづらいと〘具現化描写〙によるシミュレーションでわかった。

 金属はタニラエキュスト思考同調金属と核パスタをふんだんに入れて絶対折れないようにする。

 核パスタは俺とウィズムとコスモだけが壊せる。

 シャルトュワの村のクッキー好きな男の子にプレゼントした剣にもつけた所有者の身体的成長に合わせて剣のサイズが伸びるようにする。

 剣技サポート機能(ウィズム監修の元製作。剣の聖霊が付く)

 カラーリングは黒色にしておこう。エアブラシで塗って完成。気に入らなかったら彼の好みの色になる機能つき。

 ほい、完成。


「アルル、完成したよ。」


「えっ、わずか十分で出来るとは凄いね!」


「機能は絶対に折れない金属を使って、君の身体の成長に合わせて刃渡りが伸びるようになってる。だから一生使える。剣技サポート機能つきで良くない剣戟を修正してくれる。剣の聖霊が宿って教えてくれるかもね。あと、鞘を。」


「ありがとう!」


 アルルは剣を60セルツ程にし、くるくると振り回して俺が投げた鞘二本をクロスした剣のポーズで綺麗に納めた。アルル、カッコいいね。おー、やっぱり自動成長機能は素晴らしい。


「なんかね、若いお姉さんの声が聞こえたよ。」


『この子を指導していきます。シンさんありがとう。』

「後は頼みます。」

『はい。』


 剣の聖霊らしき声は聞こえなくなった。

 あぁ、俺はまたチート武器を作ってしまった(真顔)。


「シンさま、真顔で思うことじゃないです。」


 ウィズムにツッコミを入れられた。初めてじゃないだろうか。


「なんだか世界樹で聞いた音声記録にあった、伝説の女剣豪の声に似ておりました。アルル、大事にしろよ。」


「わかってるよ、父ちゃん。もちろん、場所はここから屋根を伝って2セルク離れたところだったよね?」


「あぁ、そこだ。皆さん正義執行の時です。」


 _______________________


 屋根を伝って走るのって楽しいな。忍者みたいだ。おっと、落ちそうになった、危ない危ない。

 20分位走ったところでアジト屋敷に着いた。ここだけ黒い外観でいかにも悪い奴が入るといった感じである。ミューリエが防音の為高さ100《m》の〘防壁魔法〙を用いて被害を最小限かつ住民を起こさないようにした。


戦闘態勢バトルモード目標設定ターゲット・ロックオン静音サイレントモード搭載完了、被害範囲設定、屋根を剥がす程度。発射。〘超新星爆発砲スーパーノヴァエクスプロージョンキャノン〙!」


「キュイイイインン!! 」とかなり押さえられた動作音をあげて放った。屋根が砕け、粉々どこか塵にすらも残さずに建物がなくなった。


「ってへ。(笑)やり過ぎちゃいました 」


 ……やり過ぎ。後で “なでなでの刑” な。

 でも地下に続く階段があるようだ。あれは化けの皮の部分を壊しただけってことか。


「突撃します! 」


 リヴォーリウスさんが陣頭指揮を取る。

 更地となった場所に着地、階段を降りていった。

 同時に暗視ゴーグルをつけた。これで闇討ちが捗る。


「シン殿、これは?」

「暗くても物が見えるゴーグルです。着けてみてください。」

「カチャ。おぉ!シン殿が召喚したものは素晴らしいですね。」


 ウィズムのレーザー解析で地下三階建てまであるらしい。地下一階、寝室。地下二階、住空間。地下三階は遊戯場でここから多数の生体反応が出たので港で会ったボスがいる可能性が高い。

 結界魔法で侵入者を防ぐ予防線も貼られているようで、俺が作った〘解呪の札〙、または光魔法〘浄化パージ〙で解除可能だ。

 地下一階。ドアを開けると早速結界が。かかった部分だけプリズムが発生し、反射している。中も見えるが俺の姿が反射する。流石にぶつかったりしないさ。

 ぺたりと札を貼ると消滅し、ひらひらと地面に落ちた。この札は繰り返し使える設定で作った。

 おっさんたち数名が「ぐがぁ~。」と寝息を立て熟睡していたが、麻薬でコイツらが数々の人間を廃人にしたと考えると許せなくなった。


〘神器解放〙。形態変化モードチェンジ短剣型ダガーモード


「グサッ。」

「ぎゃああぁぁぁ!! 」


 初めて人を殺したあの感触はずっと忘れられない感触とドラゴンとは違う血の生暖かさを覚えた。だが、コイツらは悪人。寝込みを襲われても仕方ない連中だと腹を括り直した。

 全員倒したようで二階へと向かう。二階は宿屋の部屋割りのようになっており、紫色の麻薬を吸っていた奴数名を倒した。

 三階。この階層だけ違った。迷路のようになっているのだ。迷路を解く魔法は今回誰も持っていない。

 え? 解除する道具を召喚すればいいじゃない?

 そう言われてもイメージできない物は描けない。

 だからウィズムのレーダー反応で5分で付いたさ。


「君らには逮捕状が出ている! 抵抗しても無駄だよ。」

「クックック、そうなると思ってたからなぁ。邪神様の力が入ったこの薬を飲めば……」


 身体がみるみる変貌していき港にいたあの男の姿ではない異形となった。所々の筋肉が隆起した姿だ。


 あーもう、めんどくさい。この前作ったキーホルダーサイズになる愛槌「グルガルマー」で

〘天轟一砕〙の拳骨祭りを開催した。皆、肉片だけになってしまった。こんなもんか。


「すみません、シン殿。あわよくば逮捕してしまいたかったのですが。邪神の力の成分を入れたあの麻薬を吸うとああなるという報告を受けましたがまさか事実だとは! 」


「一体だけぼくに譲ってくれたね。肉を切ったあの感覚、一生忘れないと思う。」


 アルルの剣さばきは二刀流よろしく手数の速さでサイコロにしてしまった。中々伸びそうだ。


「ここ、爆破しておきましょう。」


「ボクがやります。最大出力。【超新星爆発砲スーパーノヴァエクスプロージョン】。」


 やべぇ、逃げないと俺らも量子に還ってしまう。急げ急げ!

「ドゴォオオオンン!!」


「場所考えろたわけが!! そういうのは一回外に出てからやるもんだろ! 」


 なんか、滾るマグマみたいなのが一番下から見えるんだけど。


「すみませんオロチさま。楽しくて全力で撃っちゃいました♪」


「とっとと修復するぞ。今にも噴火してしま…」


 止めろ、止めろ! 噴出し始めてるぜ、マグマが!


「ミューリエ、急ぐぞ一緒に詠唱だ! この魔法なら行けるだろ! 」


 オロチさんはミューリエに耳打ちをして彼女は納得した表情になった。


「は、はい!」

『土の神よ、新たな大地を創造し、歪みを塞げたまえ。〘大陸塞ぎオクピィアコンティネ〙! 』


「シン! ガルグルマーで押し込め!」


 俺は急いでガルグルマーを巨大化させ、ミューリエ、オロチさんが生成した大陸岩塊を押し込んだ。


「ルゥ、〘重力操作グラビティオペレーション〙で更に押し込んで周囲の衝撃音を掻き消せ!」


「りょうかーい! 」


「リヴォーリウスはその補佐を! 大規模魔法だから微調整がしづらい。頼むぜ。」

「りょ、了解しました。」


「アルルはすっぽり埋めるために不要な岩を切ってくれ!」

「う、うん!」

 アルルが怒涛の勢いで切り刻んでいく。まったくもって末恐ろしい剣の冴えだ。12歳に見えねえぜ。


「そして、駄妹だもうとウィズム! 責任とってマグマの中にあるして沈静化しろ! おめぇなら出来る! 」


 ウィズムが顔をくしゃくしゃにし、わんわん泣きながら見事やったようだ。マグマの怒号の音が無くなり、辺りは静けさが占領し始めた。

 埋め立てた所も何事も無く、ちょこっとマグマが漏れたのでオロチさんに氷魔法で冷却してもらい、俺が壊して、ミューリエが【永劫消失エタニティパニッシュ】で無に返した。


「すまんな、リヴォーリウス。俺様の指導不足だ。」

「いえ、音も一切溢れることなく、被害をここだけに限定したその指示力、中々でしたよ。

 ウィズムさん、今後はあの技の発動条件と使う場所を再設定してください。そうでなければ、あれは世界を破壊します。」

「同じく。オロチさんのリカバー力、素晴らしかったです。」

「ウィズムお姉ちゃんには困ったものだねー。」


「ぼくもビックリしたよ。マグマなんて初めて見たよ。」


「ウィズムちゃんにはいつも優しくしてますが、今回はちょっと……やり過ぎです。次に名前を呼ぶときに【破壊神】の異名がつかないことを祈るばかりです。」


「っひく、ひっく。ごめんなさい皆さん。ボクは役に立つヒトになりたいです。」


「だったらいつも通りにいてくれれば良い。困ってる人を手伝えば良いだけ。」


「がんばります。」


 翌日。かつてのアジトがあった場所はまっさらな更地となった。ウェディケットでは大ニュースとなり、町長であるリヴォーリウスさんが俺たちの存在を隠してアルルが倒したと説明した所、ただの魚泥棒だった彼の信頼は一気に跳ね上がった。


 俺たちは贖罪として水脈をルゥが弄り、温泉が出るようにした。

 ウィズムには軽く蓋をしただけの事件地内部の埋め立てをしてもらいマグマの流れを水脈を温めるだけの安全な流れに反らしたのだった。

 数日後、この温泉の名を、ウィズムが反省の意を込めて、自分の名前をもじった “ウィレンツ=ズムロ温泉”と名付けた。

 もちろんウィズムのネームセンスはない。聞くに堪えない名前だったからこの名称になった。

 え? 聞くだって? ウィーたん温泉だってよ。


 後にオーシャンビューの温泉として法皇がお忍びで訪れる場所となり、その噂を聞き付けて知名度はどんどん上がっていった。


「あのような者、使い捨ての駒に過ぎぬ。まだまだ研究価値があるな! 」

 そう言ったのは黒ローブの男だった。彼は上空であざわらいながら鼻血を拭っていた。

 なんだ、こいつは?

 温泉の若い女を覗き見していたようだ。バレにくい上空から覗くとはなんて変態だ。

「良いオカズになったぜ。シン、次も楽しませてくれよ。」

 いや、どっちなんだよ。







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