第42筆 塔の迷宮前編

笑い疲れたところでメンバー編成。

俺とオロチさん→塔の迷宮へ

ミューリエ、ルゥ、ウィズム、ヴォルフガング

→洞窟の迷宮へ


塔の迷宮は受付さん曰く詳細な記録が残っていないが、数千年前より変わらぬ姿であり、洞窟の迷宮は土竜型の魔物が掘った巣穴が変化して出来、丁度魔力溜まりを土竜が掘り起こして死亡、溢れる魔力で洞窟内が変質し、迷宮となったという。奥地に魔力結晶と化した土竜が残っているらしい。

生と死が混じり合うことによって生じる混沌の魔法。その混沌が迷宮を生み出す要素だと考えられているらしい。


「それでは行ってみますか。」

「おう、楽しみだぜ。」


門を潜って見えたのは薄暗い円状の部屋にぼんやりと光る巨大な魔方陣。


「あれは転移魔方陣。階層ごとにあって乗って昇る感じかもな。」

「了解、乗ってみましょう。」


ディルクさんの転移失敗の光景が蘇るがいつまでも怖がっていては何も進まない。すくむ脚を押し出して魔方陣に乗ると紫色の光の波に呑まれて周囲の景色が見えなくなった後、再び見えたのは石畳の円形の部屋だった。天井に檻のような物が見える。


《迷宮運行システム起動……成功しました。挑戦者…シン・イーストサイド、ヤマタノオロチ。

特別システムに移行します。……特別システム、煉獄の塔モードへ移行完了。天井の檻に魔物を出現させます。……お二方、良い結果をお待ちしております。》


男性の声で語って来たシステムメッセージの後、天井にあった檻が「カラカラカラ」と鎖でゆっくりと下ろされ赤い眼光が妖しく光る。扉を叩き斬って現れたのはゴブリンだった。緑の肌ではなく紫がかった肌で剣を振り回しては度々威嚇した。


ダークハイゴブリンキング闇魔子鬼王か。ヴォルフガングの進化制限解除、良い仕事しやがる。闇の魔法に飲まれた個体で光属性に最も弱い。てか、弱すぎ。シン、なめられたもんだ。」

「弱いんですね、この子。散れ、『光滅一閃』。」

「グヴゥゥゥ!!? 見事なり……! 」


へえ、喋るんだ。

ギリギリ視認出来たようで手持ちの剣で防ごうとしたようだが、土の塊程度にしか感じない奴の剣の硬度は天叢雲剣に屈した。

振り下ろしただけで身体が両断される。しかし、柄から伝わる肉を切る感覚は気味が悪く慣れない。エリュトリオンのゴブリンは弱い。


「じゃあな、ゴブリンさん。天叢雲剣、『付与エンチャント迦具土の焔』。」


炎を纏わせた天叢雲剣で更に斬って灰塵にした。


「オーバーキルかよ。」

「復活するのが心配なので。」

「シンらしいわ。」

《第一層お疲れ様でした。次は第二層です。魔方陣にお乗りください。ここでは復活はないのでご心配なく。》


石扉が下から上に自動で開きぼんやりと光る魔方陣。迷うことなく乗った。


第二層。うぅ、寒い。薄暗いし……「ベキッ」

――これは砕けた骨か?


「暗いな。『リライト照らし夜』。」


光魔法初級、点灯用の魔法だ。やっと見えてきた。

骨と頭蓋骨だらけだ。骨の教会を彷彿とさせてくる。人骨の集合とかムリ、吐きそう。

頭蓋骨の虚無ニヒルな眼窩から青緑色に光り――「!?」踏んでいた頭蓋骨と骨が集められ銀色と金色に光る骨の甲冑、肩に角の生えた鬼のような頭蓋骨、骨の翼、ドラゴンの骨のような骨の尻尾、頭部に多面の頭蓋骨、それは骨の十一面観音だ。血が「ぽたりぽたり」と滴るマフラーを出現し首に巻いた。


「カッカッカッ!! キサマが吾を楽シマセテクレルのか? 」

「うるさい、去ね。『スピリチュアラ・ディキャピテート霊子斬』、『付与エンチャント大宜都比売オオゲツヒメの熱濃硫酸毒』。」

「ギィャアァァァァァ!! 霊体ナノに吾が骨身が斬られている、しかも熱い、熱ィィィィィィ!! 溶けルゥゥゥゥゥゥ!? 」


全ての食物を知る神、大宜都比売命。毒も勿論。あれで溶けない奴は少ない。

蒼い魂のような炎が現れた。あれが霊魂スピリットコアだろうか。おい、逃げんな。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!! オタスケ下され~!!」

「逃げるなっての。『天穿ち』付与エンチャント『霊子分解雷』

「グギャアァァァァァ!! 」


霊魂スピリットコアを貫いて180度捻り、柄頭を手の平でトンと叩く。天叢雲剣が呼応して霊子を分解する紫雷で大放電。断末魔を上げてスケルトンは無に帰した。


《次は第三層です。》


巨大な骸骨があんぐりと口を開けた扉を通り魔方陣へ。


第三層は悪魔のような風貌の魔物が天井の魔方陣から姿を表した。


「おい、管理システム、エリュトリオンじゃ六聖神が悪魔を滅ぼしたって聞いたんだけど? 」

《滅びてなどいませんよ。この下に眠っていますから。エルゼンハウズ様の命によるものです。》

「復活しねぇよな。ハウ兄は一体何考えてんだか……。」

《それはお答え出来ません。》

「ふん、待たせるとは良い度胸をする。せいぜい楽しませてくれ。【形態変化フォームチェンジ:人間化ヒューマンモード】。」


悪魔は人の姿に姿を変え、黒い眼球に紅と黄色がマーブル状になった瞳、タキシードを着た青年の姿となり、左手を横になぞって直剣を生成した。しかも赤々としたオーラを纏っており、下手をすれば気絶するほどの威圧感を覚える。


「【神器解放】。」

「ほう、もう一人の男が消えたか。一心同体か。お前神器使いか。見たことない剣と服を羽織っているな。エドュティアナを倒す勇者なのか? 」

「まぁ、そんなところです。」

「【能力透視】。名はシン。108代目イカイビトか……。時とは残酷、早いものだ。さぁ、楽しませてくれよっ! 」


速いっ! 急いで【超視力】を使って視認後、防いだ。

「シン、手伝ってやろうか? 」

(いえ、いけます。)

「避けたか。なら、これはどうだ? 」


怒涛の連撃を繰り出す剣裁きは正に悪魔の舞踏会。追い付かなければ意味がない。ならばあれで反撃だ。


「【神体化ゴッドアーマー】。【神器解放】、八柱の雷神の力賜わりて、彼の者を切り裂かん。弐式【雷皇の演舞斬】」


「お前、神なのか、面白いなぁ! キィン! その身体の紋様と言い、剣戟の速さ、キィン! 我に追い付く者がいるとはなぁ! 」


え? 今左胸を刺された? って神の身体だから無駄だね。


「物理効かないんだ。良いねぇ。」

「でも痛いっ!? 」

「ご名答、痛みは走るようにしてある。こうやってね。」


「キィィィン!!」あっぶねえ、去なさなかったら両断されるところだ。

「なんだ、つまらない。雷皇神の演舞斬か。避けたり去なす程スピードが上がるのか。これじゃ我の泥仕合じゃないか。」

「こんなに強い人、いや悪魔は キィン! あなたで二人目ですよ。」

「そこ、がら空きだよっ。キィン!一人目って誰だい? 」

「クシュトラです。キィン! 」

「あの坊やか。我に禁術を教えろとせがんできた。無論、叩きのめして顔に傷をつけてやった。良いことを聞いたお礼に必殺の一撃で終いにしよう。シンくん、お前も構えると良い。我の一撃受け止めて見せよ。」


悪魔は居合いの構えをとった。刀の使い方を知っているかのように。彼は眼を閉ざして動かない。

俺にとっての最高の一撃……。うーん、思い付かない。

(シン、えらく悩んでいるようだな。難しく考えるとかえって良くない。イサクの一撃を真似してみろ。)

イサクさんの一撃……月を破壊し、太陽に十字の傷を入れ、海を割り、山を砕き、天を裂く。……閃いた!

俺も居合いの構えを取る。


「準備は出来たか。往くぞ。地獄で背負いし罪、七星しちせいに縛られ、絶えぬ嘆きをあげろ。【背獄罪科フォートスカラプリズン絶嘆の七星縛斬アーサムバインドスラッシュ】!」


「森羅万象を切り裂く一太刀、【八百万十条斬り】!」


互いに剣を抜く。悪魔は七星魔方陣で俺を縛り付けようとしたが、斬って解除。だが、斬ると左腕が痺れた。天叢雲剣で己の腕を切って解除、神体化しているのですり抜けてエンガチョと同じ穢れ払いの効果を発揮する。

悪魔が剣を持っていない左手を振り上げ床から無数の杭を俺めがけて放つが斬り払いもう一度納刀、居合い切りした。悪魔も剣を振りかぶって互いの一撃がぶつかる! 斬りあった後、残ったのは……


「見事だ――! バタン!」

「俺の勝ちですね。悪魔さん? 」


「ウゥ……。おう。」彼は剣を杖代わりにして再び立ち上がる。先ほどの猛々しい赤々としたオーラはなく、立つのがやっとのようだ。何故なら、悪魔のを斬ったからだ。

彼の細胞セル霊魂スピリットコア電子エレクトロン量子クォンタム光子フォトン霊子スピリチュアラ幽子アストロを斬った。これで死ぬのだが、死んでいない。

「パキッ―!」彼の左手の指輪が砕けた。


「身代わりの指輪だ。これがなかったら存在すら許されなかった。なんて一撃。若き神は末恐ろしいな。あと、この背中の傷は? 」


彼の背中に俺が斬った十条に丸の切創。

オロチさんが戻ってきて傷を眺めてにたりと笑った。


「それは十条の切創です。本来のイメージでは胸について穴が開くんですが、通過して 悪魔さんは指輪のおかげで助かったようですね。」

「クックックッ! 我が恥として受け入れろと!! ハッーハッハァーー!! 面白い! ここまでする奴は初めてだ。気に入った! お前と盟約しよう。主君の証としてな。」


「俺は受け入れろなどと言ってません。盟約とは?」

「俺様の弟子をどうするつもりだ?」

「シンくん、オロチ殿。盟約はその名の通り、悪魔との契約。我は高付くぞ。だが、シンくん限定でデメリットなしだ。エドュティアナを倒したいようだな。それがデメリット無しの理由となる。」


「話が早いですね、何かあったら彼女の【永劫消失エタニティヴァニッシュ】と俺の最高の一撃、お見舞いしましょう。その傷、存在を消す鍵で天叢雲剣を刺したら消えます。仕組みは切創が目視できないですが、永久に残ってます、全てね。ニコッ。」


「おー、怖い怖い。ますます抗えないではないか。

彼女が気になるが紹介してくれるのだろう?

わかった、盟約の証だ。この傷は治さない。我が寿命を迎え死すまで。それを【盟約カヴェネント】とする。」


彼がそう言った瞬間、彼の尖った爪が目立つ手からイヤリングが現れた。俺が付けた十条に丸の切創のデザインで直径二セルツ


「なんでこのデザインなのですか? 」

「我はルシファー殿と懇意なのだが、似たデザインにしようか迷った。だが、この傷、一生の恥であり誇り。忘れぬ為にこのデザインにした。

是非とも付けて欲しい。」

「わかりました。付けましょう。」

「あと、我には名がない。」


名がない人(悪魔)ってまぁまぁいるのか。キフェも名前なかったし。


「名をスキアゼル・アストルファーとします。宜しくお願いします。」

「良い名前だ。このスキアゼル、シン・イーストサイドに仕えよう。強者に仕えるのは我が喜びだ。」

《ちょっと待ってください。合格なので次の層に行けますが、その方は悪魔の長ですよ。禍津神と呼ばれ名前を剥奪されました。》

「俺も悪魔と聞いてビビりましたが、デメリットないならラグナロクの為に協力してもらいます。裏切ればさっき言った通り即消滅確定です。」

《世界の声様、後はお願い致します。》


~世界の声です~

突然失礼致します。名もなき悪魔の長、禍津神が新たな名を手に入れ スキアゼル・アストルファーとなりました。盟約も完璧なので復活を許可します。

カルデロ、彼をこの塔から解放させるようにしてください。以上世界の声でした。


「へぇ、珍しい。自分をこの上無いほど嫌っていたエリーゼが許可するとはな。シンく―いや、主君、一体何をしたんだ? 」


これまでの経緯を話した。


「クックックッ。面白い。では改めて宜しくだ、主君。」


勇者は悪魔の王スキアゼルを手にいれた。

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