幕間の物語 ミューリエの過去 後編 (改稿)

作者より

これより先のお話は幕間の物語を読んだ前提の展開になっています。ご容赦下さい。

ミューリエがシンと日本で会った話も収録しています。


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その時私はある世界でちょうど仲間と一緒に魔神を倒した頃だった。帰還の門が開いてコスモ様が血相を変えて私に叫んだ。


「ミューリエちゃん! 大変な事が起きちゃった! お母さんのエドュティアナちゃんが暴走して邪神になってしまったの!もう何万人も死んで―― 」


えっ? お母様が悪い神様になっちゃった?背筋が凍り付いて動けない。だけど、真相を知りたい。


「すぐに行きます! ごめん、皆! お母様が邪神として暴走しているみたいだから……。」

「おう、必ず止めてこいっ! 今までありがとうな! 」


急ぎエリュトリオンへ向かい真相を探ろうとお母様の下に急ぐ。辿り着いた時には遅く、大地が割れ、焦土と化していた。お父様がお母様と対峙して魔法を斬っていた。


「お父様っ! 」

「ミューリエ! キィン! 再会を祝いたいが畜生、なんでこうなったかわからないんだっ! キィン! 朝起きたら暴走しててエリュトリオンは大荒れになっていた! キィン! 」

「はぁ、つまらないわ、あんた。アハハハハハハハ♪ 可愛い娘。どういたぶってあげようかしら? 」

「お母様っ! ミューリエです。私の事を覚えていませんか!? 」

「誰よ、あんた。アハハハハハ♪ 死になさい! 【永劫消失エタニティヴァニシング】! 」

「相殺せよ。【永劫消失エタニティヴァニシング】! 」


なんで? なんで私の名前を忘れているの? 変な服を着ていること以外はいつものお母様なのに……。目もオレンジ色で何ら変わりないのに……。


「何でっ! 私のことを忘れているの、お母様っ! 」

「私はあんたのお母様ではないわっ! 穢わらしい、【永劫消失エタニティヴァニシング】を相殺するとは何なの!? 」


「これじゃ埒が明かない!【 臥遷化ソヌムシア】を使う。」

「永眠に近い眠りじゃないですか! 嫌です! 」

「仕方ないだろっ! ミューリエ、こうしないとお母様は止められない。」


この技は昏睡状態に陥れ植物人間になる技で死の魔法の一つ。

必中魔法でコスモ様の加護を貰っているから絶対に外れない。だけど、これをやったら神とあれど死んだことと同義になる。

だけど眠っている間に暴走しないように手立てを考えることが出来る。そんな一縷の希望を考えてやってみることにした。


「お父様、やりましょう。癇癪を起こしたお母様を止めましょう! 」

「同時に行くぞっ! 」

『【 臥遷化ソヌムシア】!!』

「そんなもの聞くわけ―― ドタッ。」

「ふぅ、手間かけさせやがって。ミューリエ、ついてこい。」

「はいっ! 」


お母様をお姫様抱っこしてお父様は壊れた神殿に連れていった。私が知らない場所に地下へと繋がる階段があった。

そこを降りると棺が二つ。


「基本的には神は死なないが悠久の時を生きれば死もやってくる。その為に棺を用意した。

これは聖櫃クロディエーレ。転生の儀を行う際にも使う。俺の所見からして大変強力な呪いがかかっている。周囲が気絶どころか即死しそうなほどに。」


私がお母様を抱え直し、お父様が棺を開く。そして納めて「おやすみ」と言いはなった。


「呪いは解けるでしょうか? 」

「わからない。呪い以外にも何かついているがそのが不明点だ。宇宙そのもの様にも聞いたがわからないと申されたからな。一万年の間は全て浄化されて眠りから醒めると思う。」

「わかりました。お父様。待ちましょう、その時まで。」


私はお母様の棺の前で手を組んで祈りを捧げた。どうかお母様が笑顔で迎えてくれますように。


エリュトリオンに戻った私はエデンの一族と呼ばれる母エドュティアナを信仰する人達の族長になった。彼らの祈りが邪神の呪縛から解き放とうと試みていた。

だけどその願いも一縷の希望も虚しく、8500年前に復活して神殿を破壊、さらに大地を砕き、闇聖塔のみをわざと狙って壊滅。その意図はわからない。

北の大陸には邪神と成り果てたお母様が魔物を放ち、起点としてエリュトリオンを侵略し始めた。

人々は連合軍を立ち上げ総力戦になった。半年に渡る激戦の中、私はリーダーとしてお母様、いや邪神と対抗した。角なんてなかったのに角が生えている。


「あら、あんた久しぶりじゃない? 私を楽しませて頂戴! 」


1500年前と何ら変わっていないが確かに強くなっている。ここは私が……やるしかない!


「【 臥遷化ソヌムシア】。規模のデカい夫婦喧嘩を止めるのは夫の役目。父さんに免じて許してくれよ。」

「え? 嫌だ、眠るわけには…私も一緒に!……あぁ、眠気が――」


お父様から眠らされ、目が醒めると唯一世界ユニバースワールドでコスモ様がいた。


「いらっしゃい~♪ ミューリエちゃん。」

「あれ? エリュトリオンじゃない? 何で唯一世界ユニバースワールドなんですか? 」

「あー、それはね、あたしが独断で目覚めさせたから。あと、これを見てちょうだい。」


彼女が提示したホログラムには私と同い年程(私の肉体年齢が18歳くらい)の男の子が絵を描いていた。


「この子はね、東郷慎二くん。皆からはシンくんって呼ばれてるの。両親はまだ秘密にしているけどこの世界、地球の中の日本という国の神、天照ちゃんの配下神の息子なの。」

「えーっと、どういうことですか? 」


この子格好いいな。身長高いし、絵もかけてアルザ・ネヴァルの魔王さんに似た黒髪の持ち主でとても優しそうな人だ。


「とりあえず、百聞は一見にしかずだし、紹介するね。二人とも入って~。」


ドアを開いて現れたのは30代くらいの男女二人で薬指に結婚指輪がある。世界によっては指の位置が違ったなぁ。


「はじめまして、私は綾子です。」

「綾子の夫、晴心せいしんです。僕ら二人の息子が慎二です。」

「はじめまして、ミューリエ・エーデルヴァイデです。母エドュティアナと父エルゼンハウズ様の娘です。

それと突然ですけど、息子さんに一目惚れしましたっ! 結婚したいと思いました! 」


「えーっ!? ミューリエちゃん、本気なの!? 二人ともどうするの? 」

「ハッハッハ。面白いですね、あんな不束者で良かったら結婚してやってください。最近は彼女にフラれてしまって傷心で暗い絵ばっかり描いているんですよ。」

「私からも宜しくね、ミューリエちゃん。」

「はいっ、宜しくお願いします。」


まさか快諾してくれるとは思わなかった。にこやかな笑みを崩さない夫婦は何か企んでいるように見える。


「折角、慎二の妻になってくれる娘だからね、これってどうだい? ごにょごにょ―」

「良いわね! ミューリエちゃん、神官さんのバイトしない? 日本では巫女さんって仕事なんだけどね、新年の時は人手不足なのよ。正月って言ってね、新年をお祝いして神様に今年も一年良い年になりますように、とか一年の目標やお願い事、感謝をお祈りしたりお札に願い事を書いて奉納したりするの。」


「それでミューリエちゃんには巫女さんになって接客をしてもらい、傷心中の慎二の心を癒してほしいんだ。どんな手も使って大丈夫! 」

「わかりました! がんばります! 」

「では数日後に会いましょう。」


数日後、綾子さんと晴心さんに会い、転移門で日本に行った。門がふすまだったから珍しかった。日本って凄いね、一番技術体系が進んでいると思う。日本に近い技術的進化を遂げた世界もあったけどレベルが違う。


「名前どうしようか。偽名の方が良いと思うんだ。」

「そうね、ミリアちゃんはどうかしら? 」

「わかりました。ミリアですね。」


こうして、大好きな慎二に会うことになった。この時神を黒髪に染めて目立たないようにした。私の地毛は虹色だから結構目立つんだ。


「はじめまして、ミリアです。貴方のお父さんのスカウトでバイトに来ましたっ! 」

「はじめまして、東郷慎二です。お綺麗ですね……はぁ。また、キラースマイルで父さんスカウトしたのか。恐ろしいぜ。」

「どうしたんですか? ため息ついていると晴心さんが『幸せが逃げるよ~』って言っていましたよ。」


「失恋したんです。画家になるって言ったら反対されて『不安定な生活する人とは付き合えない』って言われたんです。

日本の画家は売れない人が多いんですよ。世間のイメージが死んでから売れるとか苦しむの当たり前とか言ってくるから困ってます。」

「どんな絵を描くんですか? 私描いてくれません? 」

「今はそんな描く気になれないですよ。」


私は彼の手を握ってキラキラの目で彼を口説いた。

私らしくない我ながらあざといことをしたと思ったよ。


「私もこの仕事が終わったら海外に留学するんです。だから思い出に描いてくれませんか? お願い、シンくん? 」

「女の子にそう頼まれたら断れないですね。描きましょう。」


そう言ってくれた彼は私が巫女さんとして接客をしているシーンを見ながら描いてくれた。本当に上手くて今にも私の分身となって動きそうな勢いだ。

思わず嬉しくて涙が出ていた。


「あの、ミリアちゃん? 俺なんか悪いことしたかな? 」

「いえ、嬉しくてつい。」

「おーい、慎二。手伝ってくれ。今度はお前が祝詞をあげろ。ってミリアちゃん泣かすなよ。最低だな。」

「いや、違うって父さん! 」

「違うんです、晴心さん。これは嬉し涙です。」


「そうか。すまないね、女ったらしの愚息で。ほら、慎二、着替えて来いっ! 」

「女ったらしじゃないわっ! 痛っ! 背中叩くなよ父さん。はぁ、もう怠い。」


悪態をつきながらも日本の伝統的な衣装だと言う装束と袴を着て儀式で祝詞をあげるシンくんの横顔はとても美しく、正直惚けてしまっていた。

晴心さんに勧められるがままお家にいさせて貰うことになった。地球の人たちの新年の騒ぎようは他の世界に比べて異様でかなり熱狂的。

忙しい三賀日を終え、一日程休んだ私は別れを告げて晴心さんがもっといても大丈夫だよと言ってくれたが、あまり彼の邪魔をするのも良くない。

丁重に御断りし、また会えるのを楽しみにして地球を一周旅行することにした。出立時に婚約者特権で一億円を貰い受けて多いに楽しんだ。

一見して平和そうに見える地球も貧困や飢えに苦しむ姿に耐えきれずアフリカで事業を起こすことにした。

各地の職業を斡旋し、飢えにはNPO団体と協力して子どもたちの夢を叶える手伝いをした。

地球は魔法が使えないので清浄な水を魔法で出そうとしたが、魔力がないことをコスモ様から聞き、かなり驚いた。


今まで行った500の世界も魔力が無いところがあったけど数えるほどで4つ程しかなかったが、宝石から得たエネルギーを行使したり、精霊から力を借りる形で魔法に近いものを使っていた。

世界規模の大きな活動をしていれば顔がバレてくる。裏方に徹していたがシンくんに発覚されるのはちょっと恥ずかしい。だから後進を半年で育成してきっぱりと離れることにした。

それが半年前かな。

3年半でアジアとアフリカの水問題は順調に快方へと歩みを進めていき、頑張った甲斐があったと思う。

エリュトリオンに帰る前、コスモ様に挨拶に行くと地球の神様全員が私に感謝してくれて『人助けって楽しい』と更に思った瞬間だった。

残った半年間は六聖神へのアポ取りを行って万全の状態でシンくんを迎えた。同時にお父様を捜索したけど見つからなかった。何処にいるんだろう?


「シンくん、こんな感じだよ。」

「へぇ、世界を500も救ったり結構地球で色々やってくれていたんだ。ありがとう。」

「やっぱり恥ずかしいね。自分の過去を語るのは。」

「んじゃあ、俺たちは俺たちに出来ることを頑張りますか! 」

「うん! お母様を止める為にっ! 」

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