第39筆 不意打ち
「ウィズム、ピットって一体何なんだ? 」
「ピットとはボクの支援型ミニロボットですよ。ピューイちゃん~。」
ウィズムの背中から“ねんどろいど”サイズの小さいロボットのような生き物が出てきた。ウィズムが命名した割にはまあまあ許容できる名前だった。
「ミューリエさまに名付けていただきました。シンさまの自動成長、自己成長機能凄いですね。ボクの力が制御できないことを悩んでいたら背中のハッチからこの子たちが出てきたんです。ボクの悩みに呼応して身体が生成したみたいです。ステルス機能も持っているので姿を隠すことがあります。普段は身の回りのお手伝いをしてくれてます。私の身体のメンテナンスを手伝ってもらったり、ツインテールを結わえて貰ったり、ヴォルフガングさんのブラッシングをしてくれています。なぜかシンさまの前には恥ずかしがってステルス機能を発動するんですよ。なんと言いますかこの子たちはロボットというより人工精霊に近いです。」
「ピューイちゃん、宜しくね。 」
「ぴゅうう♪」
「あれ、翻訳されないんだ? 」
「ピューイちゃんたちの言語は未知の言語で話していて翻訳出来ないので雰囲気で考え方を理解しています。ボクとしても興味深い存在です。」
「へえぇー、面白いなぁ。」
「ぴゅうぅぅぅ! がぴゅうぅぅぅぅ。 」
ピューイたちの声が高いソプラノボイスから低い声に変わった。俺何かしたっけ……シュッ!!
え? 俺の首筋が出血している?
「キャアアアア!! 」
「あんちゃん、大丈夫か!? 」
道行く人々が心配して声をかけてくれた。この禍々しいオーラ、邪神教か!?
「シンさまっ! 敵襲です! 」
「シンくんっ! 生の神よ、偉大なるその御名を讃え、彼の者に癒しの祝福を与え賜え。『グレイテスト・ヒール!』」
だらだらと服に染み込み滴り落ちた首筋の出血が止まり、血濡れた手も水へと変わり切創が塞がっていく。赤かった服も湿った服になっただけとなった。
建物の影に人影が見えた。
「ぴゅうう! 」
ピューイが人影に向けて多分ガンマ線バーストビームだと思うが極細のビームを両手をかざして撃ち放った。
「うがっ! バタンッ。」
倒れた人影の元に寄ると灰色のローブを着た人で仮面を付けており、ピューイが放った『ガンマ線バーストビーム』によって額と左胸が焦げていた。
フォルムから女性だと推測できる。邪神教のメンバーだろうか。
「シン、これは邪神教が不意打ちを狙ってきたのだろう。しかし、すぐに倒される人員を送ってクシュトラは何をしたいのだろうな。チクチクと針を刺すようにして俺らを挑発しているとしか思えん。」
「詠唱の声が聞こえましたが何事ですか!? 」
サクシェロさんがドアを叩き開いて飛び出してきた。同じく
「ちょっとよろしいですか? もしかしたら知っている娘かもしれません。」
サクシェロさんが仮面を取ると頬下の皮が剥がれて筋繊維が剥き出しになった。仮面を接着剤でくっつけたような印象だ。ピューイちゃんが撃った焦げ目と美しい顔が露わとなる。
「シンさん……この娘はうちの支部の新入り冒険者です。一週間ほど前にEランクの依頼遂行中に失踪し、かねてより捜索を行っておりましたが、その捜索者も失踪。原因は邪神教だと睨んでおります。
解析します。『
倒れた彼女の額に手をかざして鑑定後、彼はただならぬ殺気を数秒ほど放ち、こめかみ周辺の血管が浮き上がり、拳を強く握りしめ「ギリギリィ」と音がなるほどの歯軋りをした後、怒っても仕方ないかと諦めたようにため息をついた。
「はぁ。怒っても仕方ないですね。鑑定の結果、彼女の脳が弄くられて通常の三分の二に萎縮しています。しかも脳に呪文の鎖があって、私が診た時に丁度消えました。これは闇の魔法と死の魔法が同時にかかっていて、激しい洗脳がかかっています。
死の魔法は禁忌中の禁忌の魔法。エルゼンハウズ様しか使用が許されておりませんが過去に何人か手を出した記録が残っています。それで彼女に対して作戦が失敗したら即死、成功しても即死の魔法をかけていたようです。邪神教は命を物として、冒涜して、いえ言葉では表現しようがない所業をしています。赦されざるものではありません。」
「死の魔法は私も使えます。」
周囲がざわめき始めた。禁忌中の禁忌。だがエルゼンハウズ様の娘たる彼女が使えても可笑しくはない。
「なぜミューリエさんが使えるのですか? 」
「私はミューリエ・エーデルヴァイデ。かつてエデンの一族の長で父エルゼンハウズと邪神いえ、母エドュティアナの娘です。その為生の魔法と死の魔法が使えます。」
「エデンの一族の長……! 」
「邪神の娘! 」
「こんな奴殺してしまえ! 」
「いや、彼女も被害者よ。落ち着きなさい。」
周囲の野次馬たちが更に激化して賛否両論の意見が飛び交った。ミューリエは複雑な表情で黙っていて、俺はこの状況が堪えきれず彼女を抱き締めた。
「なんとっ! 最高神夫妻のご息女でしたか! これは失礼致しました。それと皆さん……。」
彼女の目尻から涙の道筋が通り、落ちた。身体が冷え始めていて雪が降り始めたかのよう。予言したかのように彼女を中心として季節外れの雪が降り始めた。まるで彼女の心に呼応したかのように、いや魔力が動いている。降らせたみたいだ。
「邪神の娘と言えど彼女も被害者みたいなもんだ。表情を見ろよ。シンが堪えきれず抱き締めて守ってるじゃねえか。お前ら野次馬になるな。一人の少女を寄って集って苛めるんじゃねぇ。それでも立派な大人か!? 」
「すみません。」
「言い過ぎました。」
「そうよ、言い過ぎたのよ。」
もう、大丈夫だから。
彼女が抱擁を断って力強く踏み出した。
「いえ、良いんです。私が娘として止められなかったのもありますし、責任は感じています。」
「ミューリエは悪くない。原因が誰もわからないんだから。」
「ありがと、シンくん。皆さんの熱い想い、受けとりました。娘として今一度彼らと一緒に止めます。」
「おい、野次馬ども『
群がっていていたマックスさんに野次馬と呼ばれた通行人たちは去っていき、ギルドにいた冒険者らもドアを開けて戻っていった。
「すまねぇなお前ら。一般の奴らはあぁだから困る。捜索は引き続きやっておく。なぁに、洗脳にはかかりやしないさ。サクシェロは医者でもあるからな。」
サクシェロさんはハイスペックエリートメガネさんだな。冒険者ギルド イムロス支部
「もしかして、リヴォーリウスさんと友人ですか? 」
「あぁ、リウスくんとは旧い知己でしてね、今でも時々文通を送り合う仲です。まぁ、いわゆる幼なじみです。本を読みすぎて視力が落ちて眼鏡を掛けるようになりました。ミューリエ様、生の魔法で死の魔法を相殺出来るのは合っていますよね? 」
「様付けは要らないですよ。相殺は出来ます。
「少々複雑なものですが、倒すしかないようですね。引き留めてしまって申し訳ないです。」
「そこまで謝らなくても良いですよ。改めて行こうか。」
今度こそ出発したシン一行だった。めでたしめでたし。
……いや、終わってないから。
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