第40話「期待の信徒」
『中国の武漢市では、このウィルスの影響で。多くの病院が患者であふれ、いわゆる医療崩壊を起こしている……』
現実世界に帰ってきて、学校に行く準備をしていると部屋のテレビが中国のウィルスの話をしていた。あの国はいつも、ウィルスに悩まされてるよなあ。まあ、日本には関係のない話だけど。
「ウィルスってさぁ、サキュバスにも無縁な話じゃないのよねぇ」
「な、なんだよ、シルアいつの間に!?」
突然シルアが俺に話しかけてきた。
シルアはいつもどこからともなく現れる、いったいどういう原理なんだろうか。
「ほら、梅毒ってあるじゃない。あれが流行る前ってヨーロッパでも結構性に対しておおらかだったのよ。だから、あのころは男にも困んなかったんだけど、あのウィルスのせいで、他の女と浮気するのは絶対だめぇみたいな風潮になっちゃったから、あの時でだいぶ私たちの数も減っちゃったのよねぇ」
そんな話に興味はない。
それにあえて突っ込ませていただくなら、梅毒はウィルスじゃなくて細菌が原因だったはずだ。
そしてもっと突っ込まなきゃいけないのは、
「お前は一体何歳なんだ?」
梅毒がヨーロッパで蔓延したのって、中世だろ確か。
「失礼ね、女子の年齢聞くなんて!」
わざとらしく、口を膨らませてシルアはむくれた。
「いや、だって実年齢、ばばあなのは事実だろ」
「ババアッ? サキュバスの中じゃバリバリの若手ですけど! ルーキーですけど、私は怒ったわ、ちゃんと責任とって」
本当に怒ったらしく、ケツから伸びるサキュバスのしっぽがピーンとなっていた。
「セ、せきにん?」
「そうよ、ババアっていったお詫びに、あなたの朝のしぼりたてミルクをちょうだい♡」
あぁ、なんだ結局、朝一から現れたと思ったら、そういう狙いでしたか。それならばお安い御用です。
俺が倒れてる間、シルアには寂しい思いをさせてしまったから。
——ということで、学校に行く前に朝一から、「合体」
思った以上に、この合体には時間がかかってしまい、早速俺は学校に遅刻した。
予想通りなのだが、シルアは一発だけの生絞りでは満足してくれなかった。
二日ほど学校をさぼって先生にこっぴどく怒られたあげくに遅刻である。もはや俺の内申点は絶望的だろう。もし指定校推薦で大学行きたいって言っても、きっと冷めた目で見られるだけなのは容易に想像がつく。
昼休み、案の定呼び出しを食らい、俺は職員室へと出向いた。
目の前にははげた担任がいる、名前はなんだっけかな。普段ハゲ田と呼んでいるから○○田なんだろうが……。
あぁ今からハゲに怒られるのかと思うと気が重い。いっそのこと、夢に連れて行って「ドーン」をぶちかませられればこんなに楽なことはないんだけどなあ。
「二日さぼって、遅刻してくるとはいい度胸してるな聖夜」
早速のお説教だった。
「す、すいません体調がよくなかったもんで……」
「ほう、また雷に打たれたとでもいうのか?」
「いえっ、まあでも雷の影響はまだあるんで、ちょっと朝は辛かったりします」
「……ふん、まあいい。本当は大目玉なところなんだけどな、いまやお前はうちの高校の期待の選手となってるからな。今日は別に怒ろうと思ったわけで呼び出したわけじゃなくて、今日あたりから正式に陸上部で練習しないかっていう話だ」
——ん、あっ。
そうだ、いろいろありすぎてすっかり忘れていたが、俺あんとき、やり投げで世界新記録をたたき出していたんだった。そりゃあ、陸上部はいれって言われるよなあ。
「い、いやそのですね」
正直、それはめんどくさいなあと思いつつある。下手に目立つと、今後悪魔と戦った時とかに影響が出そうだし、なにより練習したくない。
なぜかわからないが、本当に練習をしたくない、運動はシルアとピアニッシモの相手だけで十分だ。
「なんか、この間ちょっと槍投げただけでとんでもない飛距離だしたらしいじゃないか。先生が大変興奮していたよ、インターハイなんて余裕どころか、オリンピックまであるって」
「オ、オリンピック!?」
そういや来年は東京でオリンピックがあるんだった。そうだよなあ、あんだけ飛ばしてたら、そりゃあ期待されるか。
「校長も大変期待してるからね、もしインターハイとかで優勝しようもんなら、推薦とかはいくらでも出すって言ってたよ。まあ最も、わざわざこちらからお願いしなくても大学が黙ってないだろうけどな」
む、なるほど。そうか、将来がかかってくるのか。
すっかり虚栄心などはなくなってしまったが、実利があるならば話は別だ。確かに今のおれの力ならばインターハイどころか、オリンピックもぜんぜん視野に入る。そうならば、大学はおろか、企業への就職まで見えてくるなあ。
サキュバスに出会ったばかりに不幸なことばっかり起こると嘆いていたが、いいこともあるんだなあ。
女には困らないし、将来の展望も見える。
とはいえ、代償として俺は命をかけているわけなんだが。
そんな話を受けて、今日にでも陸上部にまた顔を出すようにと言われたのだが、体調が悪いということで今日はお断りをした。そのままいつものようにけだるそうに午後の授業を終え、帰路へ向かった。
そしてその帰路で、俺はある少女と出会った。
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