第31話「道路交通法という悪魔」

 思えばあいつは、俺が学校にもどってきたときからおかしかった。意味ありげにあとで紹介するとか、なんとか。

 そして極めつけはさっき、LINEで送られてきた写真だ。

 メイド服の女の子と仲良くほほを並べたの写真、ぽっちゃり男のあさましい姿がそこにはあった。

 なにが、『俺の天使』ですだ、バカヤロー!

 天使なんて言うのはそんな可愛い姿じゃねぇってこと俺は知ってるんだよ。この間、戦ったばかりだしな。


 というわけで、俺の周りで虚栄心の悪魔にとりつかれてる奴と言えば、健史たけふみしかいない。かわいい女の子を彼女にしたい、という虚栄心のためにあいつは一体金をいくらつぎ込みやがった?

 このメイドが絶対素人なわけがないし、何もないのに、健史の元にこのかわいい女の子がすり寄っていくわけはないんだ。


 早速、俺は健文に電話をする。


「よう、今どこにいるんだ?」

「ん、いま東京に向かってるんだけど」

 電車内で、電話に出るなよ。かけたのは俺だけど

「秋葉原か?」

「……おっ、よくわかったであるな?」

「分からないわけっ、あのメイドに貢ぎに行くんだろ?」

「——貢ぐとは無礼な……俺の気持ちを金銭で表してるだけだ。他のやつらとは違う。聖夜にも言おうと思っていたが、俺らは恋人同士なんだ、照れくさいけどな」


……完全にあかん奴やん。


「それを貢いでるっていうんだよ」

 と言った瞬間、テロンという音がして俺のスマホから音が消えた。どうやら、ご立腹の健文は通話をきったらしい。


「完全に、悪魔に毒されてるわね」

 横から話を聞いていたシルアがうなずきながら言う。


「もともとこういうやつだが、それでもケチな側面もあるからな。女に貢ぐタイプではない」

 そういえばさっき休み時間に、持っていたプレミアがつくカード類は売り払ったといっていたし、ずいぶん貢ぐ気でいるようだ。


「急ぎたいところね、拡散スピードが遅いとはいえ、東京という人口の多いところに行ってしまったら影響力は顕著になるわ。さらに、もし私たちが悪魔に気づいたことを悪魔側が気づかれたら……」

「……ばれているなら潜伏する必要がない、一気に加速する」

「そういうこと、急ぎましょう」

 なんていうか、悪魔というかウィルスみたいなやつだな。潜伏期間があって発症が遅い方がより多くの人間に影響を与えやすい。


「それにしても、どうやって追いつくかな。シルア東京まで飛んで行ったりできないのか? 翼生えてるわけだし」

「無理よ……現実でできることは多くないわ」

 だろうね。

 さて、どうする。健文はすでに電車に乗ってる。追いつく手段なんてなさそうだが、さすがにあいつは各駅停車で行ってるだろう、新幹線の通ってる駅まで行くことができればワンチャンありそうだな。

「問題は、こんな田舎だと1時間に1本くらいしか電車が来ないってことか。新幹線に乗るまでに2時間はかかる」

 できれば秋葉原駅前で待ち構えて、やつの身柄をおさえたい。


「車で駅まで向かえばいいじゃない?」


「無茶言うな、車なんて持ってないし、運転もできない」

 高校生で無免許運転するようなヤンキーになるのはごめんだ。


「……大丈夫よ、校長先生に送っていってもらいましょう」

 な、何を言ってるんだシルアは。


「そんなことできるはずがないだろう」


「——大丈夫よ、とっくに校長は私の奴隷だから」

 

「……」

 なるほど、どおりで国籍のよくわからないサキュバスたちがポンポンこの学校に転校してくるわけだ。

 俺は心の動揺を隠すような笑顔でシルアを見る。

「怒ってるの? ——大丈夫よ、その連中とはやってないから、やったら死んじゃうし」

 まあ別にシルアが誰かとやっててもさすがに文句は言うつもりはないんだが。

 むっとしてたかな、俺。 


 それにしても、連中……? ほかにもいるのか、なら一番の被害者は先生たちと言えるだろう、俺はサキュバスがやってきてから楽しい毎日だ。


「やらせる前の方が男のコントロールは楽なのよ♡」

 ひどく説得力がある言葉で怖かった。


 ということで、シルアは校長室に向かうと、普段は無駄に話を長くさせるしか能のない校長を俺の前に連れてきた。まだ職務時間であると思うのだが、なぜか校長は、笑顔で俺とシルアとピアニッシモを自分の国産高級車に乗せて、新幹線が到着する駅に向かって出発するのだった。

 

 途中、校長はかなりのスピードで駅に向かって突き進み、スピード違反はもちろんのこと、下手すりゃ赤信号を無視するというなんとも無謀な運転を行った。

 いやシルアがやらせたのだろう。

 すいません校長。あなたのせいではなく悪魔のせいなのです。


「どうだ、私の運転はすごいだろう?」

 どうやら校長もまた虚栄心の悪魔にとりつかれているらしかった。


 そして何とか、新幹線にたどり着いた俺たちは、予定通りそれに乗れば健史を先回りできるはずだった。ところが……

「しまった……おれ3人分の新幹線代なんて持ってない」

 盲点だった、すっかり俺としたことはお金の計算を忘れていたのだ。


「大丈夫よ」

 絶望に打ちひしがれる俺をよそ眼にピアニッシモは誇らしげである。


「私が何とかするよ」

 何とか……? なぜピアニッシモはそんなことがいえる?駅員でも眠らせるつもりか?

 いや、そうか。

 紙製のものならばどんなものでも、具現化できる。それがピアニッシモの能力だった。切符もまた例外ではなく紙製か……。(磁気データごといけるのかな)


「でもまあ、それって有価証券偽造だな……」


「なにそれ、私知らない」

 ピアニッシモは全く罪状に興味はないようだった。


「スピード違反、信号無視、それに有価証券偽造、校長に対するのも何かありそう……まあいまさら気にしてもしゃーないか」

 あきらめることにした、きれいごとで正義の味方はできない。正義の味方のつもりはないけど。

「一つ忘れてるわ、聖夜」

 シルアがにやにやこっちを見てる。

「なんだ?」

「外でHするのもダメなんでしょ?」


 公然わいせつ罪だな……





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