第34話「最悪の攻撃をする悪魔」
「あぁぁぁっ……」
うめき声が俺の口から洩れる。この痛みはなんだ?感じたことのないような鈍痛が体内から広がっていく。
腹部を中心にどくどくと音が聞こえるように痛みが広がる。そしてその痛みは、へそのあたりを中心に全身に広がって、さらに中心の痛みはさらに鈍く……いや鋭くなっていく。
『けけけっ、ずいぶん虚栄心を大きくしてしまったみたいだな、お前が大きいおかげで簡単にお前の中に入れたぜ』
どこからか声がきこえる。……それは、俺の体内からか、骨を振動して声が聞こえてくる、不思議な感覚だ。
「——ぐっあああ」
何かを答えたいが俺はうめくことしかできない。
この声の主が虚栄心の悪魔であることは間違いないだろう。なんだ、俺の体内の中に入ってきたのか?
いつの間に……いったいどういう敵なんだ?
『……へへっつ動揺してるな、巨根の兄ちゃん、わけわかんねえって感じかい? もう俺の勝ち確だから自己紹介してやるよ。俺の名前は、『シラデレン』虚栄心の悪魔だ。お前の近くを探っていたらな、最高の住処を見つけたのよ、この男は住み心地がよかったぜぇ』
シラデレン……? この男っていうのは、健史のことか、そりゃあ虚栄心の塊のような健史はさぞかし住み心地がいいだろうなあ。
「ぐっ、ぎぎぎ」
だが声は出せない、苦しそうな表情で俺の身に起こってることをシルアに伝えようとする、腹部に手を当て、ここが痛いと訴えようとするも、痛みで手も動かない。電気攻撃の時とは痛みの種類が違う、体内から伝わる死を意識せざるを得ない痛みと俺は戦っていた。
「どうしたの? 聖夜、そんな顔して、たまってるの?」
……ばかやろー、たまってるくらいでこんな表情を見せねぇよ。死にそうなくらい痛いんだ……お前の力で何とか回復できないのか?
『いいこと教えてやるよ、俺はいまお前の細胞を急激にガン化させている。いてぇだろ、苦しいだろう? そうだなお前が死ぬまで、あと10分ってとこかな』
ガン化だって? ガンてあの病気のガンか? 我ながら頭の悪い質問だが、頭がまともに回らないくらい腹部に激痛が走ってる。
あと10分? 体内から攻撃されてるんじゃどうしようもねぇじゃないか!
「ぐ、ぐっぅうシ、シルァア、か、かいふぐを……」
必死に声を振り絞る。 シルアの能力なら何とかなるんじゃないか、お前は何でも直せるはずだ。
それを聞いてようやくシルアは俺の異変に気が付いたようだ。慌てた様子で、俺に寄り添って肩に手を添える。
「ど、どうしたの何が起きてるの?」
状況を説明しなければ、痛みには少し慣れてきた。
「……た、たいないに……悪魔に、入られたっ。——ガ、ガンだ、ガンになってる、俺は」
少ない情報しか伝えられないが、それが俺の精いっぱい。すると、頭の中にシルアの声が聞こえてきた。
(落ち着いて……夢の中でなら、私たちはテレパシーで会話できるんだから、こっちで話して、無理して声を出す必要はないわ)
そうだった、痛すぎてそんなことも失念していた。
(シラ何とかっていう悪魔がどうやら、俺の中に入ってきたらしい。そしてそいつは俺の腹当たりの細胞をガン化させて、あと10分ほどで俺を殺せるらしい)
(……シラデレンかしら、聞いたことあるわ。そうね思い出したわ、そいつはとても小さいって聞いたことがあるわ、体内に入れるくらいとは聞いたことないけど)
(まあそいつのことはいいんだ、早くシルアの治癒能力で何とかしてくれ)
今は敵の考察より俺の体を何とかしなければいけない。痛みはさらに拡散している。タイムリミットは刻一刻と迫っている。
(……困ったわね、私の能力は、自然治癒能力の促進で、新陳代謝をよくするものなのよ)
(それの何が困ったんだ?)
(もし、それを使った場合、ガン細胞はさらに勢いよく拡散していくわ、残念ながら私じゃ助けられない)
何だって……!?
確かにガン細胞は、細胞分裂が進めば進むほど広がるわけだから逆効果か……絶望的じゃないかっ!
(どうすりゃいいんだよ、これ)
(わからないわ、まさかこんな攻撃してくるなんて)
敵が大きくないということで、油断していた。まさか小さいということが最強の敵に変わるなんて……
『ひゃひゃひゃ、どうするんだモテモテの兄ちゃん、もうすぐガンは体中に広がるぞまだ、小腸に広がってるだけだけどな、そのうち一気に行くぜ、しってるかお前みたいな若いやつがガンにかかったらすぐなんだよ、ひっひっ』
骨を通じて再びシラデレンの声が響く。なんて嫌な奴なんだ。くっそぅ、本当にどうすればいいんだ、このままじゃ死ぬ。
考えろ、考えろ、俺は夢の世界なら最強だ、何でもできるはずだ、すでに何人もの強敵を倒してきた、こんな奴に負けてたまるか。っていうかなんだよ、ガンにするって……反則過ぎるだろ、あの最強のサイヤ人だって病気には勝てなかったんだぞ。
ガン……
普通どうやって直すんだ? あんま知らないけど、抗がん治療か、それか手術するしかないよな。——手術、……切る、切除。
(なあ、シルア……死んでさえいなければ何でも直せるんだよな?)
(ええ。時間はかかるけど、何をするの)
(……覚悟を決めたよ)
方法は一つしかなかった。
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