第35話「死と絶望の悪魔」

 俺は『ドーン』の威力や範囲とか、方向を調節できるようになっている。そして今なら、さっきまではわからなかった敵の位置がはっきりわかっている。愚かなことに敵は自分がいる場所を俺の腹部だとばらした。

 だから今なら、狙い撃ちが可能だ。


 やるしかない。他に手なんて考えられない、問題は同時に俺も死ぬかもしれないということだが、どうせこのままだと死ぬんだ。


(……シルア、だめだ、すっかりしおれちまってる。なんとか勃たせてくれ)

 テレパシーでシルアに伝える、このテレパシーはシラデレンには伝わってないらしい。おれの「ドーン」には俺の愚息がギンギンになってなければ使えないという欠点がある。

 アクティブな戦闘の時なら、その興奮で勝手に盛り上がることもあるが、今回みたいな陰キャ攻撃では興奮のしようがない。だから、シルアに立たせてもらうしかない、我ながら最低なヒーロー像だと思う。

(……何をする気なの聖夜)

(いいから勃たせろ!)

 俺は強く命じた。

 するとぴくっ体をこわばらせたシルアは、すぐに行動を切り替えて、手際よく俺のズボンとパンツを脱がし、そして現れたいちもつに躊躇なくかぶりついた。

(ちょっ……)

 そんなことまでは期待してない。手でさするくらいでよかったというのに。ダメだって、もしこの俺の英雄譚が伝説となってアニメ化されても完全に放送できんぞこんなん。

 だがおかげで、フルモッコリだぜ


 咥えるシルアを振り払って、俺は右手でモッコリの位置を調整してググっと俺の腹部に向くようにする、狙い場所は痛みの中心となっているあたりだ。

「聖夜……まさか!?」

 そのまさかだよ。

 どうなるかはわからないが、俺のドーンで、悪魔をガン細胞ごと消し去ってやる。

「……シルア、回復は頼んだぞ」

 範囲を腹部に絞って、さらに貫通力を高めるイメージをする。


『おいおい、何を考えてるんだぁ?』

 腹部にいる悪魔からも声が聞こえる、大丈夫だ、声の振動のおかげで、こいつの位置は完全に把握できた。

 行くぜ。

「ピンポイントツォォォォォ、ドォーーーーーーーーンッツ!!」

 

 放った瞬間、まばゆい光と激しい音とともに腹部に激しい衝撃が襲う。あまりの強烈さに、一瞬何も感じず、体の一部から何かが消えるという奇妙な感覚だけが残った。

 しかし……、

「ううっぐぁあぁぁっぁぁっ!」

 すぐさま、激しい痛みが俺を襲った。

 痛いとかそういうレベルじゃない、目の前がボヤっとして、真っ白になりそうになる。この間、感じた電撃の痛みの比ではない。

 おかしい、おかしい。

 そのまま、その場に俺はうずくまる。

 うずくまる、うずくまっているのか、わからない、ただ、痛みとともにゆっくりと時間が流れていく、ゆっくりぃとおれのからだは、たおれこんでいく。

 いたい、いたい、いたい。


 おかしいな、手を腹部にあてようとする。おかしいな、でもそこには何もない。お腹から何かが零れ落ちそうになる、受けとめなきゃ、ゾウモツガソトニデテイッチャウ。

 

 あれなんで、おれはまだたおれていないんだろう、こんなに痛いのに、なんで俺はまだ立ってるんだ?


 ——そんなことはなかった、俺はもうすでに地べたをはいつくばっていた、地面一杯に血液が広がっていて、そして俺の口元にもそれが来ていて、鉄の味がする。

 そして誰かの声が聞こえる、近くにいるはずなのに遠く聞こえる。


「……いや、せいや、せいやぁ、、、しっかりしてぇええ」

「……っつああ、ぐぁぁ、つぁっぁ?」

 俺の体はどうなってると聞いたつもりだが、声がでない。


(聖夜、なんて馬鹿なことをしたのよ……死んじゃうわよこのままじゃ)

 そうかテレパシーが使えるんだった、頭の中にシルアの声が聞こえる。

(……ほかに手はなかった、倒せたか?やつは)

 頭が動かないから、自分の体を確認できない、正直意識を失わないのが不思議なくらいなので、当たり前だが。


(それは、多分消滅したと思うけど……でも、聖夜、このままじゃ本当、もうバカっ!)

 気が付けば俺の体はシルアによって抱きかかえられていた。そしてシルアの体からとてもあたたかいぬくもりを感じる。シルアはどうやら全力で回復させてくれてるらしい。

(どうなってるんだ、俺の体?)

 目の前が真っ暗だ、もう俺は目もあけられない。ようやく俺の体から血がだらだらと流れているという感覚が出てきた。死ぬかなあ

(どうもこうも……背骨ごと、小腸だが大腸だとか消えてなくなっちゃってるわよ……幸い残ってる部分があるから、なんとか元に戻せると思うのだけど)

(……そ、そう……か)


(聖夜、もう眠っていいわ、あとは私が何とかするから)


 そうか。


 じゃあ、頼んだシルア。


 ——オヤスミナサイ。




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