第37話「絶望と失望の悪魔」
「なあなあ、聖夜やっぱコスプレ女っていいよな」
豚鼻を鳴らしながら、息を荒く健史は言う。
「まあな、嫌いじゃない」
「あんな無防備な格好を外でさらすとか、やらせてあげるって言ってるのと同じだと思うんだよ俺は」
「声が出けえよ」
相変わらずそんな、全女子が全員ひいてしまうようなことを教室で話す健史。しかしお前の説が事実だとしても、健史にやらせてあげることはないと断言してやろう。
「ということで、急ではあるが今夜渋谷に行かないか」
「何が、ということなんだ?」
「つまりはだ、ハロウィンで浮かれてエチエチな格好をしているバカ女どもで俺たちの童貞を捨てようということだよ」
「うーん、全く話が見えないが、お前がそんな考えな限り、彼女はできないと思う」
すげえ女を下に見てるんだよなあこいつ、女に敬意がないやつが、女と付き合えると思うなよ。
俺はなんだかんだでシルアのことを尊敬しているからな。
ん、あれ、シルア……?
誰だっけ、それ。
「まあ、いいから渋谷のハロウィンにいこうぜ、見るだけでも眼福ってもんだろ」
「うーん、そうだなあ童貞捨てられるというお前の説には何の根拠もないが、興味がないわけではないな」
「いやいや、俺の説は絶対に正しい。コスプレをするような女はビッチに決まってる。強く迫れれば絶対やれるはずだぜ」
「……エロ漫画の見過ぎだな」
「いかないのかよ?」
「わかったわかった、お前みたいな危ないやつを、一人で渋谷に放つわけにもいかないしな」
「……なんだその言い方、なんで上からなんだよ、お前も俺も同族だろ?」
無礼だな……俺はお前と違って童貞ではないし、むしろ日本で一番ヤリヤリな日々を過ごしているといっていい。
あれ、おかしいな。
おれはこの光景を知っている。確かに俺は健史に渋谷のハロウィンを誘われたはずだが、もっと気分はノリノリだった。
なぜこんなにも達観した気分なのだろう。
「……せいや、聖夜」
背後から声がする。振り返ると、目の前に角を生やした褐色の肌をした裸の女が現れた。
もちろん、その女のことはよく知っている。
俺の愛する女だった。
「いつまでも眠っているから夢の中に入ってきちゃった」
「……夢の中に?」
「そう、夢の中、聖夜は今健史君の夢の中に入ったまま、自分もまた夢の中にいるわ」
「……じゃあ君は夢なのかい。……ごめん名前が思い出せない」
名前が出てこない、さっきその名を思い出したような気もするけれど、それになぜだろう、いま目の前で話している女の顔がはっきりと見えない。ぼんやりとしている。
「私はうk@「う6&0ゆあくたほ」
「ん、なんだって?」
「はっきりしてよ、聖夜、もう体はなおってるんだから」
——そうか、これは夢なんだ。
わかってる。
早く起きなきゃ。
起きなきゃ、大変なことになりそうな気がする。なんだか心地の良い夢だけだけれども……このまま寝てるのは良くない気がする。
早く起きなければ。
起きろ! 起きろ!
おきろぉ――おれぇっつ!
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