第33話「見えない悪魔」

 すると、周囲にいたメイドたちが一斉に俺

に襲い掛かってきた。

 いや、襲い掛かってきたのは正しくない。やつらは拳銃を手にもっており、それを一斉に手に取りこちらに発砲し出したのだ。俺にはそれから逃げる手段はなく、ぱぁんっ!ぱあんっ!ともろに食らった。


「……いってぇなあ」

 6発か……

 右肩、額、右足、左足、腹部に二発。

 俺の体に銃弾が刺さった。 

 ——いたい、もちろんいたいがそれだけだ。


「な、なによあんた、何を平気にしてんのよ」

「……頭に食らってるのに」

 メイドたちは愕然としている……というか俺もここまで平気だとは思わなかった。すげえな俺の体、そんな9㎜の弾じゃ俺の体は抜けねえってことだ。

 抜きたかったら、もっと身体を使うことだな。


「おい、素直にそこをどけよ、ケガをしたくないだろ」

 相手が女かどうかも実はよくわからんが、一応女は殴りたくない。


「ひるまないで、死ぬまで撃てばいいだけっ」

 メイドのリーダーらしき女が指揮して、メイドどもがさらに発砲を続ける。

 ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!

 銃声が聞こえて、俺の体に刺激が走る、そう、これは刺激だ、衝撃ではない。血が飛び散って、俺の視界にも広がる。

 メイドの服にもおれの返り血が飛び散る。

「ひいっ」

 メイドはおもわず退く。


「ちっとも効かねぇな! おら、もっと撃って来いよ、ちっともダメージねぇぞ」

 あぁ、気持ちいいな。 相手が絶対優位にもかかわらず、それを簡単に覆していくのはすごく気持ちいい。



「ひゃぁぁっ」

 悲鳴を上げて、メイドたちは一斉にその場から走り去っていった。


 倒さないで済むのは良かったが、しかしまあやられっぱなしか。割に合わないなあ。


「ねぇ、だいぶ虚栄心の影響を受けてるわよ、気を付けて。こんな勝ち方する必要ないでしょ、なんでわざわざ銃弾受ける必要があるのよ?」

 言われてみればその通りだった。気がつかないうちに気が大きくなっている。

 そういえば、シルアは今の銃弾攻撃をどうやって避けたんだろう。


「さて、行くか。いるんだろう? この建物の中に?」

「……確実に悪魔の気配があるわ、気を付けてね」

「——心配ない、今のおれに勝てる奴なんかいねぇよ」

「……もうっ。思い切り影響受けてるじゃない!?」

 ん、そうか?

 当たり前のことを言ってるだけだけどな。どうやって俺の体を傷つけるというんだろうか?

 とりあえず、その『迷ドリーム』と出ている看板の建物の中に入り、すぐに階段ありったのでそれをゆっくりと進む。

 そして、『おかえりなさいませご主人様』という札がかかっている扉を開ける。残念ながらその言葉はどこからも発せられず、全体的にピンク調の部屋の中には誰もいなかった。

 誰もいないが不気味な感覚はある、何か良くないものがここに潜んでいる、そんな気がしてならない。


「姿を現さないけど、ここに悪魔がいると思うわ、微かだけど匂いがする」

 シルアはそんな風に言うが、勿論においは俺にはわからない。サキュバスにしかわからないそんな悪魔の出すフェロモンみたいなものがあるんだろう。


「今まで見てきた悪魔はサイズがあったようにおもうけど、この部屋にはそんな誰かが隠れられるような場所ないようだけどなあ」

「……うーん、わたしも虚栄心の悪魔の姿も名前も聞いたことないのよねぇ。そのくらい地味で陰気な奴なのよ」

 地味で、陰気か。

 なんというか、健史には悪いんだが、健史の夢の中にいるっていうのはお似合いって感じだな。

 周囲を見回すが何も見当たらない、なにかいると思ったのは勘違いかもしれない。


——っぁ。


 ん、そのとき、なんかささやくような音が俺の耳に入ってきた気がした。はっきりは聞こえないがどこかで声が聞こえたような、最近俺の耳はいいのだ。もっと集中して耳を澄ます。


「……なんで、なんで、なんでここに来るんだよ、来るんだよ、しかも女連れかようぜぇなうぜぇな……」

 すると部屋のどこからか、つぶやくような声が聞こえる。

「しねしねしね、なんで隠れてんのに探しに来てんだよ、うぜぇ、うぜぇ。どうせ俺は優れてるとか思ってんだろ、女ずれだからっていい気になるなよ。早く出てけよ、出てけよ、出てけよ」

 ぶつぶつぶつと、同じ言葉を声の主は繰り返す。

 おかげで、音の方向はどこにあるかはわかった。だが、そっちの方には、メイドが歌う用のステージがあるだけで、誰もいない。隠れるようなスぺースもない。どういうことだろう、もしかして姿が見えない敵なのか?

 この疑問をそっとシルアに耳打ちする。

「そうね、可能性はあるからとりあえずぶっ放してしちゃえば?」

 シルアは素晴らしい解決策を示してくれた。確かに姿が見えないにしても、声の方向に「ドーン」をぶっ放せば、何らかのダメージは与えられるだろう。幸い、俺の『ドーン』もある程度、方向とか範囲を調整することができるようになったし。


「じゃあ、いっちょやってやりますか」

「やっちゃって」

 シルアは俺の耳元でそうささやきながら、耳たぶをなめる。そしてシルアの手は俺のモッコリちゃんを優しくさすった。(こうして多少なりとも刺激を与えないと、ギンギンにならず、ドーンが打てないのだ)

 俺は声の主の方に、照準を合わせ、そして放つ!


『ドーーーーーーーーンッ!!』

 ワイドバージョンだぜ。

 どこに敵がいるかわからないので、とりあえずそのステージを覆う位に広がるようにエネルギーを放った。逃げ場はないはずである。


 反応はない。


 達成感は全くないが、ひょっとして倒してしまったか?


 ——その瞬間。


 「ぐほっぅぅ」

  俺の腹部を強烈な痛みが襲った。

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