第9話「嫉妬されてるうちが華という悪魔」

「シルア・・・・・・いつの間に」

「とにかく教室を出ましょう、ここはみんなおかしいわ」


 確かに言う通りだ。そしてシルアが俺の近くに来たことでクラス中の男の目がこちを向いてしまった。

『聖夜ーーっ、なんでお前がシルアさんの近くにいるんだ』

『席も前の席に来やガッテ、オカシイーーダローっ』

『てめぇ、イブちゃんと仲良くしてんのも実は気に食わねーんだよ』

 無数の嫉妬の声が聞こえてくる、今にもこちらに襲い掛かりそうでさえある。


「走って」

「お、おう」

 俺とシルアは、走って教室を出ていく。すぐ近くにいた健文はシルアの腕をつかもうとしたが、シルアはすぐさま健文を眠らせた。


 教室を出てすぐにシルアは「目をつぶって」というので、言われるがままに俺は目を閉じた。シルアの手がそっと背中にふれるのを感じた。


「目を開けていいわ、とりあえず夢の中に逃げたから」


 あたりを見回すと、周囲に人影はなかった。さっきまでいた教室の中にも誰もおらず、無機質に机といすだけが並ぶ。そして先ほどまで青だった空は。なぜかオレンジ色で染められてしまっていた。


「電車の時と同じ光景だ、いったい何がどうなってるんだ」


「嫉妬の悪魔ギギリリスの仕業かしらね、たぶん」


「いや悪魔の話も気になるけど、いったいここはどこなんだ。夢に逃げたっていうけど」


「……そうねぇ、説明は難しいのだけれど、夢の共通部分ってところかしら。みんなが見ている夢はばらばらのようで共通してる部分があるわ。夢の基礎、舞台になる部分、それがここよ」


「さっぱり何を言ってるかわからねーが、でも夢に逃げたってことは身体は現実にあるんだろう。大丈夫か?」

 シルアの言ってることはわからないが、夢の世界はそういうもんなんだと認識しておこう。だが、夢の中というのなら、現実が心配だ。


「あなたの体は今のあなたそのものよ、現実世界の体をこの世界に送り込んでるって、前も説明したわね。だから、痛みも快楽も現実と同じ、気を付けて夢の中だから死んでも大丈夫とかそういうことはないから」


「……じゃあ現実世界の俺の体はどうなってる?」


「消えてるわね、ここにあるのだから」


 なるほど……原理はわからねぇけど、仕組みはわかった。要は異世界に行ったものと考えてよさそうだ。痛みもケガも現実のものなわけか。


「で、その悪魔とやらはこの空間にいると考えていいんだな」


「そうね、たぶん。ただ、私と同じで現実世界にいる可能性も否定できないわ。世界にはひずみが生じているから、そのくらいのことはあり得る」


「俺がやらなきゃいけないのか? その嫉妬の悪魔とやらを探して倒すのを」


「まあそうしないと世界中の人が嫉妬に狂うでしょうね」


「いいんじゃないそれは、それで」

 この間はたまたま、ワンパンで倒せたからいいけど次はもっと強くて死んでしまうかもしれない。

 世界の人が嫉妬深くなるだけなら、放置してもいいのではないか。


「まあでも世界中が嫉妬に満ちたら、どうなるかわかりそうじゃない?すぐ戦争になると思うけど」


「……確かに」

 他国の利益に嫉妬した国が、戦争を仕掛ける。そもそも戦争の始まりなんてそんなもんか。


「どっちみち、このままじゃ学校生活なんてできないでしょ。さあ探しましょ」


「ふう、やれやれ」

 とは言ったものの、正直さっきのは少しすねただけだ。やらなきゃいけないということはわかってるのさ。

 この空間にきた瞬間から力がみなぎってるのがわかる。どちらかと言えば、悪魔退治を楽しみにしているともいえる。

 だって、俺つええんだもん。


「学校で嫉妬が一番集まりそうな場所ってどこかしら」


「そこにいるのか」


「たぶんね……」


「なんだかんだ体育館かな、スポーツ苦手な陰キャがぐちぐち文句言ってそうだ」

 という俺もべつに運動神経なんかよくないから、楽しそうにスポーツしてる奴を見て「けっ」と思わなくもないのだ。


「じゃあとりあえず向かってみよう」


「体育館はこっちだ」

 と振り向いた瞬間、「探す必要などない」という声が聞こえた。


 目の前には大きな影が三つあった。


 大きな影とは比喩でも何でもなく、黒い色のガスのような物体が人の形を作っていた、文字通り影である。顔の目と口の部分だけがオレンジ色に光っている。

 ベルフェゴールも気味が悪かったが、見た目の不気味さはこいつの方が上回るだろう。


「ふふふふっ、ベルフェゴールがやられたと聞いたからどんな奴かと思えば、ヒョロヒョロとしたガキではないか」

「本当に、とても信じられんな」

「……ギギリリス様の手を煩わせるまでもない。ギギリリス直属の三人衆でお前らを葬ってくれるわ」


「3人衆が一人、ガリス、俺がだす熱でとけぬものはない、一度その熱が放たれたのならばたとえジェリコの壁でも、数秒も持たぬ」

 左の影がそう口上を述べる。


「3人衆が二人、グリス、俺が出す熱もまたすべてを溶かす、一度その熱が放たれたら最後、南極の氷が解けてミクロネシアが水没するであろう」

 次は右の影が負けずと口上を述べる。さすが嫉妬の悪魔、前のやつのセリフにさえ嫉妬するのだな。


「そして最後にこの私、ゴロス……俺が出す熱もまた…

「ドーーーーン、ドーーーーーン、ドーーーーーーーーーッン!!」

 最後のやつの口上など待たずに俺は、3連続ドーンで俺のエネルギーをぶつけた。

 

「「「ぐわぁーーーーーーーーーーっ」」」


 三つの影はそのまま散り散りとなった、その場から跡形もなく消え去った。


「聞いてあげればよかったのに……」

 シルアは悲哀の表情を浮かべた。


「長い話嫌いなんだよ俺」


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