第10話「すべてを呑み込むピンクという悪魔」

「あっけなかったな、それにしても」

 今回は相手の攻撃すら受けていない。やはりケンカは先手必勝、次もさっさと殴ろうと俺は心に決めた。


「ちょっと、聞いてなかったの? あいつらは配下に過ぎないわ。嫉妬の悪魔ギギリリスはあんなもんじゃない」


「調子に乗るわけじゃないんだけど、これ俺負けないんじゃね?」

 あふれ出るエネルギーを股間あたりから相手に向かって発射してるだけなんだが、簡単にワンパンしちゃうもんなあ。

 ただ、恰好があれだよな、股間以外から発射したい、せめて口からエネルギーを放出して相手にぶつけられないものか。いや口じゃなくて、腕にしたいな。


「なあ、これって股間以外から発射できないんか」


「ま、できなくはないでしょうけど。自分で感じてるようにあなたのエネルギーは股間を中心に循環してるのね。なんだかんだ今のドーンが一番威力が出るのだと思うわ」


「かっこ悪いなあ」


「……私は好きよ、そそり立つ男のモノって、素敵じゃない?」

 またしても、うっとりとしたまま俺のそそり立つあれを見ている。


「そりゃあ、シルアだけだろ……」


「ふふふ、まあ、でも油断しないで、悪魔が全部力推しで勝てるとは限らないわ……」

 と言った瞬間、周辺の温度が下がった気がする。そして徐々に周辺から明かりが奪われていく、徐々に薄暗くなっていった。


「そのとおり、私の力を部下どもと同じ程度には思わないことだ」

 どこからともなく声は聞こえてきた。全方位から聞こえてるようにも思える、やがて周辺の薄暗さの原因が黒い霧だということがわかってきた。

  周囲をを覆う黒い霧は、徐々に一カ所に集まっていき、人の形を作っていく。そして3mはあろうかという大巨人が誕生した。


「おかしい……学校の廊下の天井はそんなに大きくないはずだ」

 俺はまずそこに突っ込まなければいけなかった。


「聖夜、それは些細な問題よ、夢の世界なのここは。優先すべきは環境ではなくてキャラクターなのよ、当然、目の前に巨人が現れるならば環境もそれに応じて変わるわ」

 シルアよ解説ありがとう、そんなことだろうとは思ったぜ。巨人ができると同時に天井も高くなっていったからな。


「よくもゲリスたちを倒してくれたな、しかし奴らの体はしっかり俺が吸収した。あいつらの仇はお前らの悲鳴でもって償ってもらうぞ」

 大巨人の口にあたる部分が大きく開く。さっきの部下たちのようにオレンジ色に光っている。それにしても。


「ねぇ、さっきの部下たちにゲリスなんていなかったわよ」

 だよな、たぶんゲリスがいたら、爆笑してただろうし。


「……うるさいっ、ゲリスというやつもかつてはいたんだよ。まあいい、そういう上げ足を取ることしかできないぐらいお前らは追い詰められているということだな。改めて自己紹介をさせていただく、私の名は嫉妬の悪魔ギギリリス、民衆の嫉妬を誘い、そしてその嫉妬のエネルギーをわが‥……っ」


『ど――――ーーーーーーんっ!!」


「ぐぇーーーーーーー」


 またしても俺は口上を待ち切ることができずに先走りドーンをしてしまった。いわゆる我慢汁である。

 股間から発射されたエネルギーは、先ほど同様、黒い巨人の影を霧散させた、ギギギリスは文字通り霧になって消し飛んだ。


「なんだ、やっぱり楽勝じゃないか」

 達成感なんてない、なぜか射精感はあるのだが、大丈夫、それは出ていない。それにしてもやはりケンカは先手必勝だな。


「まって、聖夜、よけて!」

 勝ちを確信している俺に、シルアはそんな思いもかけない一言を放った。

 何のことかわからなかったが、気が付けば周囲が黒い闇に覆われていた。周りから、どんどん霧となって消えたはずの黒い粒が、俺の体を覆う様にして集まっていく。

(ぐっ、まさか、俺のパワーで消えたわけじゃなく、霧に戻っただけ……)


「ぐははははっ、俺の形状を見て気づくべきだったな。そう俺をパワーで打ち砕くなんてできないんだよ。このままお前を窒息させてやる」

 そういって、黒霧のギギギリスは俺の体を覆い拘束しながら、口元の霧の濃度を濃くしていく。徐々に息が苦しくなっていく。


(やばい、このままでは)


 エネルギーをこいつに向けてはなったところで意味はない。

 股間周辺だけはドーンすれば、霧を晴らすことはできるだろうが、肝心の口元はどうにもならない。


 何とかならないかとシルアの方を見ると、シルアはこっちに向かってなんだかよくわからないジェスチャーをしてる。まるで男のあれをなめるようなしぐさ、なめるというよりはバキュームに近いが、あいつはこんな時に何をしてるんだ。


(そうかっ、バキューム、吸い込むってことか)


 思いついた俺は、口元のギギギリスを思いっきり吸い込み始めた。


 ずぉおおおおーーーーーっ!


「な、何をするやめろ、な、なんだこの吸引力は」

 すごいバキューム力で俺はどんどんとギギギリスを呑み込んでいった。見る見るうちにギギギリスは俺の体内に吸収されていく。もうすでにさっきまであった周囲の霧は半分近くまで減っていた。


「そうよ、聖夜。あなたが乳首を吸うときの吸引力はとんでもなかったわ、ふふっ、そんなとこまで伝説のホーリーナイトなんて恐れ入るわ」


「俺が消えるぅ――――――――っ」


 そしてとうとう俺はギギギリスを吸いつくすことに成功したのだった。


「げぇっぷ……」


 大丈夫なんかな、こいつ飲み込んじゃって。

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