第24話「アガペーの悪魔」

「楽しそうだったじゃない、やっぱイブちゃんのこと好きなのかなあ」

 にやにやしながら、シルアは俺に聞いてきた。めんどくせぇ。


「……そういうんじゃないって、それに手を出すなとか言ってたのお前だろ」


「私はエロス担当だから、イブちゃんはアガペー担当でいいんじゃない。むしろそうあるべきよ、アガペーなんだから性欲混ぜちゃだめよ」


 アガペー……なんていう言葉を結構シルアは好んで使うので、この間ウィキで調べた。

 性交渉を前提とする情欲的な愛がエロスであり、そうではない自己犠牲的な無償の愛がアガペーである。その時、隣人や友人に対する愛が「フィリア」であることも学んだ。どちらかと言えば、イブに対してはフィリアじゃないかと思うのだが。


「……いわれなくてもさ、俺の性癖もおかしくなってきたからなあ、俺がやりたいことをちょっとイブに対してはできんよな」

 まあそもそも、イブは性的には対象外だとおもってるし。

 

「何それ……私たちにだったら何やってもいいって思ってるの?」

 怒ったふうにシルアは言うけど、もちろん怒ってるわけではあるまい。


「……少なくともピアニッシモに対してはやっていいと思ってる」

 あいつは本当に何でも受け入れるからな。


「……あの子は異常だからっ、うーん、困ったなあ。私はあの子に比べたらノーマルだから、ほんと、私は電気はNGだからね」

 

「っ、NGじゃないやつなんて、ピアニッシモくらいだろ!?」

 そういうとシルアは、声を詰まらせて言う。


「……それはどうかなあ、コケティッシュ6の中にはとんでもないのが一人いるのよねぇ……メンヘラを極めてるっていうか。常に何かを傷つけていないとすまないっていうのが」

 な、なんだそれ。

 やばそうだなあ。

「なんか、手首のあととか、ピアスの数とかやばそうだなそいつ」

 そして多分音楽の趣味はビジュアル系バンドか、ミオヤマザキ。サキュバスが日本の音楽を聴くかどうかは知らないが。


「よくわかったわね、手首なんてもうぼろぼろよ。包帯ぐるぐる巻きだし、体中のいたるところにピアスついてるし、痛々しくてあの子の裸とか見てられないわ」

 うひゃあ、そりゃあなんか想像を超えてるけど。少し会うのが楽しみかもしれん。と考えて、おれは顔から笑みがこぼれ出るのをおさえきれなかった。


「——ねぇちょっと……ひょっとしてサキュバスに会うの楽しみにしてない?」

「いやいや、そんなことは……」

 ありますけどね。


「その子は確かに聖夜好みの変態かもしれないけど、一番攻撃的でもあるからね、簡単に勝てると思わないことね」

 そうは言うけど、いまんとこサキュバスに負けるプランは思い浮かばないな。どれどれ、そのメンヘラちゃんが襲ってくるのを楽しみにするか。


「いたっ!」

 そんなことを考えていたら、急に肩のあたりをシルアにかみつかれた。

「……嫉妬しないわけじゃないんだよ、私だって」

 シルアはふくれ顔で、俺を見上げる。


「ごめんごめん、もちろん一番好きなのはシルアだから……」

「——ほんとかなあ、結局ピアニッシモとだってこの1週間で相当やりまくってるよね?」

「そりゃあ、だってそうしないとお前らは生きていけないし、それにこの間の戦いのせいでピアニシッモは、かなりのエネルギーを必要としてるんだろ?」


「でも、ピアニッシモとしてる時の方が楽しそうにしてる!」

「見てんのかよ」

 人の性交を観察しないでいただきたい。


「見てないけど、分かるわ!」

「なんだそりゃ」

「ピアニッシモの話をしてる時、顔がにやついてるわ」

「そ、そんなことはない……はずなんだが」

 とも言い切れない部分は、ある。ピアニッシモは何でもさせてくれるからなあ。


「……はっ、分かったわ。私主導で動くからいけないのね。……いいよ聖夜、今度からはあなたの好きなようにして」


「——いやいや、そういうことではなくて、シルアはシルアで今のままがいいよ」

 シルアの方が落ち着くし、楽できるし、安らぐんだよなあ。ピアニッシモに対してとシルアとでは、求めるものも得られるものもぜんぜん違う。シルアに対して激しい攻めのプレイをしようって気にはならないし、それはピアニッシモが求めてるものだからな。


 どっちがいいとかそういう話じゃないんだ。適材適所ってものがある。


 あれ、なんか、俺ひどいこと言ってない?

 浮気を正当化しているずるい男、まるで島耕作のようだな。


「私たちがサキュバスだからさ、仕方ないかって部分はあるけど、あんま私のことテキトーにしたら許さないからね」

「お、おう」

 それは、勿論わかってますよ。


 そういいながら、これ以上しゃべらせると面倒だと思ったので、俺はシルアの口唇をふさぎに行くことにした。

「ちょっ……、んん、もぅ」

 ふさぎながら、俺の手はシルアの秘部へと向かうのだった。


 そういえば俺の体は身動き取れないんじゃないかという話なのだが、夢の世界でのおれはあのたたかいの翌日には、すでに全快となっており、二人ともガンガンやりまくっていた。現実世界に不自由はあったが、夢の中ででは自由な性生活しており、むしろ楽園ともいえた。


 真面目に心配してくれているイブには本当に申し訳ないなと思う。

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