第19話「ゴムゴムの天使」
「どうするつもりなのピアニッシモ? あなたに何かできるとは思えないのだけど」
「そうね、私の能力でどうにかなったりはしない。でもお姉様には回復能力があって、私にはない、それが大切なの」
うん?
よくわからないことを言ってるな、それじゃあピアニッシモはシルアより能力が足りないってことだよな。なおさら、なんともならないんじゃないか。
「そして、多分シルアお姉さまより、私の方が雷の耐性があると思うの……」
ピアニッシモはそういうと同時になぜかうっとりとした表情を浮かべる。
「何を言ってるのよピアニッシモ、雷に耐性があるサキュバスなんて存在しないわ、そんなのはあなたも知ってるでしょう」
まあ雷に耐性がある生物がいるとは思えないしな。
じゃあ一体ピアニッシモはどうするつもりなのか。
「食らってみたいのよ……電気の刺激を……」
再びとろんとした目をしながらピアニッシモは言った。
「は?」
俺は思わず声が出る。
何を言ってるんだこの女、目の前の恐怖を前にして気が狂ったのだろうか。
「一度、電気責めをされて以来、実は結構病みつきでさ。さすがに直撃したら死んじゃうと思うんだけど、ヤーハダ・マルーカに帯電してる奴に触るくらいだったら、最高にイッっちゃうんじゃないかと、期待してたりしてなかったり」
冗談というわけでもなさそうに、舌なめずりをしながらピアニッシモは言う。おいおい、昨日の段階でマゾ気質だとは思ったけど、なんだよ電気責めって……?
そんなマニアックなプレイ聞いたことないぞ。
「ピアニッシモ気持ちはわかるけど、あいつに触れて大丈夫なんて保証はないのよ」
気持ちわかるんかぁい!
「保証がないからいいんじゃん。それに万が一の場合にはすぐにお姉さまに直してもらうから」
「……なるほど、それで私じゃなくて、回復能力のないあなたがやる方がいいというわけね」
「そういうこと。問題は、あんな強そうな刺激を受けたら、私は大半のことでは満足しなくなるんじゃないかということかな」
そこは絶対に論点ではないと思う、どうか性癖より命を大事にしてほしいものである。
「じゃあ、ピアニッシモが危険を承知で、あの大男に触って夢の世界に送り込むということでいいのか?」
そんな危険なことを女の子にさせるわけには本来ならいかないのだが、この場合本人の性癖が重なってるから、拒否する理由がないんだよなあ。
「うん、そしてすぐにシルアお姉さまが私をサルベージして、回復してほしい。多分その時私は、はああ、想像しただけどもやばいかも……」
ピアニッシモは恍惚の表情を浮かべる。昨日一戦交えたときには見せなかった表情だ、どうやら電気性癖はマジらしい。
「ピアニッシモ、悦に浸るのが早いわ。それより問題はまだあるわ、そもそもどうやって近づくかよ、まっすぐすすんだらたどり着く前に丸焦げになりそうだけど……」
シルアは不安そうだった。相変わらず外では雷鳴が鳴り響き、時折窓の外から強烈なフラッシュが視界を覆う。雷が落ちる音は、シンプルに人に恐怖心を受け付けるものだ。雷は無作為に校舎を襲ってるようだ、この校舎、教室が狙われるのも遠い話ではない。
「それについては、私の能力を使うよ」
ピアニッシモは人さし指をたてながらかわいらしくいった。
「能力って、物質具現化?」
シルアが情報を補足する。ピアニッシモはそんな便利な能力を持ってるのか。それができるなら、何でもできそうな気がするけどな。
「なんでも作れるわけじゃないけどね」
そんな都合よくはないか……。
「それでどうするっていうのよ、まさかゴム製のものを身に着けるとかいうわけじゃないわよね」
ちなみにゴム製のものを身に着けていたからと言って、落雷を防げたりはしない。雷のように強い電圧のものは絶縁体をも貫くと昔、何かで見たような気がする。
「えっ・・・・・ダメなの? ラバースーツ着て特攻しようと思ってたんだけど」
「あほかぁっ!!スーツごといかれるわ!」
思わず全力で突っ込んでしまった。
ピアニッシモのラバースーツ姿というのもよだれもので、それはそれで見てみたいものだが、少なくともヤーハダマルーカの雷の前では気休めにしかならないだろう。
どうやらピアニッシモはあほの子であった。
大体ラバースーツが通用するなら、それ着て戦えばいいだけである。
「どうしよ」
一転して泣きそうな表情をピアニッシモは見せる。
そうだなあ、ラバースーツは意味ないとして……物質具現化能力があるなら、なんとかなるんじゃないか。
「なあ、ピアニッシモは、どんなものが具現化できるんだ?」
「うーんとね……」
尋ねると、ピアニッシモはいくつか例を挙げてくれた。
300g以下の金属製品、紙製品ならばほぼすべて、そしてコスプレ用の衣類ということらしい。
なんだか、絶妙に使えるんだか使えないんだかわからない能力だなあ。
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